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1『セイン』

1 第三章第二十五話「メリル・フィールス」

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カイ:
「はー、つまりおまえはシオルンの内面に一目ぼれしたわけだ」
エリス:
「おいカイ、訂正しろ。内面だけじゃない、外見にもだ!」
 エリスがビシッと箸でカイを差しながらそう叫ぶ。
 現在早朝、カイ達は全員で鍋を囲んで食べていた。本当に朝早いが、全員戦闘後でお腹がすいていたのだ。そんなカイ達にシオルンとジェガロが鍋を用意してくれたのである。
 色とりどりの野菜や肉を食べる一行。その時エイラがシオルンに尋ねる。
エイラ:
「ということは、これからはシオルン様も一緒に同行するということでいいのでしょうか」
シオルン:
「は、はい、出来ればわたしはそのつもりです。でもわたし、戦闘では全く役に立ちませんので……」
イデア:
「それはわたしも同じですから大丈夫ですよ」
シオルン:
「イデア様……!」
 微笑んでくるイデアにシオルンが感激していると、レンも食べながら頷いていた。
レン:
「まぁ、非戦闘員が一人増えようと然程変わるまい」
 そんなレンにエイラが可笑しそうに笑いながら声をかける。
エイラ:
「あらレン様、最初は置いていくとか言ってましたよねー?」
レン:
「なっ、それは実際問題必要ないと思ったからでっ」
シオルン:
「や、やっぱりわたしは要らない子なんですねー!」
 シオルンがレンの言葉に涙を溜め始める。その涙にエリスがすぐさま反応した。
エリス:
「おいそこ! シオルンをいじめんなよ! 誰だ、シオルンを泣かせたのは!」
エイラ:
「レン様です」
エリス:
「レンー!」
 エリスがレンに飛びかかっていく。それを腕で押さえながらレンが慌てて口を開いた。
レン:
「ま、待て! 誤解だ! あの時はそう思ってただけで、今はそうは思っていない! むしろ必要だと思っている!」
シオルン:
「っ、……ほ、本当ですか?」
 涙目のまま上目遣いでシオルンが尋ねる。レンは凄い勢いで頷いていた。
レン:
「あ、ああ! 貴様がいればエリスの力も上がるからな! いなくて良い事はない! だからエリス、いい加減離れろ!」
エリス:
「なんだ、そういうことか!」
 レンの言葉を理解してようやくエリスが飛びかかるのをやめる。そしてすぐさまレンの腰を肘でつつき始めた。
エリス:
「このツンデレちゃんめっ!」
レン:
「誰がツンデレだ!」
 レンが腰の刀に手をかける。慌ててコルンとランがそれを止めさせていた。
 その様子に周囲が笑う。
ジェガロ:
「賑やかじゃのぅ」
エイラ:
「あの頃を思い出しますか?」
 エイラの問いにジェガロは口角を上げた。
ジェガロ:
「ゼノの周囲もこんな感じじゃったのぅ。血は争えないものなのか……」
エイラ:
「そうですね、昔のゼノ様そっくりですし」
 二人がカイに視線を向ける。
カイ:
「ん?」
 その視線に気付いてカイが首を傾げたが、エイラとジェガロは首を横に振ってなんでもないと伝えた。
 そして鍋もほとんど食べ終えた頃、メリルが全員に聞こえるように発言する。
メリル:
「でもいいの? 本当にあたしがこのまま残って。これでもダークネスの内通者なんだけど」
ダリル:
「ああ、全員一致で大丈夫ということになった。それに、残ってくれないと私が困る」
メリル:
「……ありがとね」
 メリルが本当にうれしそうな表情でカイ達に笑いかける。それに笑みで応えた後、ダリルがメリルに尋ねた。
ダリル:
「それで、メリルにはいくつか聞かなきゃいけないことがあるんだが」
