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第十六章

正式入隊の意思

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 僕たちが《海龍》に戻ると、見慣れぬヘリコプターが甲板上に止まっていた。

 あれに橋本晶が乗ってきたのかな?

「他にも、乗ってきた人はいるのかい?」

 と、彼女に聞くと、首を横に振る。

「あのヘリは、完全自動操縦なのでパイロットはいません。私一人で来ました。荷物を少しでも多く積みたかったので」
「荷物?」
「マテリアル・カートリッジですよ。リトル東京の工業設備で再充填可能なカートリッジを、すべて積み込んできました」

 それは助かる。

 正直、かなりのカートリッジが無くなりかけていたからな。

 Pちゃんに聞いてみると、カートリッジはすでに艦内に運び込んであるそうだ。

 それと、橋本晶のロボットスーツ着脱装置も……

 倉庫でロボットスーツを脱着すると、僕は橋本晶から一通の封筒を受け取った。

「これは?」
「森田指令からです」

 芽依ちゃんのお父さんから?

 内容は、僕の今後の身の振り方についてだった。

 リトル東京防衛隊に正式入隊するかどうかの。

 僕の場合、意思確認をしないままプリンターから出力されたので、入隊を無理強いする事はできないらしい。

 入隊を拒否する自由はあるが、その代わり僕が今使用しているプリンターやロボットスーツなどの装備は、すべて防衛隊に返却しなければならなくなる。

 まあ、当然だな。

 この惑星に来てから、僕はこれらの装備品を自分の私物のように使っていたが、本来は防衛隊の装備。入隊を拒否するなら、返却しなければならなくなる。
 
 本来ならシャトルがリトル東京に降りた時に、僕から入隊の意思を確認する事になっていたが、シャトルの不時着によってその機会がなくなってしまったため、緊急処置として僕が使うことが許されていたわけだ。

 しかし、今になって装備品を取り上げられても困るのだが……

「森田指令は、カルカとの共同作戦が終了するまでは、仮入隊という形にしてくれるそうです。それまでは、装備品は自由に使ってかまわないと」

 作戦終了後は?

「私の乗ってきたヘリで、リトル東京へ直ちに出頭せよとの事です。そこで入隊の意思を確認するのかと」

 なるほど……

「それは、急ぐ必要があるのかい?」
「はい。詳しくは言えませんが、あまり猶予がありませんので」
「別にわざわざリトル東京まで行って意思確認などしなくても、僕は入隊を拒否する気はない」
「よろしいのですか?」

 そもそも入隊を拒否したら、僕はこの惑星で路頭に迷うことになるだろう。今更、僕に選択肢なんかないのだが……

「それとも、僕が入隊すると、何か不都合なことでも?」
「いえ……そうではなくて、防衛隊に入隊するには事前に説明する事や手続きがいろいろとありまして……そのためには一度、隊長には……いえ、北村さんには、どうしても一度本部に出頭してもらう必要があるのです」

 こんな未来になっても、そういう事はリモートで済ませられないものなのかな?

「とにかく一度僕が行く必要があるのだね。それは分かった。それともう一つ気になるのだけど、この書面によると僕の待遇が一尉になっているが、いいのかい? 一兵卒から始めなくて」
「その心配はありません。北村さんは、戦死した隊長の記憶を、ブレインレターによって引き継いでいます。今回のカルカ艦隊の指揮ぶりを見て、能力的に問題なしという事になりました」

 ほんまにちゃんと見ていたのかな?

 司令官としてこれでいいのか? という場面がけっこうあったような気がするが……

「分かった。とにかく、この話は作戦終了後に詳しく聞くとして……」

 僕は背後に控えていたPちゃんの方へ振り向く。

「今から、明日の上陸作戦について打ち合わせをしたい。全員を《海龍》発令所に集めてくれ」
「全員とは、ミーチャさんも含めてですか?」
「そうだ」
「よろしいのですか?」
「いいんだ。この打ち合わせは、あくまでもレムに聞かせるためのフェイク。本会議は酒席で行う」

 それを聞いていた橋本晶は、怪訝な顔をする。

「あの……フェイクとか、酒席とか、どういう事です?」

 ん?

「ミーチャ・アリエフの事は、何も聞いていないのかい?」

 一応、ミーチャがレムに接続されているという事はカルカとリトル東京には伝えておいたはずだが……

「確か、帝国軍から脱走した少年兵で、北村さんが保護しているとか……」

 どうやら、情報漏洩を避けるために、彼女にはまだミーチャがレムに接続されている事は伝えていなかったようだな。

 事情を説明するとかなり驚いていた。

「そんな! 生きている人間を、プシトロンパルスの送受信機にするなんて……」
「レム神は、すでに人としての心を失っている。人間をコンピューターの部品に組み込んでも、それを非道とも思わないのだよ」
 
 レムにとって人間を機械に組み込む事なんて、人間が自分の血液から、血液製剤を作るような感覚なのだろう。

 赤血球や白血球など細胞の意思 (あればの話として)など考慮する余地もないのだ。
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