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1『セイン』
1 第二章第七話「野営」
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チェイル王国とレイデンフォート王国の間にある森を人々はデグラの森と呼ぶ。そこは比較的魔物が少なく昼夜問わず安全に通ることが可能なのだ。しかし、滞在する場合は火の扱いには気を配る必要がある。火に寄ってくる魔物が存在するのだ。よって野営をするカイ達一行は自分たちを中心に半径百メートルの円形シールドを展開していた。もちろん道を塞がないようにである。
日も暮れ始めだんだんと暗くなってきたころ、カイは、イデア、エイラ、メリルと共に晩御飯の準備をしていた。といっても、カイは雑用であるが。他のミーアやダリル、コルン、そしてランは「そういうのはちょっと」と言ってシールド内の様子を見に森の中に入っていってしまったのだった。
王子が雑用とはなかなか見られない光景だが、カイは渋々イデア達を手伝っていた。
カイ:
「イデア、記憶は戻りそうか?」
馬車の中でイデアはコルンやランに以前の記憶を取り戻すため色々情報を教えてもらっていた。
イデア:
「んー、まだあんまり。自分の話なのに自分のことじゃないみたいなの」
メリル:
「イデア様、本当に記憶喪失なんですね」
イデア:
「はい、メリルさんもわたしがこのような状況でがっかりしていませんか?」
そう聞かれたメリルが包丁を握りしめながら両手を左右に振っていた。
メリル:
「いえ、全然がっかりなんてしていませんよ!」
エイラ:
「メリル様、危ないですよ」
エイラに窘められて慌てて包丁を置くメリル。
メリル:
「でも、あれですね。本当にイデア様はカイと話す時だけ砕けてますけど、他の方にはお姫様のように気品のある話し方をしますね」
カイ:
「いや、ようにっていうかイデアはお姫様だから」
だが、メリルの言う通りその違いは著しかった。もっとも、イデアはあまり意識はしていない。無意識でそうなってしまうのだった。
その時、カイが唐突にイデア達に尋ねた。
カイ:
「あのさ、あいつらのこと、何て呼ぶ?」
イデア:
「あいつらって?」
カイ:
「ほら、襲ってきた奴っていうか今フィールス王国を占拠している奴ら」
エイラ:
「唐突ですね」
カイ:
「いや、でもほら、毎回あいつらって言うのもあれだろ。だから何か名前付けようぜ!」
カイが輝いた笑みを見せる。その表情にエイラはため息をついた。一方でメリルは乗り気で既にいくつか考え出していた。
メリル:
「はいはーい! あたし的には全体的に黒が特徴だから『漆黒の反逆者』みたいなのがいい!」
メリルがそう言った瞬間、エイラがうわー、という表情をする。イデアも苦笑だった。そしてカイも首を横に振って否定していた。
カイ:
「いいや、悪いけど実はもう決めてあるんだ!」
エイラ:
「なら最初から『名前付けようぜ』って声かけてこないでくださいよ」
カイに残念そうな視線を送りながらエイラが寸胴鍋の中をかき混ぜる。今日は簡単にパンとシチューだった。
そして、カイが声高らかに自信作である名前を告げる。
カイ:
「『ダークネス』にしよう!」
その瞬間、エイラとメリルが呆れたようにため息をついた。
エイラ:
「カイ様、どうせ相手が黒くて闇を連想できるからそういう安直な名前を思いついたんでしょう?」
メリル:
「カイ、そんなのよりあたしの意見の方が断然いいよ」
カイ:
「待って、そんなに駄目だった!? てか、メリルの意見はおれと似たようなもんだろ!」
メリル:
「違うよ! あたしのはもっと―――」
メリルが自身の考えた名前の由来を話そうとした時、イデアがカイへと呟いた。
イデア:
「……ダークネス、良いと思う」
そのイデアの一言はカイの表情を満面の笑みへと変え、エイラとメリルを諦めの表情へと変えた。
イデアには基本カイの意見が全て良く聞こえるのだ。
それを聞いてカイがイデアの両手を掴んで喜ぶ。
カイ:
「だろ! イデア、やっぱ分かってくれるか!」
イデア:
「うん!」
イデアは、カイが近いことと、カイが喜んでくれていることが嬉しいようで、こちらもまた笑みを浮かべて喜んでいた。
