4 / 31
出会うべくして
しおりを挟む
「あれ、二人は知り合いだったの?」
ほんの一瞬、時が止まったみたいに感じていたところを、アキさんがそう尋ねてくれた。
「あ、ああ、いや、知り合いというか、俺が一方的に知ってるというか、その」
「……あの、もしかして、動画見てくれてる方ですか?」
「……!!」
しどろもどろになっている俺に、彼はそう言葉を返した。そのときの衝撃が、誰かにわかるだろうか。ついさっき、初めて声が耳に飛び込んできた瞬間から、もしかして、まさかと感じた点と点が、その言葉ですっかり繋がったのだ。
そんな都合のいいことがあるはずがないと思っていたことが、まさに現実になったと確信する言葉だ。
「そ、そうです! あの俺、いつも見てて、すごい、かわいいなって思ってて……」
ずっと好きだったという告白ではあるが、これはいつも君のオナニーを見ていますという意味でもある。気持ち自体は真剣そのものなのに、とても恥ずかしいし、どこか後ろめたさもある。俺は顔から火が出そうというのはこういう感じか、と身をもって実感していた。
そしてそれは、きっと彼も同じなのだろう。俯いてしまった顔はよく見えないけれど、さっきまでほんのりとしたピンク色だった耳が、真っ赤になっている。それを見てまたかわいいなんて思いつつも、多分自分だってきっと、同じ色をしているんだろう。
「……ありがとう、ございます……」
彼はようやく、小さな声でそう絞り出した。
「すみません、急に声なんてかけてしまって……! でも、君かもって思ったら、居ても立っても居られなくて……」
「あっ、いや、迷惑とかじゃないです! あの、すっごく……恥ずかしいけど……嬉しいです。こんなまさか、見てくれてる人が実際居るなんて、あんまり考えてなかったから」
「俺も、実際会えるとか、ちょっと信じられないんだけど……」
どうしよう。俺の頭の中はその言葉で埋まっていた。こうして会話をしていても、まるで現実味がない。これが夢ではない自信がない。
好きで好きでたまらなかったあの子が、本当はこんなに好みど真ん中の外見をしていて、今目の前にいて、俺と言葉を交わしている。
作り話にしたって出来過ぎた展開だ。けれど、どうしたって視野に入るいやらしいおもちゃの数々が、ここがアダルトグッズのショップであるという実感を持たせてくれて、エロ動画で繋がった二人が出会うべくして出会う場所のようにも思えた。
「……君も、その……するの?」
「え?」
「それ、すごいね……」
「……! いやっ、これは……!!」
彼が視線を落としていたのは、俺が手に持ったままだった、えげつないイボイボ回転機能つきバイブだった。それもまた、ちょっと太めのやつだ。
「松嶋くんはね、ここの常連さんなんだよ~」
「ア、アキさん……!」
「そうだったんだ」
話に入ってきたアキさんに目配せすると、余計なことまでは言わないよというように軽くウインクされる。俺はどうしたものか、汗が止まらない。
「で、二人とも、お買い上げでいいかな?」
「あ、はい! すみませんお店の中なのに話し込んでしまって……」
「僕はいいんだけどね、でも落ち着かないでしょ、ここじゃ。せっかく何か縁があるみたいだし、良いお客さん同士が仲良くなるなんて僕も嬉しいな♡」
「お、俺これは……」
「わかってるよ。今はまだ、ちょっとはやいかもね」
アキさんはそう意味深に言って、彼の分の会計だけを手早く済ませて、『お茶でもしてきたら~』と笑い、送り出してくれたのだった。
ほんの一瞬、時が止まったみたいに感じていたところを、アキさんがそう尋ねてくれた。
「あ、ああ、いや、知り合いというか、俺が一方的に知ってるというか、その」
「……あの、もしかして、動画見てくれてる方ですか?」
「……!!」
しどろもどろになっている俺に、彼はそう言葉を返した。そのときの衝撃が、誰かにわかるだろうか。ついさっき、初めて声が耳に飛び込んできた瞬間から、もしかして、まさかと感じた点と点が、その言葉ですっかり繋がったのだ。
そんな都合のいいことがあるはずがないと思っていたことが、まさに現実になったと確信する言葉だ。
「そ、そうです! あの俺、いつも見てて、すごい、かわいいなって思ってて……」
ずっと好きだったという告白ではあるが、これはいつも君のオナニーを見ていますという意味でもある。気持ち自体は真剣そのものなのに、とても恥ずかしいし、どこか後ろめたさもある。俺は顔から火が出そうというのはこういう感じか、と身をもって実感していた。
そしてそれは、きっと彼も同じなのだろう。俯いてしまった顔はよく見えないけれど、さっきまでほんのりとしたピンク色だった耳が、真っ赤になっている。それを見てまたかわいいなんて思いつつも、多分自分だってきっと、同じ色をしているんだろう。
「……ありがとう、ございます……」
彼はようやく、小さな声でそう絞り出した。
「すみません、急に声なんてかけてしまって……! でも、君かもって思ったら、居ても立っても居られなくて……」
「あっ、いや、迷惑とかじゃないです! あの、すっごく……恥ずかしいけど……嬉しいです。こんなまさか、見てくれてる人が実際居るなんて、あんまり考えてなかったから」
「俺も、実際会えるとか、ちょっと信じられないんだけど……」
どうしよう。俺の頭の中はその言葉で埋まっていた。こうして会話をしていても、まるで現実味がない。これが夢ではない自信がない。
好きで好きでたまらなかったあの子が、本当はこんなに好みど真ん中の外見をしていて、今目の前にいて、俺と言葉を交わしている。
作り話にしたって出来過ぎた展開だ。けれど、どうしたって視野に入るいやらしいおもちゃの数々が、ここがアダルトグッズのショップであるという実感を持たせてくれて、エロ動画で繋がった二人が出会うべくして出会う場所のようにも思えた。
「……君も、その……するの?」
「え?」
「それ、すごいね……」
「……! いやっ、これは……!!」
彼が視線を落としていたのは、俺が手に持ったままだった、えげつないイボイボ回転機能つきバイブだった。それもまた、ちょっと太めのやつだ。
「松嶋くんはね、ここの常連さんなんだよ~」
「ア、アキさん……!」
「そうだったんだ」
話に入ってきたアキさんに目配せすると、余計なことまでは言わないよというように軽くウインクされる。俺はどうしたものか、汗が止まらない。
「で、二人とも、お買い上げでいいかな?」
「あ、はい! すみませんお店の中なのに話し込んでしまって……」
「僕はいいんだけどね、でも落ち着かないでしょ、ここじゃ。せっかく何か縁があるみたいだし、良いお客さん同士が仲良くなるなんて僕も嬉しいな♡」
「お、俺これは……」
「わかってるよ。今はまだ、ちょっとはやいかもね」
アキさんはそう意味深に言って、彼の分の会計だけを手早く済ませて、『お茶でもしてきたら~』と笑い、送り出してくれたのだった。
51
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。



男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる