Campus・Case(キャンパス・ケース)番外編追加しました!

紫紺

文字の大きさ
103 / 113

File No. 97 青酸カリ

しおりを挟む


「能代さんからの脅迫メールを最初に見たのは、吉川先生で間違いないですね?」

 逮捕から一夜明けた取調室。昨夜に引き続き捜査本部のある神田署では、入間、吉川両名の取り調べが行われていた。
 本日の吉川准教授への取り調べは、風見、田代の両刑事が顔を揃えている。

「入間教授は海外の学会に出張中でしたので……メールの整理も私の仕事でした」

 昨夜はさすがに眠れなかったのだろう。綺麗目なブラウスも縒れてるし、ファンデーションが皺に埋まって固まる姿は見る影もなかった。

 能代からのメールは単刀直入だった。犯行時刻に塩谷研究室に向かう教授を見たと。それだけならなんでもないのだが、能代は例の画像データの存在をほのめかしてきた。
 あの犯行時、塩谷教授からUSBは奪っていたが、やはりデータは削除されていなかったのだ。

「それで、自ら行動を?」
「まさか。入間教授に連絡しましたよ。困惑されてましたけど」

 教授は吉川に任せると言った。自分を待つでもいいし、なにか出来ることがあるなら判断は任すと。

「奥様と一緒でしたから。そういう時は、どういうわけか逃げ腰になるんで。教授は」

 ヤレヤレと言いたげな素振りを見せる。結局、吉川はさっさと決着をつけに行った。

「指定された場所に私が行くと、少し驚いてました。入間教授の帰国が一日遅れたのを知らなかったんでしょう」

 能代は吉川が来たことに別の要求も出来るのかもとスケベ心を持ってしまった。そこに隙があったのかはわからないが。

「能代君の要求は院の卒業後、入間教授の助手にして欲しいってことでした。それならあの時間に教授を見たことを警察に言わないと。あと、私とのことも黙ってるって」

 既に塩谷のPCは警察で捜査中だった。例の画像データは警察の手に渡ってると思った方がいい。
 だから、お互いがアリバイを証言した二人にとって、能代の証言は危険極まりなかった。

「どちらにしても、教授の下に能代君を置くのは避けたかった。脅迫され続けるなんて真っ平でしたから」

 吉川は能代がいつもリップクリームを常備しているのを知っていた。唇が荒れる質なのだ。
 庶民的かつ一般的なその銘柄のリップクリームを吉川は何本か購入した。用心のため、コンビニやドラックストアと購入場所を変えて。

「それに青酸カリを仕込んだ? あんたの部屋からモノは出た」

 二人の住まいと研究室は現在も捜索中だ。吉川のタワマンからは、青酸カリの入った小さな瓶が見つかっていた。

「ああ。そうなんだ。ええ……あの時のアレを使う時が来るなんてね」

 自分の目の前で自殺しようとした友人。寸でのところで留めたのは吉川自身だった。
 騒ぎを聞きつけた別の友人が救急車を呼んだことで事態は公になり、警察が青酸カリを押収した。

「ええ、そう。咄嗟にね。彼女が紅茶に入れようとしてたの、油取り紙に包んで。その時は、誰かを殺すことになるなんて思ってもいなかったけどね」

 吉川は青酸カリを少量の水で溶かし、それを先を削ったリップクリームに塗った。

「教授の部屋で二人きりになって。簡単だったわよ。リップをすり替えるの。あの男も、私の胸ばかり見てたからね」

 しかし、自慢の胸に全く興味を示さない男がいた。それも二人も。
 その二人が第一発見者となり事件に関わったことが、吉川にとっても入間にとっても、思わぬ誤算となった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

不器用に惹かれる

タッター
BL
月影暖季は人見知りだ。そのせいで高校に入って二年続けて友達作りに失敗した。 といってもまだ二年生になって一ヶ月しか経っていないが、悲観が止まらない。 それは一年まともに誰とも喋らなかったせいで人見知りが悪化したから。また、一年の時に起こったある出来事がダメ押しとなって見事にこじらせたから。 怖い。それでも友達が欲しい……。 どうするどうすると焦っていれば、なぜか苦手な男が声をかけてくるようになった。 文武両道にいつも微笑みを浮かべていて、物腰も声色も優しい見た目も爽やかイケメンな王子様みたいな男、夜宮。クラスは別だ。 一年生の頃、同じクラスだった時にはほとんど喋らず、あの日以降は一言も喋ったことがなかったのにどうして急に二年になってお昼を誘ってくるようになったのか。 それだけじゃない。月影君月影君と月影攻撃が止まない。 にこにことした笑顔になんとか愛想笑いを返し続けるも、どこか夜宮の様子がおかしいことに気づいていく。 そうして夜宮を知れば知るほどーー

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...