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Interlude1 アレクサンドラのその後

公爵嫡男セシリオの求婚(後)

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 セシリオが婚姻届を携えて向かった先はセナイダの実家だった。当然前触れなんて出していない突然の訪問。しかしセナイダの両親である子爵夫妻は来訪者がセシリオだと聞くと慌てて招き入れるのだった。

「改めまして、突然の訪問にも関わらず中に入れて頂き感謝致します。今日参りましたのは――」
「あー、セシリオ殿。公爵閣下より聞いているかもしれないが、貴方と娘の関係は私共も把握しているんだ。一からの説明は要らないから、要件だけを述べてくれ」
「……では、私はセナイダ嬢と結ばれたいと強く願っています。つきましては婚姻の許可を頂きたく足を運んだ次第です」

 セシリオは自分がいかにセナイダを愛しているかを熱烈に語った。言葉のすればするほど彼はセナイダについて語りたくなり、饒舌になっていく。自分はこれだけ喋れたのか、そしてセナイダを想っていたのか、と自分でも呆れるほどだった。

「……そうか。賭けは娘の負けだったようだな」
「と、言いますと?」

 子爵が言うには、セナイダは実家に戻ると自分に起こった出来事を話すのだが、話題の多くがセシリオについてだったらしい。特に学生時代は彼一色に染まっていたと言っても過言ではなかった。決して彼に抱く好意を認めようとはしていなかったが。

 しかし、セナイダは同時に両親に早く自分の縁談をまとめてほしいと常日頃願っていた。自分が公爵家の嫡男と添い遂げるなんて不相応だから、背丈にあった殿方を探して欲しい、と。

「つまり、セナイダ嬢は私が公爵家の事情を二の次にして求婚してくるとは思っていなかった、と?」
「どうやらそのようなんですよ。とはいえ、娘が貴方に心を許していることは察していましたので、実は婚約者探しは保留にしていたんです。先延ばし出来てもあの娘が仕えているアレクサンドラ様がご卒業なさる今年までが限界だとは思っておりましたがね」
「……感謝致します」
「いや、感謝するのはむしろこちらの方です」

 子爵夫妻はセシリオに向けて深く頭を下げた。

「我が家の懐事情もあるとは言え、我々はセナイダに苦しい思いをさせてしまった。セナイダが立派な淑女になったのはひとえに貴方方のおかげです」
「わたくし共が準備しなければならない持参金まで自分の稼ぎから捻出させてしまって、本当に不甲斐ない限りです」
「そんな苦労を重ねる中、貴方のことを語るセナイダは本当に楽しそうだった。私は貴方が公爵家の者だろうと平民の出だろうと許すつもりでいた」
「セシリオ様は娘を幸せにしてくださりますか?」
「勿論です。この私の誇りにかけてもセナイダを幸せにしてみせます」

 そうして婚姻届にセナイダの保護者として署名した子爵だったが、涙ながらだったので涙がこぼれ落ちて何箇所か文字が滲んでしまう出来事があったりした。

 翌日、断罪劇で失態を演じたアルフォンソが謹慎を言い渡されて慌ただしかった王宮にセシリオが謁見を申し入れたところ、すんなりとお目通しが叶った。身なりを整えて王宮へと向かった彼は、国王夫妻に婚姻届を提出した。

「いいだろう。我が名カルロスの名においてセシリオとセナイダの婚姻を認める」

 そして、目を通すなり国王として署名を行ったのだった。
 これにはセシリオも信じられないとばかりに思考を停止させてしまった。

「どうしたセシリオよ。伝え聞く噂ではトリスタンの後継者としてその頭角を現していると聞いていたが、この展開はそなたの予想だにしなかったか?」
「あ、いえ。次に公爵となる私めの婚姻ともなれば王国においても重要な事柄。まさか検討を省略して認めていただけるとは思ってもおらず……」
「子爵令嬢セナイダについてはクラウディアから事前に聞いています。アレクサンドラも気に入っている子ですし、問題はないでしょう」
「尤も、王家がそなた達公爵家に迷惑をかけた詫びも含まれてはいるのだがな」
「おめでとう。これで好きだった娘をアレクサンドラに取られずに済むかしら?」

 まさか国王夫妻にまで知れ渡っているとは思っておらず、恥ずかしさで穴に埋まりたくなるのを必死に堪える。しかし国王から戻ってきた婚姻届を手にして、ようやく実感が湧いてきた。もはや自分達を阻む障害など何一つ無い、と。

「しかしだな、肝心のセナイダの署名が無いようだが?」
「外堀を埋めてからでないと彼女は逃げてしまいますので」
「外堀どころか正門も開いちゃってるじゃないの。貴方達は本当に兄妹なのねぇ」

 微笑ましく見つめてくる国王と王妃に一礼したセシリオは公爵邸へと舞い戻り、公爵へと報告。許しを得て、次の日に朝食を取ろうと食堂へと向かっていたセナイダを呼び止め、求婚するのだった。

「不束者ですが、以後よろしくお願いいたします」
「……ああ。よろしく頼む」

 遠回りだったがこのように本懐を果たせたこと、感無量だった。
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