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第十六章
情報のバーゲンセール
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不貞腐れた顔でボートの操縦席に座っていたのは、紛れもなく矢納さんだった。
「クソ! 騙せなかったか。フライング・トラクターは最初から無人だったのだよ。このボートから遠隔操作していたんだ」
やはりそうか。
「フーファイターも、フライング・トラクターのBMIとケーブルで繋いで、このボートから操縦していたのですね?」
「そうだよ。万が一おまえに居場所を突き止められた時に備えてな」
「なるほど。ところでフーファイターは、あなたが操縦していたのではなかったのですか?」
「最初のフーファイターは俺が操縦していた。落とされて二機目を出した時に……」
そう言ってから矢納さんは、背後を振り返り操縦席の奥を指さす。
「あいつと交代した」
操縦席の後ろには、人が一人横たわれる大きさのカプセルがあった。
あの中に操縦者がいるのか。
「なぜ交代したのです?」
「知らないのかよ。BMIには、百八十秒制限があるのを」
そういえば、そんな制限があったな。
「BMIを切断してから、再接続するまで百八十秒の時間をあけないと脳に障害が残るそうだ。だから、フーファイターの操縦を奴と交代して、俺はフライング・トラクターの操作を受け持った」
ところが交代していくらもしないうちに、僕たちが現れた。
急いでBMIを切断して、フライング・トラクターを急上昇させ、モーターボートを出したというところだったらしい。
「それで、あなたと交代した人は、誰です?」
「名前はキールとか言ったな。若い男……というよりガキだ。レムが、俺に助手として寄越した男だ」
助手というより監視だな。
「もう一人のあなたはどこにいます?」
「それは教えられないな。それより、俺はこれからどうなる?」
「もちろん。死んでもらいます」
「殺すのか? そんなに俺が憎いのかよ。おまえは、恨みを捨てると言ったじゃないか」
「憎いから殺すのではありません。あなたは僕に逆恨みをしているので、身の安全を確保するために死んでもらうのです」
「ま……待て! 俺はおまえにとって有益な情報を握っているんだ。それでも殺すのか?」
「それを聞くのは三度目ですね。聞き飽きました。有益な情報とやらが本当か分からないし、本当だとしても不当に高く売りつけられそうだし。ここで死んでもらいます」
というのは嘘。ここで殺す気などない。
かといって取引する気もない。
気絶させて《海龍》に連れ帰り、ミールの分身魔法で洗いざらい白状させるつもりだ。
「ま……待て。じゃあバーゲンセールだ。情報を安売りしてやる。報酬は俺の命だけでいい」
「本当に、命だけでいいのですか?」
「いや……もうちっと、追加してくれ。そんな欲張りな事は言わない」
「何を追加します?」
「まず、逃走手段と当面の食料」
「それだけでいいのですか?」
「それと、金貨百枚と美女と美酒をつけてくれれば、それ以上なにも欲張りな事は言わん。俺の知っている事を洗いざらい……」
「高過ぎです。そんな高い情報はいりません」
「待て! それならもう少しまける。美女と美酒は諦める」
「交渉はここまでです。念仏でも唱えてください」
「待て! 待て! 待て! それなら……うぎゃ!」
なんだ!? 突然、矢納さんが悲鳴をあげて倒れたぞ。僕はまだ、なにもしていないのに。
「矢納さん」
返事がない。すでに絶命していた。
見ると、後頭部に矢が刺さっている。
誰が!?
「情報の安売りはさせませんよ」
声の方に目を向けると、若い男がボーガンを持って立っていた。
「クソ! 騙せなかったか。フライング・トラクターは最初から無人だったのだよ。このボートから遠隔操作していたんだ」
やはりそうか。
「フーファイターも、フライング・トラクターのBMIとケーブルで繋いで、このボートから操縦していたのですね?」
「そうだよ。万が一おまえに居場所を突き止められた時に備えてな」
「なるほど。ところでフーファイターは、あなたが操縦していたのではなかったのですか?」
「最初のフーファイターは俺が操縦していた。落とされて二機目を出した時に……」
そう言ってから矢納さんは、背後を振り返り操縦席の奥を指さす。
「あいつと交代した」
操縦席の後ろには、人が一人横たわれる大きさのカプセルがあった。
あの中に操縦者がいるのか。
「なぜ交代したのです?」
「知らないのかよ。BMIには、百八十秒制限があるのを」
そういえば、そんな制限があったな。
「BMIを切断してから、再接続するまで百八十秒の時間をあけないと脳に障害が残るそうだ。だから、フーファイターの操縦を奴と交代して、俺はフライング・トラクターの操作を受け持った」
ところが交代していくらもしないうちに、僕たちが現れた。
急いでBMIを切断して、フライング・トラクターを急上昇させ、モーターボートを出したというところだったらしい。
「それで、あなたと交代した人は、誰です?」
「名前はキールとか言ったな。若い男……というよりガキだ。レムが、俺に助手として寄越した男だ」
助手というより監視だな。
「もう一人のあなたはどこにいます?」
「それは教えられないな。それより、俺はこれからどうなる?」
「もちろん。死んでもらいます」
「殺すのか? そんなに俺が憎いのかよ。おまえは、恨みを捨てると言ったじゃないか」
「憎いから殺すのではありません。あなたは僕に逆恨みをしているので、身の安全を確保するために死んでもらうのです」
「ま……待て! 俺はおまえにとって有益な情報を握っているんだ。それでも殺すのか?」
「それを聞くのは三度目ですね。聞き飽きました。有益な情報とやらが本当か分からないし、本当だとしても不当に高く売りつけられそうだし。ここで死んでもらいます」
というのは嘘。ここで殺す気などない。
かといって取引する気もない。
気絶させて《海龍》に連れ帰り、ミールの分身魔法で洗いざらい白状させるつもりだ。
「ま……待て。じゃあバーゲンセールだ。情報を安売りしてやる。報酬は俺の命だけでいい」
「本当に、命だけでいいのですか?」
「いや……もうちっと、追加してくれ。そんな欲張りな事は言わない」
「何を追加します?」
「まず、逃走手段と当面の食料」
「それだけでいいのですか?」
「それと、金貨百枚と美女と美酒をつけてくれれば、それ以上なにも欲張りな事は言わん。俺の知っている事を洗いざらい……」
「高過ぎです。そんな高い情報はいりません」
「待て! それならもう少しまける。美女と美酒は諦める」
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「待て! 待て! 待て! それなら……うぎゃ!」
なんだ!? 突然、矢納さんが悲鳴をあげて倒れたぞ。僕はまだ、なにもしていないのに。
「矢納さん」
返事がない。すでに絶命していた。
見ると、後頭部に矢が刺さっている。
誰が!?
「情報の安売りはさせませんよ」
声の方に目を向けると、若い男がボーガンを持って立っていた。
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