メリル:
「そうだよね。よし、ドーンと来なさい!」
ダリル:
「そうだな、いくつもあるからまずは軽いやつから行こうか」
 そう言ってダリルは一人頷く。そしてメリルに尋ねた。
ダリル:
「これは個人的に聞きたかったのだが、メリルはフィールスという姓なのか?」
 その瞬間、ジェガロ以外の全員が固まる。そして直後に動揺が広がった。
カイ&エリス:
「はぁ!?」
イデア&エイラ&ミーア&シオルン:
「えっ!?」
レン&コルン&ラン:
「何だと!?」
 苦笑しながらメリルが額に手をやる。
メリル:
「ダリル、それ全然軽くないんだけど……」
ダリル:
「えっ、そ、そうなのか!?」
メリル:
「ま、いいけど。だって、それはどうしてあたしがダークネスの内通者なのかと大きく関係してるもの」
カイ:
「あいつ、軽いやつからとか言って核心に迫ったぞ……」
 全員が少しずつ落ち着きを取り戻す。その直後イデアとレンが同時に身を乗り出してメリルに尋ねた。
イデア:
「メリルさんは姓がフィールスなのですか!?」
レン:
「何故貴様が王族の姓を持っている!?」
 二人の動揺はまだ続いていたのだった。その様子にメリルが苦笑しながら両手でなだめる。
メリル:
「まぁまぁ、落ち着いてよ。ちゃんと話すからさ」
 その様子はまるで妹と弟を落ち着かせる姉のようだった。イデアとレンは渋々と言った様子で元の場所に戻る。それを確認した後、メリルは一回深呼吸をして、告げた。
メリル:
「じゃあ改めて自己紹介からするね。あたしのフルネームはメリル・フィールス。姓の通り王族フィールスの子よ」
 本人の口から肯定の言葉が出たことによって全員が驚きを見せる。イデアやレンは一番驚いていた。
レン:
「だが、我らの兄妹がもう一人いたなんて話、聞いたこともないぞ」
イデア:
「わたしもないです」
メリル:
「それはほら、あたしはレンやイデアよりも先に生まれたお姉ちゃんなんだけど、二人が生まれる前に養子に出されちゃったから。いわゆる隠し子ね」
 もうメリルはイデアとレンに様を付けなくなっていた。だが、それを指摘するものは誰もおらず、話の展開を見守っていた。
イデア:
「どうして養子に……」
メリル:
「それはね父はレンやイデアと一緒だけど、母は違うの。要は腹違いの子ってこと」
レン:
「なっ」
 その告白にイデアとレンは目を見開く。対してメリルは笑っていた。
メリル:
「変な話よね。王様の一番最初の子供が王妃様の子供じゃないなんて」
レン:
「……あのゴミ父上が!」
 レンが怒りと共に拳を地面に叩きつける。その肩にカイが手を置いた。
カイ:
「おまえの父親もうちとは違うベクトルだけどダメダメだな」
レン:
「うるさい!」
 その手を振り払うレン。その時、イデアがメリルへ尋ねた。
イデア:
「メリルさんの母親は分かっているのでしょうか?」
 そう尋ねると、メリルがにやにやしながらイデアへ言った。
メリル:
「イデア、あたしはお姉ちゃんなんだし、レンみたいにお姉様って呼んでくれてもいいのよ?」
イデア:
「え、えっと……メ、メリル姉様?」
メリル:
「キャー、可愛いーーーー!」
 メリルがイデアを抱きしめていた。
イデア:
「あの、その……!」
メリル:
「前からこうしたかったのよね!」
カイ:
「まぁ、身分隠してたもんな。その時に間違ってでも抱きついてたら終わってたわ、主にレンが許さなそうだし」
メリル:
「でも、今はいいのよねー! 今はお姉ちゃんだもん!」
レン:
「ぐっ……!」
 レンは腰の刀に手をかけていたが、どうにか理性で押さえ込んでいた。
レン:
「い、いいからイデアの質問に答えろ!」
メリル:
「あら、お姉ちゃんになんて口の利き方なの?」
レン:
