闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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今日は俺と一緒に遅めのお昼。

「春陽、お疲れ様。やってみてどうだった?」

「大変だけど楽しかったです。」

「そうか、続けられそうか?」

「はい。頑張りたいです。」

春陽は少し照れながら強い意志で答えてくれた。
今日の春陽の働きなら直ぐに即戦力になってくれるだろう。春陽は1度頼まれたメニューは直ぐに覚えられる位記憶力がいい、空いた時間にメニュー表を見ながら覚えようとしてくれているので多分近い内に全部覚えてしまうかもしれないな。

体力が未だない春陽は今日はここまで、初日から飛ばして倒れては大変なのだしそれに家事もしてもらいたいので終了。それを伝えると少し寂しそうにしていたが、明日も入って欲しいと伝えると嬉しそうに了承してくれた。やはり、家に1人は淋しいのかもしれないいくらジョン達が居ても会話が出来なしな。


昼休みが終わり俺は洗濯物と夕飯を頼み店に戻った。

「あれ?春くんはどこだい?」

浜本さんが息を切らしながら店に飛び込んで来た。

「浜本さん今日は。今日はどうしたんです?」

「えっ?今日春くんがお店に出てるって聞いたから来たんだけど・・・。」

店内をキョロキョロしながら答えてくれたが、もう商店街まで情報が流れているのか・・・。ここの人達はいい人達だが口が少々軽いましてやΩとなると余計だ、守らなければという思いが強いせいかあっという間に広がる。そもそもこの人は仕事中では?

「浜本さん、すいませんが春陽はランチタイムまでです。けど、明日からも出るので又改めてでも来てください。」

「・・・そっかぁ。じゃあ、改めて来るよ。ごめんね騒いで・・・ぅわ!?母ちゃんから電話だ!バレタ!!帰らなきゃ!!じゃあね!」

「「「「「・・・・・」」」」」

「すいません。お騒がせしました。」

「大丈夫だよ。浜本さんはいつもの事だしね。それより、春陽くんお店に出てるの?」

「はい。今日からランチ前からランチ終了までですが、手伝ってもらう事になりまして・・・。」

皆さん春陽を気にかけてくれてるみたいで色々聞いて来た。
商店街を一心不乱に歩いて買い物をしている姿を目撃していて気にはなっていたらしい、未だ未だ買い物の受け答えしか出来ていないみただし。今日も普段より小さい声で受け答えしていた、初日だから注意はしなかったけどこれからはもう少し大きな声を出せる様になるといいな。

浜本さんの他にも春陽が店に出てると聞いて来たお客さんが結構いた。ひょっとしたら明日からは春陽目当てに客が増えるかもしれない、というか毎回そうではあるのを忘れていた・・・。新しいバイトの子が入ると皆さんは見に1週間位混む傾向があった、謎の‟Ω見守る隊”なる物があるらしいが先日までは確か‟Ωを愛でる会”だったはずだが?・・・まぁΩには無害なので放置しているが。結構な数の会員が居るみたいで暫く店は忙しいだろう・・・。


案の定翌日のランチは混んだ。
今日は岩倉さんが入っているのでそこまでパニックにはならなかったが春陽はいっぱいいっぱいである。‟見守る会”なだけあって、春陽に無駄に話し掛けたりはせずいた。春陽も岩倉さんと駿二のフォローで何とかランチを乗り越えた。

「・・・春陽、大丈夫か?」

「はぃ・・・。」

弱弱しく返事をするが机に突っ伏している。いつも俺達に気を使う春陽にしては珍しい行動だ、それだけ疲れているのだろう。

ゆっくり頭を撫でると少し嬉しそうな顔をする。最近の春陽は頭を撫でると嬉しそうにする様になった、撫でられるのが好きなのかもしれない。今までの春陽の反応からして以前はそういうスキンシップを取って来なかったのかも知れない、だから嬉しいけどどう反応したらいいのかが判らずいるのだろう。

「春陽、お昼食べれそうか?」

「はい、頂きます。」

春陽は起きるとはにかんだ笑顔で答える。春陽は食べる量が大分増えガリガリだった体も少し肉付きが良くなったし血色もいい、定期検診で先生も安心していた入院当初の春陽は不安に成程ガリガリだったが今は少し痩せている位になった。これからどんどん動いていっぱい食べていっぱい寝て元気になっていくだろう。

何故か、春陽フィバーは2週間以上続き毎日忙しかったが俺が休みの日は店はガラガラだったらしい。それは俺と一緒に春陽も休むとふんだ常連の予想通り休んだからだ、彼等曰く俺が春陽を自分の休みの日に出す訳がないらしい。

どうやら俺は自分で思っていたより単純らしい。


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