それを白い目で眺めるエイラとメリル。
エイラ:
「……ダークネスでいきましょうか」
メリル:
「そう、だね」
結果、名前は無事に「ダークネス」に決まったのだった。
やがて晩御飯も出来上がりダリル達も戻ってきたところで晩御飯となった。
コルン:
「ほぉ、シチューですか」
エイラ:
「はい、比較的簡単ですし、大人数分を作りやすいですから」
そして、ダリルが持ってきていた人数分の折り畳み椅子に座り、アーマーを外してから皆でシチューを食べ始める。
その最中にダリルが全員へと声をかけた。
ダリル:
「先程、森を抜けてからチェイル王国へ向かう話をしましたが、さらに先のことについて説明させてください」
メリル:
「ダリルは結構まめな人なんだね」
ダリル:
「心配性なだけですよ。では、チェイル王国で無事に用を済ませた後ですが、私達はその後天地谷を超えてアルガス大国へと向かい、それからフィールス王国へと向かう予定です。チェイル王国から天地谷へは一日で行けますが、天地谷を抜けるのは馬車で五日かかりますので。そしてアルガス大国へ二日かけて進み、最後に二日かけてフィールス王国へ向かいます」
カイ:
「おれ、チェイル王国しか行ったことないなー。なんだかんだ楽しみだ」
ミーア:
「わたしはチェイル王国も行ったことないよー! だから楽しみ!」
カイとミーアがはしゃいでいるのを見て皆が苦笑する。
エイラ:
「天地谷を超えるのはなかなか大変ですから、そんなことも言っていられなくなりますよ」
カイ:
「まぁ、最悪エイラの魔法に乗せてもらうから安心してくれ」
エイラ:
「すみません、私の魔法はカイ様以外専用なんです」
カイ:
「おれ以外専用ってなに!? ただおれを乗せたくねえだけじゃねえか!」
コルン:
「また始まった」
いつも通りのやりとりをするカイとエイラを視界の隅におきつつコルンがため息をつく。コルンは緊張感のないカイに正直不安を感じていた。
コルン:
「あんな男がイデア様のセインを受け取ったなんて……。緊張感がまるでない。いつ奴らが襲ってくるのか分からないんだぞ」
逆に、メリルはむしろ頼もしく感じていた。
メリル:
「コルン、大丈夫だって! 皆、今はあんなでも戦いのときはきっと凄いんだよ! ダークネスだって倒したんだよ? なら大丈夫!」
コルン:
「……ダークネス?」
聞き覚えのない名前にコルンが首を傾げる。メリルは渋い顔でカイに視線を送りながら説明した。
メリル:
「あのフィールス王国を占領した奴らの名前だよ。カイが決めたの。もう一度言うけど、カイが決めたんだから」
二度言ってメリルがコルンに念押しする。そこを間違ってはいけないのだった。
すると、イデアがコルンとメリルの話に混じった。
イデア:
「コルンさん、カイも皆さんも戦いのときはとても頼りになりますよ。それに、常に気を貼り続けていたら疲れるでしょう? だから、あなたももっとゆっくり気楽にしてください」
コルン:
「ですが、いつ敵が―――」
メリル:
「ダークネスだよ」
コルン:
「……いつダークネスが襲ってくるか分かりませんよ。気を抜いてなど―――」
イデア:
「これは、命令です!」
その時、イデアが笑顔で腰に両手をやり、胸を張ってそう言った。控えめ過ぎず、かといって主張し過ぎない胸のふくらみが強調される。
コルンはその様子に苦笑して片膝をついた。
コルン:
「仰せのままに」
イデア:
「かたいですよっ」
コルン:
「こればっかりは」
ふくれっ面のイデアにコルンは苦笑しながら、内心驚いていた。フィールス王国にいた頃はこのような顔をしたことがなかったのだ。
コルン:
「(こちらにきて、表情が豊かになったのか……)」
感慨深げに目を閉じたコルンだった。
そんなこんなで無事に晩御飯を全員食べ終えた。鍋の中は既に空である。
すると、ダリルがコルンに声をかけた。
ダリル:
「さてコルンさん、腹ごなしに私と手合わせしませんか?」
コルン:
「ええ、全然構いませんよ」
メリル:
「え、じゃああたしもやる!」
その時メリルが手を挙げて主張したが、ダリルは首を横に振った。
ダリル:
「メリルさんはまた今度にしましょう。女性の方々はお風呂に入ってください。男性陣はその後で入りますので」