「ぐっ、う、うるさい! いいから話を進めろ!」
 イデア、レン、メリルの三人は傍から見て本当に姉弟のように見えた。
カイ:
「あのレンがタジタジだぞ」
ミーア:
「本能が姉に逆らうなって言ってるんだよ」
カイ:
「じゃあ、 おまえも本能でおれに逆らうなよ」
ミーア:
「わたしの本能はお兄ちゃんをゴミだと思ってるから」
カイ:
「何で!?」
 ようやくイデアをメリルが解放する。イデアは少し名残惜しそうな顔をしていた。とても心地のいい抱擁だったのだ。それに気づいたメリルが頭を撫でてあげる。そのまま話した。
メリル:
「えっと、あたしの母親だっけ? それは分かっているわよ。簡単に言えば王様に使える侍女だったわ。まぁ、うちは一夫多妻を許さないから側室もとらないし、そんなわけで母は追い出されてあたしは養子として他の貴族の元に出されたってわけ」
レン:
「よく養子として他の貴族の元に行かせてくれたな」
 レンとしては、母と一緒に追い出されても仕方がないと思うのだ。
 それにはメリルも苦笑する。
メリル:
「そうね、こればっかりは王妃様に感謝よ。王妃様が『子供に罪はないから』ってあたしを許してくれたの。でも、まだ自分達の子供が出来ていないのにあたしが生まれちゃったわけじゃない? それに自分が産んだわけじゃない子がいるのが辛かったみたいで、城に置かずに養子に出したみたい」
カイ:
「はー、そんなことが」
 カイがなるほどと頷いていると、エイラがニヤリとしながら声をかけてくる。
エイラ:
「カイ様の魔力が無いのも親が違うからじゃないですか?」
カイ:
「おいやめろよっ! ってかおれが生まれた瞬間におまえはそこいたんだろうが!」
エイラ:
「いましたよ。最初に出てきて『お腹空いた』は流石に笑いましたね」
カイ:
「産声じゃなくて!?」
 弄られっぱなしのカイだったが、ここで反撃に転じる。
カイ:
「エ、エイラは親父を好きになったこととかないのかよっ!」
 このカイの言葉にエイラは動きを止めた。その様子にカイが顔を険しくする。
カイ:
「……エイラ?」
エイラ:
「………………ありませんよ?」
カイ:
「なんだその長い溜めは!? 嘘だろ!? なぁ、嘘だよな!?」
エイラ:
「うるさいですよ、早く話の続き行きましょう」
 カイを無視してエイラがメリルへ尋ねる。
エイラ:
「それで、メリル様が王族の血筋だったとして、それがどうダークネスの内通者であったことと繋がるんですか?」
メリル:
「ああ、それはね、内通者になる代わりにある条件を呑んでもらってるの?」
エイラ:
「その条件とは?」
メリル:
「ずばり王様を、つまりお父さんを生かしてもらってるわけ」
イデア&レン:
「っ!」
 王が生きている、その事実にイデアとレンが驚く。
レン:
「父上は生きているのか!」
メリル:
「ええ、本当はあの人はすぐに殺されてもおかしくなかったわ。だってセインは一つしか作れないのに王妃様のセインはお父さんが持ってるからね。だからお父さんを殺してセインをリセットして、王妃様を犯して無理やり手に入れようとしてたみたい」
レン:
「あいつら……!」
 全員の表情に怒りが込み上げていた。
メリル:
「そこにあたしの登場よ。お父さんを生かしてもらうかわりに内通者になったわけ。内通の方法は簡単よ、このよく分からない石を使えば魔力のないあたしでも一つだけ魔法を唱えられるみたいで、それで連絡を入れるの」
 そう言ってメリルが取り出したのは真っ黒な石だった。
カイ:
「なんだこれ……?」
 カイが首を傾げていると、エイラが答えた。
エイラ:
「これは魔石です」
カイ:
「魔石……?」
 よりわからなくてカイが更に首を傾げる。
エイラ:
