闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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春陽も店に慣れあっという間に1ヵ月が過ぎた。

今では店内でしかも常連であれば普通に会話が出来る位になった。未だ未だ一見さんや店の外だと少し緊張してしまうみたいだが、大きな進歩であるこのまま春陽の世界が広がって行ってくれればと思う反面自分以外にも慣れていく春陽を見るのは少し淋しくもある。

「・・・店長、頼みますからお客さんを殺さないでくださいね。」

「えっ!?」

「「うんうん。」」

「どういう意味?」

「店長、あちらの今春陽くんが話してるαのお客様を殺しそうな顔をしてますよ。」

「えっ!マジで?」

コクコクX2

いかんいかん。
お客様相手に俺は感情のコントロールが出来てないなんて子供じゃないんだからしっかりしろ俺!!

クスクス

たかむらさん笑わないでください・・・。」

「すまんね。つい眞一君もただのαだなぁと思ってね。君はいつも飄々と冷静でいるから一寸心配していたんだよ、Ωの発情にも引っ張られない位だし、だから一応これでもね。けど・・・心配はなかったね。」

そう言いながら笑いが我慢できないのか肩が揺れている・・・。この方は国内でもトップクラスの電器会社の社長なのに月1で来店する、祖父の代からの常連さんでつまり俺の小さい時から知っている親戚以上にタチの悪い人である。

篁さんみたいに俺を揶揄う人は他にもいる、祖父の代からの常連さんはある意味俺にとって親戚より近い家族みたいなものだ。ここに来るαは大体が高位の者が多く俺のする事は全てお見通しだったので、小さい時は頼りになるが怖くもあった。そんな彼等は駿二に番が出来ても俺に番が出来ないのに少し心配している、このまま‟皆のα”で終わってしまうのでないかと。

そんな時に春陽が現れたので皆が春陽に期待をしている。俺の気持ちは・・・まぁバレバレだが春陽がそれに応えるかは別の問題だ。


「春陽くん今日は♪いつものお願いします。」

「いっいらっしゃいませ。えっといつものですね。マスターオリジナルブレンド1つ。」

「はいよ。」

今店に入って来た客は春からの常連客で高校1年のαの青山つよし、春陽に一目惚れして時間がある時に
は必ず来る。明るくひょうきんな性格で友達にするにはいいかも知れないが付き合うに少し疲れそうな奴だ。

「「「店長!顔顔!!」」」

どうやら又殺しそうな顔をしていたらしい。篁さんが声を殺して笑っている・・・。笑いを提供出来て何よりです(棒読み)

ふぅ・・・。
最近感情のコントロールが今一出来てない様な気がする・・・。

「眞一さん?」

「ん?何でもないよ。」
『嘘だ~。』

「?」

「渡辺君?」
「ヒィー!何でもないです!!」

渡辺君は逃げる様に接客しに行った。
まったく彼は口が軽いんだから・・・。そんな彼もここに来たばかりの頃は大人しくて人見知りだった、Ωは皆多かれ少なかれ心に傷がある。それがここで癒されたなら俺としても嬉しい、ここに来る皆さんのお蔭だαは怖いだけの存在ではないと解ってもらえて、社会に出て行く勇気になればいいんだけど。

しかし、それとこれは話が別。後で軽く〆とくか。


「春陽君、今度の休みに水族館に行かない?チケット貰ったからさ♪」

「えっと・・・。」

こいつも懲りないなぁ。
何度も春陽に振られてるのに、手を変え品を変えめげずに誘いに来る根性だけは認めるが・・・いい加減に諦めろ!!春陽が困っているではないか!

両想いだったら番だったら俺がズバッと断れるのに。今の俺はただの保護者でしかない・・・。保護者の俺は口を挟めない。こいつも俺が強く出れないのを解っていて猛アタックしているんだろうけど。はぁ。

「すいません。」

「水族館嫌いだった?」

「いえ。その・・・水族館は眞一さんと行く約束があるので・・・。すいません。」

先週TVで車で30分の所にある水族館の特集をやっていて来月頭に行く約束をしている。春陽はそれを優先してくた!ヤバイ泣きそう。しかし、ここは大人として、

「春陽、行きたかったら行っといで。俺となら又今度行けばいいしね。それにも作ろう、春陽はバイトの渡辺君達と商店街の一部の人しか話をしないだろ?もっと沢山の人と友達作って欲しいな。」

眞一の前に居る人達
『『おお!大人だ!流石店長さん。』』

眞一の後ろに居る人達
『背中に‟嫌だ”って書いてある(笑)』
『眞一君我慢が出来てないよ。くくくっ。』

「・・・彼と友達にならないといけませんか?・・・。」

「別に春陽が「いいなぁ」って思える人と仲良くなればいいよ。いいよ。少しづつでいいから色々な人と話せる様になろうな。」

困った顔してしまったなぁ。人見知りが激しい方で今でもいっぱいいっぱいだから辛いんだろうけど。

「・・・はい。」

「急がなくていいから。」

「はい。」

笑顔に戻った。
春陽にはいつも笑顔でいて欲しいけど、甘やかすだけが優しさではなし後で春陽自身が困る事になってしまうのは避けなければ。本当は俺無しでは生きられない様にしたいけど、それは出来ない。

俺も成長しなくては。



「あれ?もしかして俺振られた?」


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