メリル:
「えー、ダリル、あたしと手合わせしたくないのー?」
渋るメリルにダリルは困り顔だった。
ダリル:
「そうではありませんが、そうなるとメリルさんのお風呂に入るタイミングが……」
メリル:
「あたしは男子達と入ってもいいよ!」
ダリル:
「いやよくないだろ!」
これには流石のダリルも敬語を忘れて激しくツッコミを入れていた。その様子に呆れながらエイラが言葉を発する。
エイラ:
「メリル様、私達はあちらでお風呂に入りましょうか」
メリル:
「いーやーだ!」
エイラ:
「ちなみにメリル様に拒否権はありません」
エイラがニコッと笑ってメリルを引きずるように森の奥へと連れて行く。
メリル:
「誰か、助けて!」
メリルのそんな声が聞こえてくるが、誰も助けることはなかった。そして女性陣がその後を追って森の奥へと姿を消す。それを見送ってからダリルとコルンは立ち上がった。
ダリル:
「さて、ではやりますか」
コルン:
「はい。まずは戦いに向いている場所を探しに行きましょう」
そう言ってダリルとコルンが姿を消す。
カイ:
「……」
カイは見事に一人ぼっちだった。孤独を感じつつもカイは立ち上がる。
カイ:
「さて、じゃあおれはセインの力を色々試して……」
と、そこでカイは重大なミスに気付いてしまった。
カイ:
「やっべ! セイン借りるの忘れてた!」
しかし、イデアは既にお風呂へと向かっている。
カイは普段使わない脳をフル回転させて考えた。
カイ:
「(今なら、間に合うか……! きっとお風呂を作るのに少し時間がかかるはずだ。うん、今なら間に合う! ……決して裸が見たいわけじゃない!)」
自分にそう言い聞かせて、カイは女性陣の向かった先へと走り出した。
………………………………………………………………………………
結果から先に言えば、カイは見事に間に合わなかった。いやむしろ、ベストタイミングで間に合ってしまったと言えるだろう。カイはちょうど服を全て脱ぎ終えたイデア達のもとに飛び出してしまったのだ。
カイ:
「……ど、どうも」
笑顔で取り繕おうとするカイだったが、もちろんそれでどうにかなるわけもなく。
ミーア:
「お、お兄ちゃん!? 何してんの!?」
エイラ:
「……カイ様、死んでください」
メリル:
「カイ、さいてー」
ラン:
「貴様、性根が腐っているようだな」
タオルで前を隠しながらカイを囲む四人。
カイ:
「ち、違うんだよ。ちょっとイデアに用事が―――」
そして四人の隙間からイデアへと視線を向けるカイの目に刺激的なイデアの裸体が映った。イデアはカイの登場に対して裸体を隠そうとしなかったのだ。
言葉を失っているカイにイデアが首を傾げる。
イデア:
「カイ、用って何?」
カイ:
「あ、いや、あの……」
あまりに動揺し過ぎて何のためにここに来たのか忘れてしまったカイ。だがその目はしっかりイデアに釘付けだった。瞬間、その視界が遮られる。四人がイデアを見れないように移動したのだ。
エイラ:
「カイ様、悔いはないですよね?」
エイラが笑顔のままカイへ尋ねる。カイは顔を真っ赤にして呆然としながら首を縦に振った。今この瞬間だけ、カイは確かに悔いが無かったのだ。
それからは本当にカイは酷い目に遭った。エイラとミーアの魔法攻撃にランとメリルの殴打百連撃。途中何度もイデアが止めようとするが今回ばかりはイデアの言葉で止まる四人ではなかった。
結局四人が満足するまで痛めつけられたカイだったが、ようやく冷静になって用を思い出した。
カイ:
「イ、 イデア……。セ、セインを、貸して、くれ……」
イデア:
「ん、いいよ」
イデアは頷くと、すんなりカイへセインを渡した。そのセインを使って立ち上がるカイ。その体は既にボロボロだった。
カイ:
「(あいつら、容赦ねえ……)」
ともかく目的を達成したカイは、殺意むき出しの四人の視線から逃げるようにその場を後にした。
そして、少し広い場所を探してさっそくセインを構える。
カイ:
「さてと、じゃあ一体何ができるのか試してみるか」
まずカイはセインを上から下へと袈裟斬りをしてみた。だが、カイは納得がいかなかったようで首を傾げている。
カイ:
「あれ、おかしいな。あの時はなんかレーザーみたいのが飛び出したのに……」
