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第十二章

定時連絡

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 Pちゃんが壁に向かってレーザーを照射。プロジェクション・マッピングでアーニャ・マレンコフの姿が現れた。

 ちなみにPちゃんの後頭部にもカメラがあって、こっちの様子を向こうの本体が映しているらしい。

『定時連絡が遅れた事情は、Pちゃんから聞いています。大変だったわね。ホテルでエラと鉢合わせになるなんて』
「ええ……幸いな事に、他のエラとの情報共有ができていない奴だったので、命拾いしましたが……」
『そう。ところで、二人がホテルに入ったのは、人目に付かないように盗聴器の電波を受信するためだったわね』
「そうですけど……」
『では、北村海斗君。あなたの頬についているキスマークはなに?』
「ええ!?」

 慌てて、頬を拭った。

『やはり、そういう事をしていたのね』
「え……いや……その……」

 はめられたか?

『《海龍》に戻ったら、お説教が必要かしら?』
「いや……これはですね。所謂ラッキースケベという奴で……」
『ラッキースケベ?』
「エラに吹っ飛ばされた僕の上に、やはり吹っ飛ばされたミールが落ちてきて、偶然唇が……」

 我ながら下手な嘘だな……

『そんな偶然あるかしら』

 あんまし、ないだろうなあ……でもここで引き下がるわけには……

「あるでしょ。無重力状態の宇宙船の中で男女が向き合っている時に、突然エンジンが点火されるとか」

 ここはアーニャさんの弱点を突かせてもらおう。

『う!』

 アーニャさんが顔をしかめる。

『そうね。そういう事もあるわね……で、誰に聞いたの?』
「さあ、誰でしょ」
『まあ、いいわ。報告を聞かせてもらえる』

 僕は盗聴器で知った情報を話した。

『そう。盗聴に気づかれてしまったのね。それで、君はこの後どうするつもり?』
「もちろん、盗賊団からこの町を……」
『それで、いいの?』
「え?」
『そんな行き当たりばったりの状況に流されて、この先の行動を決めていて本当にいいの?』
「ええっと……」
『私達の当初の目的は、マテリアル・カートリッジの奪還。こんな盗賊団なんかに関わっていたら、《アクラ》に逃げられてしまうわよ』
「それは……」
『《アクラ》の船足は速いわ。本気で逃げられたら《水龍》《海龍》の速度では追いつけない』
「それは、大丈夫です」
『根拠は?』
「《アクラ》は木造船四隻を曳航しなければならないはず。そんな速度は出せない」
『でも、私達がやってくることは知られてしまった。《アクラ》は木造船を見捨てて、逃亡するかもしれないわ』
「それも大丈夫です」
『なぜ?』
「成瀬真須美に知られてしまったのは、僕がそっちに向かっている事。いや、それだって推測に過ぎない。彼女は単に盗聴器を見つけただけで、僕には推測を話しただけ。僕達の目的が、カートリッジ奪還だという事は、まだ知らないはず。それならむしろ、艦隊を守るために逃げないと思います」
『なぜ逃げないと思うの?』
「こちらの目的がカートリッジの奪還であって、木造船に興味がないと分かっていれば《アクラ》はさっさと逃げるでしょう。しかし、それが分からなければ、僕らの目的を艦隊殲滅、あるいはナーモ族奴隷の解放と判断すると思います。そうなると《アクラ》は艦隊を守るために逃げられないと思います」 
『はい。合格』
「え?」
『私の考えも同じよ』

 だったら、こんな試すような事聞かなくても……

『君が行き当たりばったりで行動していないかと思って、ちょっと意地悪な質問しちゃったの。ごめんね』
「はあ」
『私もロータスを見捨てていいなんて思うほど、冷酷な女ではないわ。ただ、私達もあまり時間がない。可能な限り、盗賊団は速く殲滅する必要があるわよ』
「それは、分かっています」
『では、速やかに行動してね』

 通信が終えると、僕達は身支度をしてチェックアウトした。
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