「はい、魔石は魔力の籠った石です。これには魔法を一つ籠めることが出来ます。なので、魔力のないメリル様でも魔法が使えるのです。結構貴重なものですよ」
カイ:
「へー……ていうか、メリルって魔力ないの?」
 突然気付いたようにカイがメリルへ尋ねる。その問いにメリルは少し驚いていた。
メリル:
「知らなかったの? フィールスの一族は全員魔力ないんだよ」
カイ:
「マジで!?」
 カイがイデアやレン、コルン、ラン、シオルンへ視線を向けると、全員が首肯していた。
イデア:
「そうだよ。でもわたし達の場合は魔力がない代わりにセインがあるから」
カイ:
「あー、そういうわけね」
エイラ:
「何もないカイ様とは大違いですね」
カイ:
「そうですね!?」
 そしてメリルが全体に話しかける。
メリル:
「っていう感じで、実は今日の正午くらいにあっちに連絡を取らないといけないんだけど、一つ問題があるの」
ダリル:
「問題?」
メリル:
「ほら、実は毎日場所とか連絡しなきゃいけないんだけど、あたしたまに嘘つくのよね。三回に二回のペースで」
カイ:
「たまにじゃないな……」
 あっけらかんと話すメリルに全員が驚愕していた。
メリル:
「毎回正確なこと言えば、毎日奴らと戦う破目になるのよ? そんなの疲労が溜まって勝てるものも勝てないわ。でも嘘ばっかりでも確実にお父さんは殺される。だから本当のことも混ぜているの」
ミーア:
「嘘の時点で殺されそうなものだけど……」
メリル:
「でも嘘もそこまで嘘じゃないのよ。例えばチェイル王国周辺にいるってアバウトに伝えたりとかね。相手側はもっと詳しくとか要求してくるけど、周りに何もなくて分かんないとか適当に言ってどうにかやり過ごしてるわ。見つけられないのはそっちのせいでしょって感じよ。でもたまにしっかりした情報も伝えるからあたしのことを切れないのよね」
 メリルは結構考えて行動しているのだった。
メリル:
「とはいえ、そろそろだいぶ怪しまれてると思うの。これからフィールス王国には徒歩でも少なくとも十日はかかるでしょ? つまり十回以上連絡しなくちゃなんだけど、流石にその回数だと途中で切られる可能性があるわ。だからもっと速くフィールス王国に着きたいの」
カイ:
「着きたいのって言ってもさ、どうやって―――」
 そのカイの言葉に、メリルはジェガロへと視線を向ける。
メリル:
「それはほら、ジェガロが乗せてってくれないかなって」
ジェガロ:
「ん、儂か?」
 ここに来てジェガロへ全員の視線が向けられる。
メリル:
「ジェガロ、駄目かな?」
 メリルが上目遣いで頼む。だが、ジェガロはあっさりと首を横に振っていた。
ジェガロ:
「すまんがそれは無理じゃ」
メリル:
「え、何で!?」
 断られると思っていなかったのだろう。メリルはかなり驚いていた。
ジェガロ:
「儂はこの山から離れられぬのじゃよ。少しの時間なら良いが、お主らの言うフィールス王国へは半日かかる。半日も空けられぬ」
メリル:
「半日も駄目って、この山に何かあるの?」
 その問いには、ジェガロは口を閉ざして返事とした。
 そんなジェガロの態度を見てメリルは困ったように唸る。
メリル:
「ジェガロは駄目かー。そーなると、リスクが高いけど普通に行くしかないのかなー」
 と、その時、エイラがジェガロへと声をかけた。
エイラ:
「ジェガロ」
ジェガロ:
「……なんじゃ。お主も分かっておろう。儂がここを空けるのは―――」
エイラ:
「分かってますよ」
 エイラはそういうと、一拍置いてジェガロへ告げた。
エイラ:
「だから、ゼノに相談してみましょう」
ジェガロ:
「……なんじゃと?」
 そして、笑顔でそう提案したのだった。
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