闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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春陽の人気も相まって店は更に忙しくなっている。
店が忙しくなり春陽も人見知りを発動させている暇がないらしく、常連さんに対しては俺達の次に慣れて普通に話しが出来る様になった。春陽を家族やバイト君達に任せて、それまでは手伝えないでいた町内会や商店街の役員とかの仕事を出来る様になり休みの日も忙しく過ごしていたが、やっと色々と落ち着て来たので今日は久し振りに春陽とデートです。

「・・・大きな荷物?何か必要な物がありますか?」

「ん?あぁ、これは万が一の為の保険。必要ないかも知れないしね。さっ!乗って出発しよう。」

「はい。」

今日のデートは水族館。どこぞの小童こわっぱに誘われても断ってくれた水族館!TV観ている時にとても興味深そうに観ていた。春陽は多分動物全般が好きなんだろうなので次回は動物園に誘ってみよう。

今日行く水族館は車で片道2時間。少し離れているが色々とふれあいコーナーがあるので近くの水族館ではなくこちらを選んだ。俺もこの水族館は初めて行くので少し楽しみでもある。

最近春陽が興味を持ち始めたジャズを聴きながら走らせる。ジャズはじぃさんが好きで色々なレコードを持っていて店内でもたまに流す程好きで、それを聞いて興味を持ったらしい俺もジャズは好きだから問題はない。

今日行く事が決まった時に春陽は直ぐにPCで調べ始めて何があってどこに行くかを一生懸命に決めていた。真剣に画面を見つめて悩んでいる姿が可愛かった。そんな姿もうちに馴染んでくれたのかと思うと嬉しくなる、昔の春陽だったら自分の希望などは言わずただ俺に連れられるだけだろうし。今だってこの水族館にはあれが居てこれが居てとか楽しそうに俺に教えてくれている。

そんな話をしている間に到着。俺としてはもう少し話を聞いて居たかった気持ちもなくはないが、春陽が楽しみにしているので早く中に向かう。春陽の足取りが軽いなぁ、どんなけ楽しみにしていたのかが伺える。

中に入り先ずは荷物をロッカーに預ける。
そして、中に進むといきなり大水槽が現れる。中には大小様々な魚達が天井の一部が窓になっていてそこから漏れる太陽光に照らされて泳いでいる姿を春陽は呆けながらじっと観ている。

俺は他のお客様の邪魔にならない様にそして春陽の邪魔にもならない様にそっと腰を抱いて移動する。俺に腰を抱かれて移動しても春陽の視線は水槽に釘付けだ、後ろから抱き締めても気付かないまま5分がたった。

「・・・凄い。」

「気に入った?」

「はい!今日は連れて来てくれて有難う御座います!」

「どういたしまして。けど、また言葉が硬くなっているよ?」

「あっ。すいま・・・。ごめん、有難う。」

春陽は語尾が小さくなりながらも言うと恥ずかしそうに俺の腕を掴んで俯いてしまった。そんな春陽の頭にキスをして「どういたしまして」ともう1度言うと春陽の耳が少し赤らんだ様に見えた。俺の願望かな?

大水槽を堪能した春陽と手を繋いで奥へと進む。
そこには南国の小さな魚や甲殻類そしてクラゲなどがいてどの水槽の前でも春陽は楽しいそうに仕入れた情報を俺に色々と教えてくれた。

「そろそろ時間かな?春陽、奥に行こう。」

「イルカショーの時間は未だありますよ?」

「ふふふ。いいからいいから。おいで♪」

「眞一さん?」

理解出来ていない春陽を連れて奥の海獣エリアに向かい、途中セイウチとかを見たそうな春陽を引っ張って更に奥に行く。アザラシコーナーに居た飼育員さんに声を掛けて中に入る。

「眞一さん!?何処に行くの?」

「ん?バックヤード♪」

「えっ?」

突然の事にびっくりしていると奥から明るいお姉さんが現れた。

「こんにちは!ご予約頂いた阿藤様ですね?ご予約有難う御座います。君が春陽君かな?春陽君今日は楽しんで行ってね!」

「はい?」

「すいません。サプライズにしたら未だ理解出来ていないみたいで・・・。」

「あら!そうなんですね。それはさぞかし驚いたでしょ?春陽君、大水槽は見てくれた?今からその水槽に餌やりをするから行こう!」

「はい。えっ?あの、えっ?眞一さん!」

春陽はテンション高めのお姉さんに背中を押され連れて行かれ困っているがそんな困り顔も可愛いなぁ。

途中色々な生簀に色々な生き物が居て生まれたての赤ちゃんや怪我をしたり病気な仔達も居たり説明を聞きながら奥に向かう。お姉さんに圧倒されながらも少しづつ気になる事を聞き出した、‟俺が近く”に居ればここポイント!初めての人でも少しは話せる様になってきているのが嬉しい。まぁ、お姉さんは全く気にしなでガンガン話しているけど・・・。

そうして目的の大水槽の上に着いた。


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