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 そんなやり取りをしている間に、店からさほど離れていない、アメリが部屋を借りている建物が見えた。別れの時間が近づいて、ラウルは無意識にぽつりと呟く。

「…あぁ…離れたくないな…」

 無意識だからこそ、飾りも偽りもない。その言葉に心が揺さぶられたアメリは、小さな声で一つ提案した。

「ねえ、ラウル。…少し、あがっていく?」

「えっ、…あっ!その、狙って言ったわけじゃなくてっ」

「うん、うん。それで、どうする?」

「…………いく」

 素直になったラウルは正直に答え、何度も頷いた。彼の格好をつけない素直な反応が、アメリには好ましく映る。アメリがにこりと微笑むとラウルは顔を赤らめ、二人は手を繋いだまま建物に入った。

(ああ…外からしか見えなかったアメリの部屋に、いよいよ…)

 アメリの部屋は一階の角部屋だ。扉の前で繋いだ手を離し、鍵を開ける彼女の後ろ姿を眺めながら、ラウルは感動に胸を震わせている。胸に両手をあてたラウルは、懐が震えていることに気づいて目を見開いた。

(…………うん?)

 しかし、震えていたのはつかの間のこと。今は鎮まった懐を眺めながら、彼は首を傾げる。そこにしまい込んであるのは、ジュスティーヌから受け取った魔導具だ。探しものが近くにあればわかるといった魔導具が震えていたことから、彼が探しているエドガールが束の間でも近くにいたことを示している。

(…まさか、あいつ…まだアメリを諦めていなかったのか…?)

 今は魔導具に反応はなく、エドガールは帰ってくるはずのアメリを待ち伏せようと身を潜め、ラウルの姿を見つけて逃げ出したのかもしれない。エドガールを捕らえるには好都合であったが、アメリのことを思うと望ましくない状況だ。

「どうしたの?ラウル」

「あっ、い、いや…」

 情報規制のこともあるが、アメリに嫌な思いをさせないためにも秘密裏に片づけようと、ラウルは曖昧に濁して笑った。アメリはその様子を少し不思議に思いながらも、それ以上は気にせず彼を部屋へと招き入れた。

 扉が開かれ、ラウルは夢に見たアメリの部屋へと足を踏み入れる。部屋は広くはないが、一人で生活するには十分の広さだった。

「…あぁ、いい匂いがする…アメリの匂いだ…」

「えっ、私の?」

 アメリは部屋の中を嗅ぎ、自分の腕を鼻に近づけて嗅いでみたが、どちらも匂いは分からなかった。

「えっと…ラウル、ソファに座っていて」

「ああ、うん…」

 ラウルはうっとりとしながらアメリの言葉に従い、部屋の片隅にある二人がけのソファに座る。部屋の中を見渡せるその位置からはアメリが飲み物を用意している姿が見えた。

(…最高だなあ…)

 ラウルは湯気のたつティーカップを二つ手にし、彼の元にやってくるアメリの姿を眺めながら、最高に幸せな気持ちに浸っていた。そんなにこにこと笑顔なラウルの姿を見て、アメリはくすりと笑う。

「いい茶葉じゃないけれど、よかったら」

「アメリが淹れてくれたなんて…のむのがもったいない…っ」

「…飲んでくれたほうが嬉しいわ。また、何回でも淹れるから」

「また!」

 ラウルはアメリの言葉に目をきらきらと輝かせる。交際していれば紅茶を煎れる機会はいくらでもあると、アメリは気軽にまたと口にしたが、ラウルにはそのまたがとても嬉しいようだ。

(…可愛い人)

 アメリは男性に可愛いという表現は似つかわしくないと思いつつも、ラウルが可愛く思えて仕方なかった。口がうまいとは言い難く、思ったことをそのまま口に出し、感情がすぐ顔に表れる。そんな彼の素直さが、酷い裏切りにあったアメリにはとても好ましい。ラウルは今まで自分を格好良く見せようとし、また顔の良さも相まって高い理想を抱かれ、落差に残念だと評されていた。だが今は、自分を繕おうとするよりアメリが好きだという気持ちが強すぎて意図せず素直で正直になっているのだが、それがいい方向に効いているようだ。