カイが言っているのはロジとの戦いの際に出した、青白いエネルギーの奔流のことである。
あの時のことを思い出してカイがセインを握る力を強くする。
カイ:
「よっしゃ、もう一回!」
今度はセインを自分の後ろまで振りかぶってからそのまま目の前に振り下ろした。すると、あの時のような青白い極太のレーザーが振り下ろされたセインの軌跡から飛び出していった。そのレーザーは木々を次々となぎ倒していき、後には青白い軌跡が残っている。
カイ:
「おお! やれば出来んじゃん!」
セインを見つめながらカイが喜んでいた時だった。
カイ:
「んー、この技に何て名前を……ん?」
そのなぎ倒された木々と一緒に見覚えのある二人が倒れていたのだ。
カイ:
「あれ、ダリルと、コルン?」
ダリルとコルンは先程のレーザーに巻き込まれていたのだった。ゆっくりと立ち上がる二人。その視線はカイへと注がれていた。
ダリル:
「カイ、おまえ……」
コルン:
「よくも水を差してくれたな……」
その視線にはある種の殺意が宿っていて、カイは思わず後ずさりしていた。
カイ:
「いや、これには深いわけが……」
ダリル&コルン:
「問答無用!」
その後、カイはダリルとコルンの拳骨を喰らって地に伏していた。ダリルとコルンは新たな場所を求めてどこかへ行ってしまっている。
カイ:
「い、痛てー。もう、何だってんだ! イデア以外全員に何かしらやられたんだけど!」
そう嘆くカイだったが、原因は全てカイにある事を忘れていた。
カイは頭をさすりながら立ち上がり、今度はデイナとの戦いを思い返した。
カイ:
「あの時は空を飛んでたっていうか何もない空中を足場に出来たというか……。まぁ、やってみっか!」
跳躍して早速宙を蹴ってみると、しっかりした足場を踏むような感触がカイの足の裏に伝わってきた。そのまま見事に空中を移動出来て、カイはだんだんとテンションを上げていた。
カイ:
「すっげー。魔法使えたことないから相当楽しいんだけど!」
そのテンションと比例した高さまで上昇していくカイ。
カイ:
「ん? なんだ、あれ」
するとその時、カイはエイラの張ったバリアの付近をウロチョロしている複数の人影を見つけた。
カイ:
「これは、怪しいな……」
そう思ったカイは上空からそこへと近づいていった。
日も暮れ始めだんだんと暗くなってきたころ、カイは、イデア、エイラ、メリルと共に晩御飯の準備をしていた。といっても、カイは雑用であるが。他のミーアやダリル、コルン、そしてランは「そういうのはちょっと」と言ってシールド内の様子を見に森の中に入っていってしまったのだった。
王子が雑用とはなかなか見られない光景だが、カイは渋々イデア達を手伝っていた。
カイ:
「イデア、記憶は戻りそうか?」
馬車の中でイデアはコルンやランに以前の記憶を取り戻すため色々情報を教えてもらっていた。
イデア:
「んー、まだあんまり。自分の話なのに自分のことじゃないみたいなの」
メリル:
「イデア様、本当に記憶喪失なんですね」
イデア:
「はい、メリルさんもわたしがこのような状況でがっかりしていませんか?」
そう聞かれたメリルが包丁を握りしめながら両手を左右に振っていた。
メリル:
「いえ、全然がっかりなんてしていませんよ!」
エイラ:
「メリル様、危ないですよ」
エイラに窘められて慌てて包丁を置くメリル。
メリル:
「でも、あれですね。本当にイデア様はカイと話す時だけ砕けてますけど、他の方にはお姫様のように気品のある話し方をしますね」
カイ:
「いや、ようにっていうかイデアはお姫様だから」
だが、メリルの言う通りその違いは著しかった。もっとも、イデアはあまり意識はしていない。無意識でそうなってしまうのだった。
その時、カイが唐突にイデア達に尋ねた。
カイ:
「あのさ、あいつらのこと、何て呼ぶ?」
イデア:
「あいつらって?」
カイ:
「ほら、襲ってきた奴っていうか今フィールス王国を占拠している奴ら」
エイラ:
「唐突ですね」
カイ:
「いや、でもほら、毎回あいつらって言うのもあれだろ。だから何か名前付けようぜ!」
カイが輝いた笑みを見せる。その表情にエイラはため息をついた。一方でメリルは乗り気で既にいくつか考え出していた。
メリル:
