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Interlude1 アレクサンドラのその後
王妃アレクサンドラの茶会③
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「じゃあまず最初なんだけれど、ルシアはどうして逆ハーレムルートなんて選んだりしたのよ。無茶苦茶だとは分かっていたでしょう」
「いきなり来ますね……。大好きなキャラクターからの愛が欲しかったからです。それ以外にありません。わたしなら出来るって確信もありましたし」
「どこからそんな自信が出てくるのか知りたいんだけれど? いくら『どきエデ』を知り尽くしててもこの世界が乙女ゲームの展開をなぞるとは限らないのに」
「それはわたしがルシアだからです。誰がなんと言おうとも、ね」
何を言ってんのよコイツ、と呆れていたら、ルシアはおもむろに立ち上がり、テーブルと少し距離を置くと、まずは一礼した。そして軽く息を吸って、大きく、それこそ大劇場の舞台にいたら隅にまで響き渡る透き通った声で台詞を吐いた。
「アレクサンドラ様……どうか罪をお認めになってください! 今ならアルフォンソ様は許してくださいます……!」
それはもう遥か彼方の昔になってしまったあの日の焼き増しだ。アルフォンソ様が私に婚約破棄を言い渡してルシアが私に屈服を促す、断罪イベントの。へえ、今でも『どきエデ』ヒロインの台詞と仕草を覚えてるなんて、大したものだわ。
とか関心してたわたしの記憶はとっくに摩耗していたんでしょう。既に子が成人になるまでこの世界で生きてきた私にとって『どきエデ』の知識は数十年前のもの。忘れちゃっても仕方がないでしょう。
「アンヘラさん。今のルシア夫人の台詞、もしかして漫画版?」
「初出はそうでしょうけれど、演技はアニメ版ともドラマCD版と違います。でもどこかで聞いた感じが……」
「思い出したわ。舞台版じゃないかしら?」
「あ、あー! そうでしたそうでした。それもルシア本人だって評されてた憑依型で有名な舞台女優の――」
コンスタンサとアンヘラの話を聞いてようやく思い出せた。何度も舞台化されてる『どきエデ』は多くの俳優が演じているけれど、怪演でひときわ観客の目を引いた主演女優がちょうど目の前にいるルシアみたいな感じだったわね。
だとしたら、ルシアは前世でもガチでルシアだったってこと? そりゃあ確かに『どきエデ』のルシアとしての自分に誇りを持っていたなら、結ばれる殿方の愛を欲しくなるのも頷けなくもない。それも、呼吸をするみたいに当然に。
まあ、『どきエデ』に拘りすぎたことがルシアの敗因に繋がったのだけれどね。そのせいで真ルシアに足元を掬われたし、『どきエデ』を滅茶苦茶にした私にざまぁされる結末になったんだし。
「それよりわたしは前世を思い出してなかったのに逆ハーレムルートを突き進んでたアンヘラの方が驚きだったんだけど」
「えーっと、多分ですけど、完全に思い出せたのが一日前だっただけで、おぼろけですけど前世のことがふと頭の中に思い浮かんでたりしたんじゃないでしょうか? その、わたしもお義母さん……ルシアとは違った意味で愛が欲しかったですから」
アンヘラが語るに、彼女は前世でも家族に恵まれていなかったらしい。両親は早くに離婚して、再婚後の新しい家庭では居場所が無く、学校卒業後はすぐに家を出てNPO法人に所属、世界中で支援活動していたんだとか。
家族の愛を知らなかったアンヘラは家族を欲した。母を失って代わりに自分を愛してくれる伴侶を求めた。その結果が逆ハーレムルートなのはどうよと思うけれど、結果的にエドガーでその渇望が潤ったのだからいいでしょう。
「わたしは一年間も悪役令嬢を演じてたコンスタンサ様の方が驚きです。もしかして前世では女優だったりします?」
「単純に年の功でしょう。だって私、前世と合わせたら多分貴女達の誰よりも長く生きてるし」
「……へ?」
「何を驚いているの? 転生を遂げるのなら大往生したお婆ちゃんの方がらしいとは思わないかしら? それとも不幸な最後を遂げた小娘の特権だとでも?」
コンスタンサ曰く、彼女は私でも耳にしたことがある世界的大手企業のビジネスユニット長レベルの凄い人だったらしい。バリバリのエリートウーマンじゃないの。しかも孫までいたんだとか。そんなお人が『どきエデ』にはまるなんて不思議なものね。
あと不思議なことにコンスタンサを始め、三人共最後まで日常生活を送っていた記憶しか残っておらず、どうやって命を落としたかは全く覚えてないらしい。私もそうだったんだけれど、どうしてかしら?
