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第十六章

モーターボート

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 フーファイターのコントロールには、BMIが使われていた。そしてBMIの使用中、操縦者は無防備状態になっているはず。

 それにも関わらず、フライング・トラクターがミサイルをけようとした。

 フライング・トラクター内にもう一人操縦者がいたか、あるいは近くで遠隔操作していた者がいると考えられる。

 あのモーターボートに、その操縦者が乗っている可能性が高い。

「あの、北村さん」

 僕の推測を聞いていた芽依ちゃんが口を開いた。

「矢納さんって、三人コピーされたのですよね? フライング・トラクターに二人乗っていて、一人がフーファイターを、もう一人がフライング・トラクターを操縦していたのでは?」
「それはないと思う」
「どうしてですか?」
「確かに、矢納さんは二人いた。だが、そのうち一人はレムの手の届かないところに隠れているはずだ」
「なぜですか?」
「レムは矢納さんを粛正しようとしているが、一方で僕の手で殺された事にしたがっている。なぜ、レムはそんな手の込んだ事をするのか考えてみたんだ。芽衣ちゃん。以前にハイド島で、矢納さんが言った事を覚えているかい?」
「ええ。確かレムの支配下にある人を解放する方法を知っているみたいな事を……でも、信用できません」
「僕も信用できなかった。だが、それが事実だとするなら、レムがなぜ自分の手ではなく、僕の手で矢納さんを殺させようとしているのか納得できる」
「あ! もしかして、矢納さんはその情報で、レムと取引をしていたという事でしょうか?」
「そう。あるいは、レムに支配されている人を解放する手段じゃないにしても、矢納さんは何かレムに取って都合の悪い情報を握っている。そして、三人の矢納さんのうち一人はどこかに隠れている。レムとしては矢納さんを始末したくても、三人同時に始末しないと生き残った一人に情報を流されてしまう」
「それで、北村さんの手で殺させようとしているのですね。レムの手で始末したら、どこかに隠れている三人目の矢納さんに報復される。でも、北村さんに殺されたのなら、矢納さんもそんな事はしないと……」
「あくまでも、推測だけどね」

 そんな事を話しているうちに、モーターボートのすぐ近くまで来ていた。

 近づいて分かったのだが、モーターボートの屋根から太いケーブルが伸びていて水中に垂れ下がっている。

 どこかにつながっていたケーブルが外れて、そのまま引きずってきたようだ。

 フライング・トラクターの操縦は無線でできるはず。

 それではこのケーブルがフライング・トラクターに繋がっていたとするなら、何に使われていたのか?

 僕たちはボートの前に回り込んだ。

 窓ガラスの向こうは暗くてよく見えないが、操縦席があるはずの方向に銃を向ける。

「停船しろ。さもなくば撃つ」

 ボートは大人しく停船した。

 船内に入ると、操縦室にいたのは……

「矢納さん! あんたフライング・トラクターと一緒に吹っ飛んだのでは?」
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