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第十二章

撤退する帝国軍

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 ホテルを出ると、さっきまでチラホラ見かけた帝国兵の姿がない。

 もう撤収を始めているようだ。

「ミール。港の様子を見に行こう」
「ええ」

 夕闇迫る町中を、僕とミールは港へ向かって走った。

 十分ほどで、港を見渡せる高台に着く。

 木造帆船が次々と、大河へ出航していく様子が見えた。

「《アクラ》はどこだろう?」
「カイトさん。あれでは?」

 ミールの指さす先に視線を向けると、四隻の木造船を曳航している小さな船の姿があった。双眼鏡で見ると、ミーチャの絵とそっくり。

 間違えなく《アクラ》だ。

 ポケットからPちゃんを取り出した。

「Pちゃん。《アクラ》の速度を割り出してくれ」
「はい。ご主人様。しばし、お待ち下さい」

 Pちゃんの目がしばらく点滅した。

「測定できました。《アクラ》の速度は九ノットです」

 かなり、遅いな。これなら追いつける。

「カイトさん。あれを」

 ミールが桟橋の方を指さした。
 桟橋の上で帝国兵数人とナーモ族がもめている。

「あの人、町長じゃないですか?」

 確かに、さっき酒場で見かけた女性がいる。

「行ってみよう」

 僕達が桟橋に着いたときには、すっかり日が沈んでいた。

 街灯の明かりの下で、町長を含めたナーモ族達が、去っていく船を呆然と眺めている。

「もう、おしまいだわ。帝国軍に逃げられては……」

 町長の声が聞こえる距離まで来た。

「町長。まだ諦めるのは速いです」
「気休めはよして。どうやって、五千の盗賊団から町を守れると言うの?」
「カルカに援軍を頼みましょう」
「カルカに借りなんか作りたくないのよ。また、奴隷を解放しろと言ってくるわ。それに盗賊団は明日にでもやってくるのよ。カルカ軍が到着するころには、町は蹂躙された後よ」

 どうやら、援軍を申し出るのに良い機会のようだ。

 この時、町長が僕達に気が付いた。

「なに!? あなた達は」

 ミールが一歩前に進み出た。

「初めまして。町長さん。あたしは分身魔法使いのカ・モ・ミールと申します」
「カ・モ・ミールですって!?」「おい! それって」「シーバ城で帝国軍を苦しめた魔法使いじゃ?」

 ミールって、結構有名だったのだな。

 続いて、ミールは僕を指さした。

「そして、こちらの殿方は勇者カイト」

 おいおい……その名前はベジドラゴンの間だけでしか通じない……

「勇者カイトだと!?」「帝国軍百個師団を一人で殲滅したという地球人の戦士」

 伝わっていたのか……ていうか、噂に尾ひれが付きまくりなんですけど……帝国軍百個師団って、帝国の全人口動員しても足りないんですけど……

「嘘おっしゃい! 勇者カイトと言ったら地球人でしょ」

 そう言って、町長は僕を指さす。

「この男はどう見てもナーモ族よ」

 あ! ホロマスクを解除していなかったな。

「おお!」

 ホロマスクを解除すると、ナーモ族達はどよめいた。

「地球人になったぞ!」「どんな魔法だ?」 

 魔法と思われているようだ。

 ナーモ族達の驚きが冷めるのを待ち、僕は言った。

「みなさんにお話ししたい事があります」
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