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おもちゃ屋さん 2
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そんなことをぐるぐると考えながら、そのえげつないおもちゃを手にしたままでいると、ふいに耳に入ってきた声にハッとする。
「すみません、これって中見られますか?」
どこかで聞いた声だった。
他に来ていたお客さんが、恐らく海外製のおもちゃのパッケージが読めなくて、素材が何でできてるのかを確認させてもらってるようだ。
「はぁい、ああ、それね。いいよ、持っておいで」
「すみません、何語なのかもわからなくて……シリコンですよね?」
「そうそう、ドイツ語なんだけど読めないよね~。これは結構柔らかさもあって気持ちいいし、海外製だけど丈夫なやつで安心だよ~」
「そうなんですね。わ、ほんとに柔らかい!」
見本用の商品を出してくれたアキさんと親しげに話す男の子。他のお客さんのことをじろじろ見るのは失礼だろうと思いつつも、その子の声に、頭よりも先にからだが反応して、胸がばくばくとうるさくなっていく。
……その声は、いつも見ている動画のあの子のものに、そっくりだった。
俺はまさかと息を呑み、目の前の男の子のことを観察する。背は高くも低くもないが、スラッと細くて脚が長い。アウターを着ているから上半身は後ろ姿だとよくわからないが、ややタイトめのボトムスだから男性の割に少し丸みのある尻や太腿、ふくらはぎのラインがよくわかる。その身体にも、俺はとてもよく見覚えがある。
いつもは下着姿だったり、女装姿だったりするので素肌が見えていて、服を着た状態は見たことがないけれど、これまで『あの身体が普通の服を着たらどんな感じか』の想定はもう何度も繰り返してきている。
「こ、これ、なんかすっごいリアルですね……」
「でしょお? いいリアクションね~!」
「あはは、やだ、恥ずかしいですよ」
声だってそうだ。喘ぎ声じゃなくて、普通に話したらどんな声だろうって、何度も何度も頭の中で考えた。楽しそうに笑ったらどんな風に響くのだろうと、飽きもせず考えてきた。
俺はもう、確信めいたものを持っていた。本当に俺にとって都合が良すぎて、とても信じられないけれど。それでもこれまで積み重ねてきた妄想やイメージトレーニングの結果、これは間違いないと、勝手に高鳴り続ける心臓がそう伝えてきている。
絶対にあの子だ。
話しかけたい、でも何て?
俺はあの子の名前も知らないのに、まずどう呼び掛けたらいいのかすらもわからなくて、けれどこんな偶然のチャンスを絶対に逃したくなくて、胸の音がうるさくて、全然考えなんてちっともまとまらない。
「あ、あの! haruくん……ですよね」
「……えっ?」
口をついて出たのは、あの子のメールアドレスにあった『haru』の文字列だった。彼は動画内で名乗ったこともないし、あれがあの子の名前だなんて保証はどこにもないのに、しまったと思ってももう遅い。俺に背を向けていた彼が、俺のその声に驚いて振り返る。
振り向いた横顔に、俺は思わず目を見開いた。長いまつ毛に縁取られた可愛らしいまるい瞳に、薄い赤色の唇は艶めいて、白い肌によく映えている。少し幼い印象を受ける顔立ちながら、どこか湿度のある色気も含んでいて、正直に言ってかなりタイプだった。
簡単に言うと、めちゃくちゃかわいいということだ。
「すみません、これって中見られますか?」
どこかで聞いた声だった。
他に来ていたお客さんが、恐らく海外製のおもちゃのパッケージが読めなくて、素材が何でできてるのかを確認させてもらってるようだ。
「はぁい、ああ、それね。いいよ、持っておいで」
「すみません、何語なのかもわからなくて……シリコンですよね?」
「そうそう、ドイツ語なんだけど読めないよね~。これは結構柔らかさもあって気持ちいいし、海外製だけど丈夫なやつで安心だよ~」
「そうなんですね。わ、ほんとに柔らかい!」
見本用の商品を出してくれたアキさんと親しげに話す男の子。他のお客さんのことをじろじろ見るのは失礼だろうと思いつつも、その子の声に、頭よりも先にからだが反応して、胸がばくばくとうるさくなっていく。
……その声は、いつも見ている動画のあの子のものに、そっくりだった。
俺はまさかと息を呑み、目の前の男の子のことを観察する。背は高くも低くもないが、スラッと細くて脚が長い。アウターを着ているから上半身は後ろ姿だとよくわからないが、ややタイトめのボトムスだから男性の割に少し丸みのある尻や太腿、ふくらはぎのラインがよくわかる。その身体にも、俺はとてもよく見覚えがある。
いつもは下着姿だったり、女装姿だったりするので素肌が見えていて、服を着た状態は見たことがないけれど、これまで『あの身体が普通の服を着たらどんな感じか』の想定はもう何度も繰り返してきている。
「こ、これ、なんかすっごいリアルですね……」
「でしょお? いいリアクションね~!」
「あはは、やだ、恥ずかしいですよ」
声だってそうだ。喘ぎ声じゃなくて、普通に話したらどんな声だろうって、何度も何度も頭の中で考えた。楽しそうに笑ったらどんな風に響くのだろうと、飽きもせず考えてきた。
俺はもう、確信めいたものを持っていた。本当に俺にとって都合が良すぎて、とても信じられないけれど。それでもこれまで積み重ねてきた妄想やイメージトレーニングの結果、これは間違いないと、勝手に高鳴り続ける心臓がそう伝えてきている。
絶対にあの子だ。
話しかけたい、でも何て?
俺はあの子の名前も知らないのに、まずどう呼び掛けたらいいのかすらもわからなくて、けれどこんな偶然のチャンスを絶対に逃したくなくて、胸の音がうるさくて、全然考えなんてちっともまとまらない。
「あ、あの! haruくん……ですよね」
「……えっ?」
口をついて出たのは、あの子のメールアドレスにあった『haru』の文字列だった。彼は動画内で名乗ったこともないし、あれがあの子の名前だなんて保証はどこにもないのに、しまったと思ってももう遅い。俺に背を向けていた彼が、俺のその声に驚いて振り返る。
振り向いた横顔に、俺は思わず目を見開いた。長いまつ毛に縁取られた可愛らしいまるい瞳に、薄い赤色の唇は艶めいて、白い肌によく映えている。少し幼い印象を受ける顔立ちながら、どこか湿度のある色気も含んでいて、正直に言ってかなりタイプだった。
簡単に言うと、めちゃくちゃかわいいということだ。
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