「いきなり来ますね……。大好きなキャラクターからの愛が欲しかったからです。それ以外にありません。わたしなら出来るって確信もありましたし」
「どこからそんな自信が出てくるのか知りたいんだけれど? いくら『どきエデ』を知り尽くしててもこの世界が乙女ゲームの展開をなぞるとは限らないのに」
「それはわたしがルシアだからです。誰がなんと言おうとも、ね」
何を言ってんのよコイツ、と呆れていたら、ルシアはおもむろに立ち上がり、テーブルと少し距離を置くと、まずは一礼した。そして軽く息を吸って、大きく、それこそ大劇場の舞台にいたら隅にまで響き渡る透き通った声で台詞を吐いた。
「アレクサンドラ様……どうか罪をお認めになってください! 今ならアルフォンソ様は許してくださいます……!」
それはもう遥か彼方の昔になってしまったあの日の焼き増しだ。アルフォンソ様が私に婚約破棄を言い渡してルシアが私に屈服を促す、断罪イベントの。へえ、今でも『どきエデ』ヒロインの台詞と仕草を覚えてるなんて、大したものだわ。
とか関心してたわたしの記憶はとっくに摩耗していたんでしょう。既に子が成人になるまでこの世界で生きてきた私にとって『どきエデ』の知識は数十年前のもの。忘れちゃっても仕方がないでしょう。
「アンヘラさん。今のルシア夫人の台詞、もしかして漫画版?」
「初出はそうでしょうけれど、演技はアニメ版ともドラマCD版と違います。でもどこかで聞いた感じが……」
「思い出したわ。舞台版じゃないかしら?」
「あ、あー! そうでしたそうでした。それもルシア本人だって評されてた憑依型で有名な舞台女優の――」
コンスタンサとアンヘラの話を聞いてようやく思い出せた。何度も舞台化されてる『どきエデ』は多くの俳優が演じているけれど、怪演でひときわ観客の目を引いた主演女優がちょうど目の前にいるルシアみたいな感じだったわね。
だとしたら、ルシアは前世でもガチでルシアだったってこと? そりゃあ確かに『どきエデ』のルシアとしての自分に誇りを持っていたなら、結ばれる殿方の愛を欲しくなるのも頷けなくもない。それも、呼吸をするみたいに当然に。
まあ、『どきエデ』に拘りすぎたことがルシアの敗因に繋がったのだけれどね。そのせいで真ルシアに足元を掬われたし、『どきエデ』を滅茶苦茶にした私にざまぁされる結末になったんだし。
「それよりわたしは前世を思い出してなかったのに逆ハーレムルートを突き進んでたアンヘラの方が驚きだったんだけど」
「えーっと、多分ですけど、完全に思い出せたのが一日前だっただけで、おぼろけですけど前世のことがふと頭の中に思い浮かんでたりしたんじゃないでしょうか? その、わたしもお義母さん……ルシアとは違った意味で愛が欲しかったですから」
アンヘラが語るに、彼女は前世でも家族に恵まれていなかったらしい。両親は早くに離婚して、再婚後の新しい家庭では居場所が無く、学校卒業後はすぐに家を出てNPO法人に所属、世界中で支援活動していたんだとか。
家族の愛を知らなかったアンヘラは家族を欲した。母を失って代わりに自分を愛してくれる伴侶を求めた。その結果が逆ハーレムルートなのはどうよと思うけれど、結果的にエドガーでその渇望が潤ったのだからいいでしょう。
「わたしは一年間も悪役令嬢を演じてたコンスタンサ様の方が驚きです。もしかして前世では女優だったりします?」
「単純に年の功でしょう。だって私、前世と合わせたら多分貴女達の誰よりも長く生きてるし」
「……へ?」
「何を驚いているの? 転生を遂げるのなら大往生したお婆ちゃんの方がらしいとは思わないかしら? それとも不幸な最後を遂げた小娘の特権だとでも?」
コンスタンサ曰く、彼女は私でも耳にしたことがある世界的大手企業のビジネスユニット長レベルの凄い人だったらしい。バリバリのエリートウーマンじゃないの。しかも孫までいたんだとか。そんなお人が『どきエデ』にはまるなんて不思議なものね。
あと不思議なことにコンスタンサを始め、三人共最後まで日常生活を送っていた記憶しか残っておらず、どうやって命を落としたかは全く覚えてないらしい。私もそうだったんだけれど、どうしてかしら?
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