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歪み
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「......ごめん、もも」
「いいって。謝ることじゃないって、ずっと言ってるじゃん」
セックスが終わった後は、必ずこうだった。正確には終わった後というよりも、気を失った桃井の身体をシャワーで綺麗にしたり、色々な体液で汚れたシーツやらを交換したり、そういう後処理をすべて佐原が終えて桃井が目を覚ましてからの話である。
とはいえ、桃井にとってはついさっきまで自分をいじめてめちゃくちゃにしていた男がすっかり落ち込んでしょぼくれているのだから、毎度のことながら調子が狂ってしまう。
「ごめん、ごめんね。俺、たくさんひどいこと言ってた」
「うん、だから俺はそれがいいんだってば」
「……急に呼び出すのだって、迷惑だってわかってるのに……不安になって、怖くて」
「……まあ、確かに友達の誘いは断ったけどさ」
桃井がそう言うと、佐原はハッと顔をあげてその整った顔をくしゃくしゃに歪めて、子どものように涙を瞳に浮かべた。その後すぐにまた顔をうつむかせて、ぽろぽろと涙をこぼす。
桃井がそんな物言いをしたのは、わざとだった。わざと佐原が申し訳なくなって、落ち込むような物言いを選んだ。
佐原も強く桃井に依存した歪んだ男ではあるが、桃井もまたその関係に依存している。
佐原が自分がそばにいることに慣れて安心しきってしまうようではだめなのだ。常に不安で、自分を求めて必死に繋ぎ止めようと躍起になっていてもらわなくてはならない。
桃井にとって、友達の誘いを断ることなどさほど問題ではない。本当は友達との関係をすべて絶ってこの部屋から一歩も出るなと言われたっていいし、佐原がそう望むのであればそうするだろう。
けれど佐原透という男はそうではない。サディスティックでわがままで、相手を辱しめるような言動で性的興奮を得る人物ではあるが、理性がそれをいけないとセーブをかけようとしている男だ。
だから佐原はいつも桃井をきちんと家に帰すし、ひどいことをしたり言ったりしたセックスの後はいつもこうして涙を滲ませながら何度も謝る。
そのたびに桃井はなんだかな、と思いつつ、けれどずっとこのままであればいいとも思う。
ひどいことをしてしまった、申し訳ないと思っているうちはまだ自分に執着していてくれるし、どんなに口でごめんねと言っても本能では桃井をいじめて支配して自分だけのものにしたいと思っていることを、桃井は知っている。
この本能と理性のバランスが何よりも大事なのだ。どちらかが勝っても劣ってもいけない。
この壊れそうな絶妙なバランスを保っているままなら、この関係はずっと続いていく。だからこそ桃井は佐原を許したり、ほんの少し許さなかったりする。
そんな相手のことを手玉にとるような行動をしながらも、心の中ではもっとめちゃくちゃにされたい、抵抗なんてできないくらいひどくしてほしい、いっそ惨めなまでに抱き潰しながら殺してくれたら……なんて、そんなことを考えている桃井のほうこそ、実は歪んでいた。
「いいって。謝ることじゃないって、ずっと言ってるじゃん」
セックスが終わった後は、必ずこうだった。正確には終わった後というよりも、気を失った桃井の身体をシャワーで綺麗にしたり、色々な体液で汚れたシーツやらを交換したり、そういう後処理をすべて佐原が終えて桃井が目を覚ましてからの話である。
とはいえ、桃井にとってはついさっきまで自分をいじめてめちゃくちゃにしていた男がすっかり落ち込んでしょぼくれているのだから、毎度のことながら調子が狂ってしまう。
「ごめん、ごめんね。俺、たくさんひどいこと言ってた」
「うん、だから俺はそれがいいんだってば」
「……急に呼び出すのだって、迷惑だってわかってるのに……不安になって、怖くて」
「……まあ、確かに友達の誘いは断ったけどさ」
桃井がそう言うと、佐原はハッと顔をあげてその整った顔をくしゃくしゃに歪めて、子どものように涙を瞳に浮かべた。その後すぐにまた顔をうつむかせて、ぽろぽろと涙をこぼす。
桃井がそんな物言いをしたのは、わざとだった。わざと佐原が申し訳なくなって、落ち込むような物言いを選んだ。
佐原も強く桃井に依存した歪んだ男ではあるが、桃井もまたその関係に依存している。
佐原が自分がそばにいることに慣れて安心しきってしまうようではだめなのだ。常に不安で、自分を求めて必死に繋ぎ止めようと躍起になっていてもらわなくてはならない。
桃井にとって、友達の誘いを断ることなどさほど問題ではない。本当は友達との関係をすべて絶ってこの部屋から一歩も出るなと言われたっていいし、佐原がそう望むのであればそうするだろう。
けれど佐原透という男はそうではない。サディスティックでわがままで、相手を辱しめるような言動で性的興奮を得る人物ではあるが、理性がそれをいけないとセーブをかけようとしている男だ。
だから佐原はいつも桃井をきちんと家に帰すし、ひどいことをしたり言ったりしたセックスの後はいつもこうして涙を滲ませながら何度も謝る。
そのたびに桃井はなんだかな、と思いつつ、けれどずっとこのままであればいいとも思う。
ひどいことをしてしまった、申し訳ないと思っているうちはまだ自分に執着していてくれるし、どんなに口でごめんねと言っても本能では桃井をいじめて支配して自分だけのものにしたいと思っていることを、桃井は知っている。
この本能と理性のバランスが何よりも大事なのだ。どちらかが勝っても劣ってもいけない。
この壊れそうな絶妙なバランスを保っているままなら、この関係はずっと続いていく。だからこそ桃井は佐原を許したり、ほんの少し許さなかったりする。
そんな相手のことを手玉にとるような行動をしながらも、心の中ではもっとめちゃくちゃにされたい、抵抗なんてできないくらいひどくしてほしい、いっそ惨めなまでに抱き潰しながら殺してくれたら……なんて、そんなことを考えている桃井のほうこそ、実は歪んでいた。
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ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
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