「はいはーい! あたし的には全体的に黒が特徴だから『漆黒の反逆者』みたいなのがいい!」
メリルがそう言った瞬間、エイラがうわー、という表情をする。イデアも苦笑だった。そしてカイも首を横に振って否定していた。
カイ:
「いいや、悪いけど実はもう決めてあるんだ!」
エイラ:
「なら最初から『名前付けようぜ』って声かけてこないでくださいよ」
カイに残念そうな視線を送りながらエイラが寸胴鍋の中をかき混ぜる。今日は簡単にパンとシチューだった。
そして、カイが声高らかに自信作である名前を告げる。
カイ:
「『ダークネス』にしよう!」
その瞬間、エイラとメリルが呆れたようにため息をついた。
エイラ:
「カイ様、どうせ相手が黒くて闇を連想できるからそういう安直な名前を思いついたんでしょう?」
メリル:
「カイ、そんなのよりあたしの意見の方が断然いいよ」
カイ:
「待って、そんなに駄目だった!? てか、メリルの意見はおれと似たようなもんだろ!」
メリル:
「違うよ! あたしのはもっと―――」
メリルが自身の考えた名前の由来を話そうとした時、イデアがカイへと呟いた。
イデア:
「……ダークネス、良いと思う」
そのイデアの一言はカイの表情を満面の笑みへと変え、エイラとメリルを諦めの表情へと変えた。
イデアには基本カイの意見が全て良く聞こえるのだ。
それを聞いてカイがイデアの両手を掴んで喜ぶ。
カイ:
「だろ! イデア、やっぱ分かってくれるか!」
イデア:
「うん!」
イデアは、カイが近いことと、カイが喜んでくれていることが嬉しいようで、こちらもまた笑みを浮かべて喜んでいた。
それを白い目で眺めるエイラとメリル。
エイラ:
「……ダークネスでいきましょうか」
メリル:
「そう、だね」
結果、名前は無事に「ダークネス」に決まったのだった。
やがて晩御飯も出来上がりダリル達も戻ってきたところで晩御飯となった。
コルン:
「ほぉ、シチューですか」
エイラ:
「はい、比較的簡単ですし、大人数分を作りやすいですから」
そして、ダリルが持ってきていた人数分の折り畳み椅子に座り、アーマーを外してから皆でシチューを食べ始める。
その最中にダリルが全員へと声をかけた。
ダリル:
「先程、森を抜けてからチェイル王国へ向かう話をしましたが、さらに先のことについて説明させてください」
メリル:
「ダリルは結構まめな人なんだね」
ダリル:
「心配性なだけですよ。では、チェイル王国で無事に用を済ませた後ですが、私達はその後天地谷を超えてアルガス大国へと向かい、それからフィールス王国へと向かう予定です。チェイル王国から天地谷へは一日で行けますが、天地谷を抜けるのは馬車で五日かかりますので。そしてアルガス大国へ二日かけて進み、最後に二日かけてフィールス王国へ向かいます」
カイ:
「おれ、チェイル王国しか行ったことないなー。なんだかんだ楽しみだ」
ミーア:
「わたしはチェイル王国も行ったことないよー! だから楽しみ!」
カイとミーアがはしゃいでいるのを見て皆が苦笑する。
エイラ:
「天地谷を超えるのはなかなか大変ですから、そんなことも言っていられなくなりますよ」
カイ:
「まぁ、最悪エイラの魔法に乗せてもらうから安心してくれ」
エイラ:
「すみません、私の魔法はカイ様以外専用なんです」
カイ:
「おれ以外専用ってなに!? ただおれを乗せたくねえだけじゃねえか!」
コルン:
「また始まった」
いつも通りのやりとりをするカイとエイラを視界の隅におきつつコルンがため息をつく。コルンは緊張感のないカイに正直不安を感じていた。
コルン:
「あんな男がイデア様のセインを受け取ったなんて……。緊張感がまるでない。いつ奴らが襲ってくるのか分からないんだぞ」
逆に、メリルはむしろ頼もしく感じていた。
メリル:
「コルン、大丈夫だって! 皆、今はあんなでも戦いのときはきっと凄いんだよ! ダークネスだって倒したんだよ? なら大丈夫!」
コルン:
「……ダークネス?」
聞き覚えのない名前にコルンが首を傾げる。メリルは渋い顔でカイに視線を送りながら説明した。
メリル:
「あのフィールス王国を占領した奴らの名前だよ。カイが決めたの。もう一度言うけど、カイが決めたんだから」
二度言ってメリルがコルンに念押しする。そこを間違ってはいけないのだった。
