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第十二章
一パーセントの可能性
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(海斗視点)
「主治医に、会わせてほしい」
僕の要請に応じて、病室にやって来た医者は、細い金フレームの眼鏡をかけた清楚な雰囲気を漂わせる中年の女医だった。
「主治医の柳 魅音と申します」
柳 魅音!? ひょっとして……
「あの……失礼ですが、先生は、朱雀隊の?」
「そうですけど……章さんから、昔の話でも聞いたのですか?」
「ええ……《朱雀》に乗って戦った時の話を……」
「まあ!」
女医は少し顔を赤らめた。
「な……何を聞いたのです!?」
突然、そんな事を叫んだのは女医の背後にいた中年の女性看護師。ネームプレートに目をやると『趙 麗華』と書かれている。
という事は彼女が……
「私の黒歴史をペラペラと……」
やはり彼女が、趙 麗華か。あの時の事は、彼女にとって消し去りたい恥ずかしい過去なのだろうか?
さらに聞いてみると、趙 麗華と王 博文はその後結婚したらしい。
王は日頃楊 美雨の店で料理人をやっているが、いざとなったらカルカ防衛隊の隊長を務めているそうだ。
芽衣ちゃんが言っていた隊長というのは王のことだったようだ。
「北村さん。用事と言うのはなんでしょう?」
僕は女医にタブレットを見せた。
そこには、カルル・エステスらがリトル東京から盗み出したマテリアルカートリッジのリストが表示してある。
「これは!?」
女医は目を皿の様にしてタブレットを見つめた。
「この中に、ナノマシン製造に必要なカートリッジは揃っていますか?」
女医は頷いた。
「確かにあります。しかしこれは盗まれた物ですよね?」
「そうです。でも、まだ使っていないかもしれない。可能性はゼロではない。そこで聞きますが、今からこれを取り戻したとして、章 白龍の治療は可能ですか?」
「可能です。しかし、すぐに決断しなければなりません」
女医は章 白龍のベッドに歩み寄り、眠っていた彼を起こした。
「章 白龍。決断して下さい」
「何を?」
「このまま治療を断念して、残り数日の余生を過ごすか? 一パーセントの可能性にかけて、もう一度、冷凍睡眠するか?」
話を聞いた章 白龍は首を横にふった。
なぜ?
「どうして!? 白龍君! 助かるかも知れないんだよ!」
食って掛かったミクに対して、章 白龍はゆっくりと首を横にふる。
「ダメだ。少ない可能性にかけるのはかまわない。しかし、敵に奪われたカートリッジを取り戻すとなると、味方に犠牲が出る。僕のために、これ以上人が死ぬのは……」
そういう事か……
僕はベッドに歩み寄った。
「その点は気にすることありません。どのみち、僕らは帝国と戦います。そのついでにカートリッジを取り戻すだけの事です」
「しかし……」
「ここであなたが治療を断念しても、犠牲はどのみち出る。戦いの結果、カートリッジを取り戻したとしましょう。その時に、あなたが死んでいたら、みんながどれだけ落胆すると思いますか?」
章 白龍は暫く考え込んだ。
「白龍君。冷凍睡眠して。あたしとお兄ちゃんで、必ずカートリッジを取り戻すから」
「しかし……」
レイホーが父に腕にしがみ付く。
「父さん! 冷凍睡眠するね! 私も一緒にカートリッジを取り戻しに行くね」
「お前に、そんな危険な事をさせたくない」
それも、そうか。
「それでは、レイホーさんはカルカに残るという事で……」
「冗談じゃないね!」
う! レイホーから睨みつけられた。
「自分の父親を助けるのに人に危険な事をさせて、実の娘が安全なところでのうのうとしているなんてできないね」
確かに……
「あなた……」
楊 美雨が章 白龍の肩にそっと手を置いた。
「美雨……」
「三十年前、まだ少年だったあなたに私は言ったわね。君が死んだら、私が悲しむと。今でも気持ちは同じよ。それに、三十年の間にあなたは英雄になって、そして父親になった。あなたが死んだら悲しむ人は、あの時よりもっと多いのよ」
