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公園にて
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店を出た二人は、しばしの沈黙の後、口を揃えて「少し話せませんか?」と言った。必死な俺はまだしも、彼からもそう提案されることは意外だった。
アキさんからはお茶でも、なんて言われたけれど、お互いに話せば、多分他の人も居る公共の場で出すべきではないワードがたくさん出るだろうとなんとなく察していた。
少し歩いたところに小さな公園があったので、そこで座って話すことにした。
「なんで僕だってわかったんですか?」
彼が最初に話し始めたのは、尤もな疑問からだった。彼は動画の中で、一度も顔を出したりはしていない。
「声と、その……体つきで」
「ああ~……体はまあ、あんまり男っぽくはないから、わかりやすいのかな。声……声かあ。そんな変わってますか?」
彼の声はさほど特徴的というほどでもない。平均的な声というのもよくわからないけれど、変に高かったり、喋り方が独特ということもない。
「いや、変わってるというわけじゃないと思います。ただ、俺がめちゃくちゃ聞いてるから、覚えちゃったというか……」
「そ、そっか……あ~、やば、めっちゃ恥ずかしい……」
「俺もです」
恥ずかしさの度合いはきっと彼のほうがうんと強いとは思いつつ、とりあえず恥ずかしいのは君だけではないですということを伝えれば、少しの気休めにはなるかと思い、そう言った。
「……あの、名前…」
「ああ、そう。多分メールアドレス見てくれたんですよね? ハルって」
「はい。結局送れたことはないんですけど、その……メッセージ、送ってみたら……話せるかなと思って、見たことはあって」
「あ、送ったことはないんですね。動画で名乗ったりアカウント名は初期のランダム生成から変えたりしてないから、アドレスでしか知れないよなって……僕、榛名っていいます。榛名紘太」
はるな、こうたくん。ずっと好きだった子の名前を、ようやく知れた感動で、思わず名乗り返すよりも先に、小さく繰り返してしまった。
「俺は、松嶋夏生です。よろしく」
「よろしく……ふふ、名前知るより先に色々あって、なんかほんと、おかしいですね」
「たしかに、普通これが最初ですよね」
普通ではない出会い方をしてしまった二人は、ようやく普通の初めましての挨拶や会話を始める。
「松嶋くんは、大学生ですか?」
「そうです、大学二年。榛名くんは」
「僕も大学生です。三年だから、一個上かな?」
「わ、年上だったんだ」
「僕もさっきから松嶋くんのほうが年上かと思ってた。でも一個しか違わないんだし、タメ口にしません?」
「わかりまし……わかった」
「あは、その調子」
画面越しでしか知らなかった子と、普通に話している。いまだその緊張感が抜けきらず、どこかふわふわと浮ついていた。
アキさんからはお茶でも、なんて言われたけれど、お互いに話せば、多分他の人も居る公共の場で出すべきではないワードがたくさん出るだろうとなんとなく察していた。
少し歩いたところに小さな公園があったので、そこで座って話すことにした。
「なんで僕だってわかったんですか?」
彼が最初に話し始めたのは、尤もな疑問からだった。彼は動画の中で、一度も顔を出したりはしていない。
「声と、その……体つきで」
「ああ~……体はまあ、あんまり男っぽくはないから、わかりやすいのかな。声……声かあ。そんな変わってますか?」
彼の声はさほど特徴的というほどでもない。平均的な声というのもよくわからないけれど、変に高かったり、喋り方が独特ということもない。
「いや、変わってるというわけじゃないと思います。ただ、俺がめちゃくちゃ聞いてるから、覚えちゃったというか……」
「そ、そっか……あ~、やば、めっちゃ恥ずかしい……」
「俺もです」
恥ずかしさの度合いはきっと彼のほうがうんと強いとは思いつつ、とりあえず恥ずかしいのは君だけではないですということを伝えれば、少しの気休めにはなるかと思い、そう言った。
「……あの、名前…」
「ああ、そう。多分メールアドレス見てくれたんですよね? ハルって」
「はい。結局送れたことはないんですけど、その……メッセージ、送ってみたら……話せるかなと思って、見たことはあって」
「あ、送ったことはないんですね。動画で名乗ったりアカウント名は初期のランダム生成から変えたりしてないから、アドレスでしか知れないよなって……僕、榛名っていいます。榛名紘太」
はるな、こうたくん。ずっと好きだった子の名前を、ようやく知れた感動で、思わず名乗り返すよりも先に、小さく繰り返してしまった。
「俺は、松嶋夏生です。よろしく」
「よろしく……ふふ、名前知るより先に色々あって、なんかほんと、おかしいですね」
「たしかに、普通これが最初ですよね」
普通ではない出会い方をしてしまった二人は、ようやく普通の初めましての挨拶や会話を始める。
「松嶋くんは、大学生ですか?」
「そうです、大学二年。榛名くんは」
「僕も大学生です。三年だから、一個上かな?」
「わ、年上だったんだ」
「僕もさっきから松嶋くんのほうが年上かと思ってた。でも一個しか違わないんだし、タメ口にしません?」
「わかりまし……わかった」
「あは、その調子」
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