すると、イデアがコルンとメリルの話に混じった。
イデア:
「コルンさん、カイも皆さんも戦いのときはとても頼りになりますよ。それに、常に気を貼り続けていたら疲れるでしょう? だから、あなたももっとゆっくり気楽にしてください」
コルン:
「ですが、いつ敵が―――」
メリル:
「ダークネスだよ」
コルン:
「……いつダークネスが襲ってくるか分かりませんよ。気を抜いてなど―――」
イデア:
「これは、命令です!」
その時、イデアが笑顔で腰に両手をやり、胸を張ってそう言った。控えめ過ぎず、かといって主張し過ぎない胸のふくらみが強調される。
コルンはその様子に苦笑して片膝をついた。
コルン:
「仰せのままに」
イデア:
「かたいですよっ」
コルン:
「こればっかりは」
ふくれっ面のイデアにコルンは苦笑しながら、内心驚いていた。フィールス王国にいた頃はこのような顔をしたことがなかったのだ。
コルン:
「(こちらにきて、表情が豊かになったのか……)」
感慨深げに目を閉じたコルンだった。
そんなこんなで無事に晩御飯を全員食べ終えた。鍋の中は既に空である。
すると、ダリルがコルンに声をかけた。
ダリル:
「さてコルンさん、腹ごなしに私と手合わせしませんか?」
コルン:
「ええ、全然構いませんよ」
メリル:
「え、じゃああたしもやる!」
その時メリルが手を挙げて主張したが、ダリルは首を横に振った。
ダリル:
「メリルさんはまた今度にしましょう。女性の方々はお風呂に入ってください。男性陣はその後で入りますので」
メリル:
「えー、ダリル、あたしと手合わせしたくないのー?」
渋るメリルにダリルは困り顔だった。
ダリル:
「そうではありませんが、そうなるとメリルさんのお風呂に入るタイミングが……」
メリル:
「あたしは男子達と入ってもいいよ!」
ダリル:
「いやよくないだろ!」
これには流石のダリルも敬語を忘れて激しくツッコミを入れていた。その様子に呆れながらエイラが言葉を発する。
エイラ:
「メリル様、私達はあちらでお風呂に入りましょうか」
メリル:
「いーやーだ!」
エイラ:
「ちなみにメリル様に拒否権はありません」
エイラがニコッと笑ってメリルを引きずるように森の奥へと連れて行く。
メリル:
「誰か、助けて!」
メリルのそんな声が聞こえてくるが、誰も助けることはなかった。そして女性陣がその後を追って森の奥へと姿を消す。それを見送ってからダリルとコルンは立ち上がった。
ダリル:
「さて、ではやりますか」
コルン:
「はい。まずは戦いに向いている場所を探しに行きましょう」
そう言ってダリルとコルンが姿を消す。
カイ:
「……」
カイは見事に一人ぼっちだった。孤独を感じつつもカイは立ち上がる。
カイ:
「さて、じゃあおれはセインの力を色々試して……」
と、そこでカイは重大なミスに気付いてしまった。
カイ:
「やっべ! セイン借りるの忘れてた!」
しかし、イデアは既にお風呂へと向かっている。
カイは普段使わない脳をフル回転させて考えた。
カイ:
「(今なら、間に合うか……! きっとお風呂を作るのに少し時間がかかるはずだ。うん、今なら間に合う! ……決して裸が見たいわけじゃない!)」
自分にそう言い聞かせて、カイは女性陣の向かった先へと走り出した。
………………………………………………………………………………
結果から先に言えば、カイは見事に間に合わなかった。いやむしろ、ベストタイミングで間に合ってしまったと言えるだろう。カイはちょうど服を全て脱ぎ終えたイデア達のもとに飛び出してしまったのだ。
カイ:
「……ど、どうも」
笑顔で取り繕おうとするカイだったが、もちろんそれでどうにかなるわけもなく。
ミーア:
「お、お兄ちゃん!? 何してんの!?」
エイラ:
「……カイ様、死んでください」
メリル:
「カイ、さいてー」
ラン:
「貴様、性根が腐っているようだな」
タオルで前を隠しながらカイを囲む四人。
カイ:
「ち、違うんだよ。ちょっとイデアに用事が―――」
そして四人の隙間からイデアへと視線を向けるカイの目に刺激的なイデアの裸体が映った。イデアはカイの登場に対して裸体を隠そうとしなかったのだ。
言葉を失っているカイにイデアが首を傾げる。
イデア:
「カイ、用って何?」
カイ:
「あ、いや、あの……」
あまりに動揺し過ぎて何のためにここに来たのか忘れてしまったカイ。だがその目はしっかりイデアに釘付けだった。瞬間、その視界が遮られる。四人がイデアを見れないように移動したのだ。
エイラ:
「カイ様、悔いはないですよね?」
エイラが笑顔のままカイへ尋ねる。カイは顔を真っ赤にして呆然としながら首を縦に振った。今この瞬間だけ、カイは確かに悔いが無かったのだ。
それからは本当にカイは酷い目に遭った。エイラとミーアの魔法攻撃にランとメリルの殴打百連撃。途中何度もイデアが止めようとするが今回ばかりはイデアの言葉で止まる四人ではなかった。
結局四人が満足するまで痛めつけられたカイだったが、ようやく冷静になって用を思い出した。
カイ:
「イ、 イデア……。セ、セインを、貸して、くれ……」
イデア:
「ん、いいよ」
イデアは頷くと、すんなりカイへセインを渡した。そのセインを使って立ち上がるカイ。その体は既にボロボロだった。
カイ:
「(あいつら、容赦ねえ……)」
ともかく目的を達成したカイは、殺意むき出しの四人の視線から逃げるようにその場を後にした。
そして、少し広い場所を探してさっそくセインを構える。
カイ:
「さてと、じゃあ一体何ができるのか試してみるか」
まずカイはセインを上から下へと袈裟斬りをしてみた。だが、カイは納得がいかなかったようで首を傾げている。
カイ:
「あれ、おかしいな。あの時はなんかレーザーみたいのが飛び出したのに……」
カイが言っているのはロジとの戦いの際に出した、青白いエネルギーの奔流のことである。
あの時のことを思い出してカイがセインを握る力を強くする。
カイ:
「よっしゃ、もう一回!」
今度はセインを自分の後ろまで振りかぶってからそのまま目の前に振り下ろした。すると、あの時のような青白い極太のレーザーが振り下ろされたセインの軌跡から飛び出していった。そのレーザーは木々を次々となぎ倒していき、後には青白い軌跡が残っている。
カイ:
「おお! やれば出来んじゃん!」
セインを見つめながらカイが喜んでいた時だった。
カイ:
「んー、この技に何て名前を……ん?」
そのなぎ倒された木々と一緒に見覚えのある二人が倒れていたのだ。
カイ:
「あれ、ダリルと、コルン?」
ダリルとコルンは先程のレーザーに巻き込まれていたのだった。ゆっくりと立ち上がる二人。その視線はカイへと注がれていた。
ダリル:
「カイ、おまえ……」
コルン:
「よくも水を差してくれたな……」
その視線にはある種の殺意が宿っていて、カイは思わず後ずさりしていた。
カイ:
「いや、これには深いわけが……」
ダリル&コルン:
「問答無用!」
その後、カイはダリルとコルンの拳骨を喰らって地に伏していた。ダリルとコルンは新たな場所を求めてどこかへ行ってしまっている。
カイ:
「い、痛てー。もう、何だってんだ! イデア以外全員に何かしらやられたんだけど!」
そう嘆くカイだったが、原因は全てカイにある事を忘れていた。
カイは頭をさすりながら立ち上がり、今度はデイナとの戦いを思い返した。
カイ:
「あの時は空を飛んでたっていうか何もない空中を足場に出来たというか……。まぁ、やってみっか!」
跳躍して早速宙を蹴ってみると、しっかりした足場を踏むような感触がカイの足の裏に伝わってきた。そのまま見事に空中を移動出来て、カイはだんだんとテンションを上げていた。
カイ:
「すっげー。魔法使えたことないから相当楽しいんだけど!」
そのテンションと比例した高さまで上昇していくカイ。
カイ:
「ん? なんだ、あれ」
するとその時、カイはエイラの張ったバリアの付近をウロチョロしている複数の人影を見つけた。
カイ:
「これは、怪しいな……」
そう思ったカイは上空からそこへと近づいていった。
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息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
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