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第二章

レッドドラゴン 6

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 プロトタイプをテストしていた時、教授はこの機能をエイトマン走法と言っていた。
 でも、これって走ってないよな?
 ちなみにエイトマン走法に使うホバーやエアジェットは、背嚢のタンクに入っている圧搾空気を使っている。
 圧搾空気を使い切ったら、ホバーもジェットも使えなくなる。
「ジャンプ」
 僕は高々と跳躍して、今にも噛みつこうしていたレッドドラゴンの鼻先へ向かう。
 拳を握りしめる。
「ナックル」
 右の拳が装甲に覆われる。
 その装甲から、トゲトゲが生えた。
「ブースト」
 腕の人工筋肉が、一時的に出力を上げた。
 直後、僕の右ストレートがレッドドラゴンの鼻先に命中。
 鱗が割れて、拳がレッドドラゴンの鼻に食い込む。
「グギャアアアア!!」
 レッドドラゴンは悲鳴を上げると、ベジドラゴンの身体から離れて塩の平原を転げまわった。
 やはり、鼻は弱いようだな。
 ベジドラゴンの方を見ると、出血は酷いが何とか自力で立ち上がろうとしていた。
 もう一頭の大型ベジドラゴンがやってきて、傷ついた連れ合いの傷をなめる。子供達もやって来て手伝う。 
 家族愛の強い動物だな。
 レッドドラゴンの方を見ると、すっかり戦意を喪失したようだ。
 怯えるような目で、こっちをジッと見ている。
「何やっているのですか!? 早く、止めを刺して下さい」
 背後でPちゃんが騒ぐ。
「もう、勘弁してやろうよ。あいつも、懲りたろう」
「本当に懲りたなら、とっくに逃げています。今でも、奴は反撃の機会を窺っているのですよ」
「反撃の機会?」
「忘れたのですか? ロボットスーツは、五分で電池が切れて動けなくなることを……」
 そうだった!

 残り時間二百三十秒。

 奴が、こっちの時間制限を知っているとは思えない。
 しかし、ロボットスーツが動けなくなったら、さっきショットガンを手放した時のように、猛然と襲いかかってくるだろう。
 その前に倒さないと……
 僕は、奴に向かって駆けだした。
 残念だが、圧縮空気を使い切ったので、もうエイトマン走法は使えない。普通に走っていくしかないのだ。
 人工筋肉でアシストしているとは言え、人間の限界を越える速度で、手足を動かすことはできない。やったら、装着者の身体が保たない。
 実際、僕は身をもって体験している。
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