画面越しの性欲からピュアな恋なんて始まるわけがない!?

おさかな

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出会うべくして

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「あれ、二人は知り合いだったの?」
 ほんの一瞬、時が止まったみたいに感じていたところを、アキさんがそう尋ねてくれた。
「あ、ああ、いや、知り合いというか、俺が一方的に知ってるというか、その」
「……あの、もしかして、動画見てくれてる方ですか?」
「……!!」
 しどろもどろになっている俺に、彼はそう言葉を返した。そのときの衝撃が、誰かにわかるだろうか。ついさっき、初めて声が耳に飛び込んできた瞬間から、もしかして、まさかと感じた点と点が、その言葉ですっかり繋がったのだ。
 そんな都合のいいことがあるはずがないと思っていたことが、まさに現実になったと確信する言葉だ。

「そ、そうです! あの俺、いつも見てて、すごい、かわいいなって思ってて……」
 ずっと好きだったという告白ではあるが、これはいつも君のオナニーを見ていますという意味でもある。気持ち自体は真剣そのものなのに、とても恥ずかしいし、どこか後ろめたさもある。俺は顔から火が出そうというのはこういう感じか、と身をもって実感していた。
 そしてそれは、きっと彼も同じなのだろう。俯いてしまった顔はよく見えないけれど、さっきまでほんのりとしたピンク色だった耳が、真っ赤になっている。それを見てまたかわいいなんて思いつつも、多分自分だってきっと、同じ色をしているんだろう。

「……ありがとう、ございます……」
 彼はようやく、小さな声でそう絞り出した。

「すみません、急に声なんてかけてしまって……! でも、君かもって思ったら、居ても立っても居られなくて……」
「あっ、いや、迷惑とかじゃないです! あの、すっごく……恥ずかしいけど……嬉しいです。こんなまさか、見てくれてる人が実際居るなんて、あんまり考えてなかったから」
「俺も、実際会えるとか、ちょっと信じられないんだけど……」

 どうしよう。俺の頭の中はその言葉で埋まっていた。こうして会話をしていても、まるで現実味がない。これが夢ではない自信がない。
 好きで好きでたまらなかったあの子が、本当はこんなに好みど真ん中の外見をしていて、今目の前にいて、俺と言葉を交わしている。

 作り話にしたって出来過ぎた展開だ。けれど、どうしたって視野に入るいやらしいおもちゃの数々が、ここがアダルトグッズのショップであるという実感を持たせてくれて、エロ動画で繋がった二人が出会うべくして出会う場所のようにも思えた。


「……君も、その……するの?」
「え?」
「それ、すごいね……」
「……! いやっ、これは……!!」
 彼が視線を落としていたのは、俺が手に持ったままだった、えげつないイボイボ回転機能つきバイブだった。それもまた、ちょっと太めのやつだ。

「松嶋くんはね、ここの常連さんなんだよ~」
「ア、アキさん……!」
「そうだったんだ」
 話に入ってきたアキさんに目配せすると、余計なことまでは言わないよというように軽くウインクされる。俺はどうしたものか、汗が止まらない。

「で、二人とも、お買い上げでいいかな?」
「あ、はい! すみませんお店の中なのに話し込んでしまって……」
「僕はいいんだけどね、でも落ち着かないでしょ、ここじゃ。せっかく何か縁があるみたいだし、良いお客さん同士が仲良くなるなんて僕も嬉しいな♡」
「お、俺これは……」
「わかってるよ。今はまだ、ちょっとはやいかもね」

 アキさんはそう意味深に言って、彼の分の会計だけを手早く済ませて、『お茶でもしてきたら~』と笑い、送り出してくれたのだった。
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