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8 双龍邸へ③

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 夕方5時。

 僕はマンションを出て、待ち合わせ場所に向かった。

 待ち合わせ場所というのは、近所のバス停である。

 ネットで検索してみると、実の父が住むという双龍邸は、市内のはずれに位置していた。

 ここから市バスで30分以上かかる、結構辺鄙な区域だ。

 自然は豊かだが、交通の便が良いとはとてもいえない場所である。

 それにしても、待ち合わせ場所がバス停というのは、あの美少年には似合わぬチョイスだった。

 満員の市バスに乗っている天使なんて、イメージにそぐわない。

 ヨミなら、運転手付きの外車で迎えに来てもおかしくないところだ。

 が、本人は、

「その時が来たらわかりますよ。なぜ僕がバスを選んだのか」

 そう謎のような微笑を血の気のない口元に浮かべるだけだった。


 バス停に着くと、すでにヨミは来ていて、ベンチに座り、イヤホンで音楽を聴いていた。

 僕が近づくと、こちらから声をかけるより早く、イヤホンを外して、

 やあ、というふうに右手を振った。

 服装は、昨日と同じベージュのハーフコートに、白のスキニーパンツ。

 ただ、なんとなくパンツの生地がきのうのより薄く、よりピタっと下半身に貼りついて見える。 

 開いたコートの下にのぞくのは、これまた肌にフィットした白いTシャツだ。

 薄い胸のあたりに二か所、薔薇色が透けているのを見た気がして、僕はあわてて目を逸らす。

 どうやってきたの?

 緊張で干からびた声で尋ねると、

「バスで」

 笑ってヨミが答えた。

「双龍邸から反対路線の市バスできて、通りを渡ってここで待ってたのさ」

「意味不明だな」

 呆れて僕はツッコミを入れた。

「言ってくれたら、俺が双龍邸まで行ったのに」

 その方が手間がない。

 なんでヨミがわざわざバスで往復する方法を選んだのか、理由がわからない。

「僕は公共交通機関が好きなんだ」

 やってきたバスのほうを見て、ヨミが言う。

「ちょうどいい具合に混んでるね。さあ、乗ろうよ」

 
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