「ラウルはどのあたりに住んでいるの?」

「肉屋と靴屋が並んでる通りの、向かい側の路地を一本入ったところで…」

「…ちょっとまって、それじゃあよくわからないわ。区は?」
 
「あ、えっと…ええっと…あっ、北区と東区と境の、東区だ!」

「…ううん…、なんとなくわかったわ。南区じゃなかったのね」

 ラウルの説明はあまりにも下手であったが、東区だということは理解できた。彼と初めて出会ったのは南区だっため、東区に居を構えていることは意外であった。

「あの日は、西区外郭で仕事だったから…南区を経由して東区にもどろうとしていたんだ」

「じゃあ、南区にいたのは偶然だったのね。私も、南区にいたのは偶然だったの。すごい偶然ね」

 ラウルはたまたま西区で仕事があったから、東区に戻るために南区を横切ろうとし、途中で酒場で酒を飲んで酔っぱらっていた。アメリもたまたま欲しかったものが北区の店になかったため、遠い南区に足を運んだ。二人の出会いは奇跡のような偶然だ。

「…運命だったんだ」

「ええ?」

「アメリは、私の運命の人だったんだ…」

 ラウルは頬を赤らめ、うっとりとした表情で呟く。それは格好をつけているわけではなく、本気でそう思っての言葉だろう。

「運命なんて…大袈裟ね」

「だって…こんな気持ち、アメリだけなんだっ!」

 ラウルの言葉にアメリは心が揺さぶられる。ラウルの目はまっすぐに彼女を見つめ、ほかには目もくれない。出会ってたった一夜過ごしただけの名も知らぬ女を探し出した彼の思いは疑うべくもないだろう。

「…私だけ?」

 アメリは問いながら、ラウルの手をそっと握る。すると彼は顔を真っ赤に染め、何度も深く頷いた。

(…可愛い)

 手をつなぐ以上のことをしておきながら、ラウルはアメリから手を繋いだだけで顔を赤くして照れ、ズボンを膨らましている。彼の初々しい反応に、アメリは可愛いと胸をときめかせた。

「…もう、元気になったの?」

「えっ、あ!…い、いや、だって…っ」

 焦るラウルに悪戯心が刺激され、アメリは手を伸ばす。熱くなったそこに彼女の手がそっと触れると、ラウルは大袈裟に肩を震わせた。

「あっ、…う…ぅ…」

 アメリが指先でそこをなぞると、ラウルは短く熱い息を吐く。アメリの指に与えられる刺激を享受し、僅かに腰を揺らしながら懇願するように彼女を見つめた。

「アメリ…っ」

「…ラウル」

 与えられた刺激に興奮し、切なげに名を呼ぶラウルの声に、アメリの興奮も高められる。ラウルの期待の目に応えてアメリが彼のズボンの前を寛げさせると、そこから既にシミを作った下着が表れた。

(こんなつもりじゃなかったのに…)

 アメリがラウルを部屋に上げたのは、別れを惜しむ彼ともう少しだけ一緒にいようと思っただけだ。決してこの展開を望んでいたわけではないのに、アメリの体は彼を欲している。

(私、こんなつもりじゃ…)

 こんなつもりじゃなかったと言い訳しながら、アメリは手を止められなかった。ラウルの下着をずらし、勢いよくとびだした雄々しく滾る陰茎に目を釘付けにする。顔に似合わない凶悪とも言えるほど太く、長い反り勃つ逸物に、アメリはごくりと生唾を飲んだ。

「アメリ…っ、さ、触ってくれ…」

「…私が?」

「アメリに、触られたいっ」

 ラウルの懇願に胸をときめかせたアメリはそっと、彼の陰茎を手で包み込む。彼女が片手におさまらないそれをゆっくりと手を動かして擦ると、ラウルは気持ちよさそうに声を漏らした。

「う、ぅ…っ…あ、ぁ…っ」

 美しく整った顔を、アメリに与えられる快楽に歪ませる。蕩けた表情で喘ぎ、手の動きに合わせて腰を揺らすラウルを眺めながら、アメリも興奮していた。触れられずとも秘部は濡れ、下腹部を甘く疼かせた彼女は、ラウルから目が離せなかった。
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