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Interlude1 アレクサンドラのその後

王妃アレクサンドラの茶会②

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「それでも日常の一場面を切り取ったゲームに過ぎない『どきエデ』や『どきエデ2』に固執するのね」
「そう言うアレクサンドラ様だってそうじゃないの。じゃなきゃわざわざ隣国での婚約破棄騒動を覆そうだなんて思わないでしょう?」
「違いないわ。この目で拝もうと思って万全の準備をしてたのに最後の最後でルシアに出し抜かれたけれどね」
「お褒めに預かり恐縮です」

 この女、つい最近我が王国を揺るがした汚職事件の黒幕だってバラしたわね。
 あくまで『どきエデ』の再現にその能力と熱意が向けられているから対処のしようがあるけれど、国家転覆を目論まれたら私でも敵わないかもしれない。

「にしても……まさかエドガーがアンヘラと結ばれるだなんてね。これもルシアの指示の内かしら?」
「いえ。違う。本来レオンになる筈だったエドガーがアンヘラに近づいたらどうなるのか気になったのも事実だけれど……あの子にも運命に勝ってほしかった。わたしが今のわたしになったように、あの子だって隣国王子に留まってほしくなかったの」

 それは私がコンスタンサ達、そしてレオンに対して望んだもの。
 一部の犠牲があったものの彼女達は見事に『どきエデ2』を乗り越えてくれた。
 それが今この世界を生きる私にとっては嬉しいし、誇らしい。

「……これで終わったのね」
「はい。これで終わりましたね」

 そう、終わった。
 私達が虜になって熱中した『どきエデ』シリーズが幕を下ろしたんだ。
 原作、アペンド版、ファンディスク、漫画小説アニメ舞台ドラマCD。全部を紐解いても此処から先は語られていない。私達はこれから脚本無き世界を歩んでいくことになる。感無量だし感慨深いし、一抹の寂しさを感じる。

「私、前世では結構『どきエデ』尽くしだったんだ」
「わたしだってそうです。イベントも結構行きましたし限定グッズも揃えました」
「『どきエデ』の世界を体験できればどれだけ幸せだろう、って想像を膨らませてた。アレクサンドラやルシアじゃなくて、傍から推しを眺めるモブ女子としてさ」
「わたしは夢女だったからルシアになれて幸せでしたよ。本物は違うなぁ、って」

 夢が現実になって。憧れのままじゃいられなくなって。
 私達は生きてきた。『どきエデ』じゃあ語られない、語りきれない、この世界で。
 もう私達に悪役令嬢だとかヒロインだとかの肩書は要らない。縛られない。

「それでわたし達をこうして招いたんですね。『どきエデ』を語り尽くすために」
「そう言うこと。言っておくけれど私、これまでの鬱憤があるから喋りだしたらきりがないわよ」
「『どきエデ』への愛だったら絶対負けませんからね」
「言ったわね。その挑戦、受けて立つわ」

 それを皮切りに『どきエデ』の話題で花を咲かせようとした矢先、ようやく招いていた残りの客人が姿を見せた。
 彼女達は微笑みをこぼしながら恭しく一礼し、席に腰を落ち着かせた。

「遠路はるばるご苦労さま。コンスタンサ、そしてアンヘラ」

 そう、私が呼び出したのはつい先日本編を乗り越え終えた『どきエデ2』のヒロインこと男爵令嬢アンヘラと、悪役令嬢こと公爵令嬢コンスタンサだった。

 コンスタンサと会うのは久しぶりだけれど、ようやく彼女と『どきエデ2』のキャラ立ち絵の印象が合致した。アレクサンドラが絶世の美女ながらどこか高慢な印象なのに対してコンスタンサは孤高の存在って感じだったのを思い出した。

 アンヘラと会うのは初めてだったかしら。へえ、この世界のアンヘラってこうなのね。ひと目見てルシアとはまた違った可愛らしさがあるわ。はにかむ笑顔も素敵だし、男がつい気にしてしまい、女が警戒するのも無理はない。

「本日はお招き頂きまして光栄に存じます。……と、堅苦しい挨拶はここまでにして、今日は各々の立場は関係ない無礼講、でしたか?」
「ええ。あくまでアレクサンドラ、ルシア、コンスタンサ、そしてアンヘラの四名で喋るだけよ。だから国の情勢とかつまらない話題は厳禁よ」
「勿論そのつもりです。だって折角この世界に転生を果たした者だけで催されるお茶会ですし、勿体ないでしょう」

 ちなみにコンスタンサとアンヘラの夫になったレオンとエドガーも招待しているけれど、こっちはジェラールとアルフォンソ様に対応してもらっている。親子水入らずで思う存分語ってもらうとしましょう。

 なーんて事を喋ったら、「私共が何を語り合っているか気になって仕方がないかもしれませんね」とコンスタンサが呟いてきた。『どきエデ』について知っているのはエドガーだけだけれど、案外みんな私達の事情を察しているかもね。
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