闇の記憶

姫川 林檎

文字の大きさ
上 下
31 / 35
記憶喪失の少年

31

しおりを挟む
春陽の人気も相まって店は更に忙しくなっている。
店が忙しくなり春陽も人見知りを発動させている暇がないらしく、常連さんに対しては俺達の次に慣れて普通に話しが出来る様になった。春陽を家族やバイト君達に任せて、それまでは手伝えないでいた町内会や商店街の役員とかの仕事を出来る様になり休みの日も忙しく過ごしていたが、やっと色々と落ち着て来たので今日は久し振りに春陽とデートです。

「・・・大きな荷物?何か必要な物がありますか?」

「ん?あぁ、これは万が一の為の保険。必要ないかも知れないしね。さっ!乗って出発しよう。」

「はい。」

今日のデートは水族館。どこぞの小童こわっぱに誘われても断ってくれた水族館!TV観ている時にとても興味深そうに観ていた。春陽は多分動物全般が好きなんだろうなので次回は動物園に誘ってみよう。

今日行く水族館は車で片道2時間。少し離れているが色々とふれあいコーナーがあるので近くの水族館ではなくこちらを選んだ。俺もこの水族館は初めて行くので少し楽しみでもある。

最近春陽が興味を持ち始めたジャズを聴きながら走らせる。ジャズはじぃさんが好きで色々なレコードを持っていて店内でもたまに流す程好きで、それを聞いて興味を持ったらしい俺もジャズは好きだから問題はない。

今日行く事が決まった時に春陽は直ぐにPCで調べ始めて何があってどこに行くかを一生懸命に決めていた。真剣に画面を見つめて悩んでいる姿が可愛かった。そんな姿もうちに馴染んでくれたのかと思うと嬉しくなる、昔の春陽だったら自分の希望などは言わずただ俺に連れられるだけだろうし。今だってこの水族館にはあれが居てこれが居てとか楽しそうに俺に教えてくれている。

そんな話をしている間に到着。俺としてはもう少し話を聞いて居たかった気持ちもなくはないが、春陽が楽しみにしているので早く中に向かう。春陽の足取りが軽いなぁ、どんなけ楽しみにしていたのかが伺える。

中に入り先ずは荷物をロッカーに預ける。
そして、中に進むといきなり大水槽が現れる。中には大小様々な魚達が天井の一部が窓になっていてそこから漏れる太陽光に照らされて泳いでいる姿を春陽は呆けながらじっと観ている。

俺は他のお客様の邪魔にならない様にそして春陽の邪魔にもならない様にそっと腰を抱いて移動する。俺に腰を抱かれて移動しても春陽の視線は水槽に釘付けだ、後ろから抱き締めても気付かないまま5分がたった。

「・・・凄い。」

「気に入った?」

「はい!今日は連れて来てくれて有難う御座います!」

「どういたしまして。けど、また言葉が硬くなっているよ?」

「あっ。すいま・・・。ごめん、有難う。」

春陽は語尾が小さくなりながらも言うと恥ずかしそうに俺の腕を掴んで俯いてしまった。そんな春陽の頭にキスをして「どういたしまして」ともう1度言うと春陽の耳が少し赤らんだ様に見えた。俺の願望かな?

大水槽を堪能した春陽と手を繋いで奥へと進む。
そこには南国の小さな魚や甲殻類そしてクラゲなどがいてどの水槽の前でも春陽は楽しいそうに仕入れた情報を俺に色々と教えてくれた。

「そろそろ時間かな?春陽、奥に行こう。」

「イルカショーの時間は未だありますよ?」

「ふふふ。いいからいいから。おいで♪」

「眞一さん?」

理解出来ていない春陽を連れて奥の海獣エリアに向かい、途中セイウチとかを見たそうな春陽を引っ張って更に奥に行く。アザラシコーナーに居た飼育員さんに声を掛けて中に入る。

「眞一さん!?何処に行くの?」

「ん?バックヤード♪」

「えっ?」

突然の事にびっくりしていると奥から明るいお姉さんが現れた。

「こんにちは!ご予約頂いた阿藤様ですね?ご予約有難う御座います。君が春陽君かな?春陽君今日は楽しんで行ってね!」

「はい?」

「すいません。サプライズにしたら未だ理解出来ていないみたいで・・・。」

「あら!そうなんですね。それはさぞかし驚いたでしょ?春陽君、大水槽は見てくれた?今からその水槽に餌やりをするから行こう!」

「はい。えっ?あの、えっ?眞一さん!」

春陽はテンション高めのお姉さんに背中を押され連れて行かれ困っているがそんな困り顔も可愛いなぁ。

途中色々な生簀に色々な生き物が居て生まれたての赤ちゃんや怪我をしたり病気な仔達も居たり説明を聞きながら奥に向かう。お姉さんに圧倒されながらも少しづつ気になる事を聞き出した、‟俺が近く”に居ればここポイント!初めての人でも少しは話せる様になってきているのが嬉しい。まぁ、お姉さんは全く気にしなでガンガン話しているけど・・・。

そうして目的の大水槽の上に着いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

王冠にかける恋【完結】番外編更新中

毬谷
BL
完結済み・番外編更新中 ◆ 国立天風学園にはこんな噂があった。 『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』 もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。 何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。 『生徒たちは、全員首輪をしている』 ◆ 王制がある現代のとある国。 次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。 そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って…… ◆ オメガバース学園もの 超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

副会長様は平凡を望む

BL
全ての元凶は毬藻頭の彼の転入でした。 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー 『生徒会長を以前の姿に更生させてほしい』 …は? 「え、無理です」 丁重にお断りしたところ、理事長に泣きつかれました。

処理中です...