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第十四章

臨死体験

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 海斗たちが変態爺さんに悩まされている頃、もう一人の変態が大霊界へ向かっていた。



 矢部は、暗闇の中を漂っていた。

 時折、闇の中で過去の所行が現れる。

 惑星軌道上で再生され、機動服中隊に配属され、大気圏突入体に入った時がこの人生の最初だった。

 その直後に、後にリトル東京と呼ばれる事になる台地に降下して、仲間とともに帝国軍を掃討した時の事。

 捕虜にした女性兵士に手を出そうとして、営巣入りした時の事。

 橋本晶の入浴を覗いて、切り殺されそうになった時の事。

 森田芽依の胸を揉んで、隊長に射殺されそうになった時の事。

 それらの光景を見て、矢部は理解した。

 自分が死んだという事を……

「これが、走馬燈現象って奴か。思えば俺、ろくな人生送ってこなかったな」

 そんな暗闇がしばらく続き、やがて広い場所に出た。

「この先に、三途の川があるのか。誰が迎えに来てくれるのかな?」

 何気ない矢部の呟きに、答えが返ってくる。

「残念だけど、迎えは来ない」
「え?」

 声の方を見ると、知っている人物がいた。

「隊長」

 そこにいたのは、紛れもなく海斗。

 ただ、今の海斗より若干大人びている。

 補給基地で戦死した、一人目の海斗だと矢部は理解した。

「隊長!? あんたがここにいると言うことは、やはりコピー人間は魂を共有していないという事か?」
「そうなるね。ただ、二人目の僕は、オリジナル体の魂が入っている。僕は違うけどね」
「え? そういう事って、あるのですか?」
「ああ。オリジナル体の魂が、コピー人間に宿る事はよくあること。霊界では常識さ」
「そんな話、聞いた事ありません」
「当然だよ。この知識を現世に持ち帰る事は、誰にもできないのだから」
「忘れてしまうのですか?」

 海斗は頷く。

「君はこれから生き返ることになる。そうしたら、この事はほとんど覚えていないはずだ」
「俺、生き返るのですか?」
「言っただろ。迎えは来ないと。僕は君を追い返しにきた」
「そうですか。俺、生き返っちゃうのか」
「生き返りたくないのかい?」
「だってさ、生き返ったって、ろくな人生じゃないし。そもそも俺が死んだって、悲しむ奴なんて誰もいない」
「生き返ってから、人生を変えればいい」
「簡単に言ってくれますね。自分はもう死んだからって」
「そうでもない。できれば僕も生き返りたい。でも無理だ」
「そりゃあ、生き返りたいでしょ。あんたが死んだ時、どれだけ多くの人が泣いた事か……俺と一緒に敵に寝返った小淵君も成瀬さんも涙を流していた。笑っていたのは矢納さんぐらいで。レムも、あんたの死を惜しんでいた。是非ともあんたを融合したいと考えていたらしい」
「それは、ごめんこうむる」
「レムが矢納さんの粛正を決めたのだって、命令を無視してあんたを殺したからじゃないかと俺は思っているんだ。あんたは俺と違って、味方からも、敵からも愛されていた。そりゃあ、生き返りたいだろ」
「でも、生き返る事はできない。君は生き返れるのに」
「できれば、変わってもらいたいです」
「それはできない。君は、もうすぐ生き返る。そして、大切な情報を、新しい僕に届けることになるだろう」
「え?」
「さあ、そろそろ時間だ。帰ってくれ」

 次の瞬間、矢部は後ろに向かって落ちていった。

 どのくらい落ちていったのだろう?

 気が付くと、矢部はベッドの上に横たわっていた。

 どうやら、生き返ったらしい。

 だが、何か違和感があった。

 手足を失ったのだろうか?

 と思ったのだが、それはなかった。

 四肢は今も付いている。

 では、この身体の一部を失ったような違和感はなんだろう?

 程なくして矢部は気が付いた。

 レムとの接続が切れている事に……

「おや。目が覚めたようだね」

 声をかけられたのは、その時……

「今、私の翻訳機は日本語にセットしているのだが、私の言っている意味が分かるかね?」
「わ……分かる」
「そうか。それはよかった。君は川底で死にかけていたのだが、覚えているかね?」
「覚えている。あんたが助けてくれたのか?」
「そう。私が君を川底から引き上げて蘇生させた。そうそう。自己紹介がまだだったね。私はスーホ。タウリ族のスーホだ」

 その時、初めて矢部は声の主の姿を見た。

 半人半馬の知的生命体の姿を……

(第十四章終了)
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