「……」
女医と看護師も詰め寄った。
「章さん。あなたが死んだら私も悲しいです」「私だって悲しいわよ! それにデブだって悲しむわ! いや……今では大分痩せちゃったけど……あいつが涙なんか流したら、恰好悪いじゃないの! カルカ防衛隊の鬼隊長に、そんな恰好悪い事させたいの!」
「いや……その……」
「このままだとあんた、リトル東京を探しに出かけたアーニャと美玲が戻ってくるまで身体がもたないのよ。二人に別れの言葉もかけられないのよ」
「それは困るな」
章 白龍はようやく首を縦にふった。
「分かった。一パーセントの可能性にかけよう」
一時間後、章 白龍はみんなに見送られながら、再び眠りについた。
「主治医に、会わせてほしい」
僕の要請に応じて、病室にやって来た医者は、細い金フレームの眼鏡をかけた清楚な雰囲気を漂わせる中年の女医だった。
「主治医の柳 魅音と申します」
柳 魅音!? ひょっとして……
「あの……失礼ですが、先生は、朱雀隊の?」
「そうですけど……章さんから、昔の話でも聞いたのですか?」
「ええ……《朱雀》に乗って戦った時の話を……」
「まあ!」
女医は少し顔を赤らめた。
「な……何を聞いたのです!?」
突然、そんな事を叫んだのは女医の背後にいた中年の女性看護師。ネームプレートに目をやると『趙 麗華』と書かれている。
という事は彼女が……
「私の黒歴史をペラペラと……」
やはり彼女が、趙 麗華か。あの時の事は、彼女にとって消し去りたい恥ずかしい過去なのだろうか?
さらに聞いてみると、趙 麗華と王 博文はその後結婚したらしい。
王は日頃楊 美雨の店で料理人をやっているが、いざとなったらカルカ防衛隊の隊長を務めているそうだ。
芽衣ちゃんが言っていた隊長というのは王のことだったようだ。
「北村さん。用事と言うのはなんでしょう?」
僕は女医にタブレットを見せた。
そこには、カルル・エステスらがリトル東京から盗み出したマテリアルカートリッジのリストが表示してある。
「これは!?」
女医は目を皿の様にしてタブレットを見つめた。
「この中に、ナノマシン製造に必要なカートリッジは揃っていますか?」
女医は頷いた。
「確かにあります。しかしこれは盗まれた物ですよね?」
「そうです。でも、まだ使っていないかもしれない。可能性はゼロではない。そこで聞きますが、今からこれを取り戻したとして、章 白龍の治療は可能ですか?」
「可能です。しかし、すぐに決断しなければなりません」
女医は章 白龍のベッドに歩み寄り、眠っていた彼を起こした。
「章 白龍。決断して下さい」
「何を?」
「このまま治療を断念して、残り数日の余生を過ごすか? 一パーセントの可能性にかけて、もう一度、冷凍睡眠するか?」
話を聞いた章 白龍は首を横にふった。
なぜ?
「どうして!? 白龍君! 助かるかも知れないんだよ!」
食って掛かったミクに対して、章 白龍はゆっくりと首を横にふる。
「ダメだ。少ない可能性にかけるのはかまわない。しかし、敵に奪われたカートリッジを取り戻すとなると、味方に犠牲が出る。僕のために、これ以上人が死ぬのは……」
そういう事か……
僕はベッドに歩み寄った。
「その点は気にすることありません。どのみち、僕らは帝国と戦います。そのついでにカートリッジを取り戻すだけの事です」
「しかし……」
「ここであなたが治療を断念しても、犠牲はどのみち出る。戦いの結果、カートリッジを取り戻したとしましょう。その時に、あなたが死んでいたら、みんながどれだけ落胆すると思いますか?」
章 白龍は暫く考え込んだ。
「白龍君。冷凍睡眠して。あたしとお兄ちゃんで、必ずカートリッジを取り戻すから」
「しかし……」
レイホーが父に腕にしがみ付く。
「父さん! 冷凍睡眠するね! 私も一緒にカートリッジを取り戻しに行くね」
「お前に、そんな危険な事をさせたくない」
それも、そうか。
「それでは、レイホーさんはカルカに残るという事で……」
「冗談じゃないね!」
う! レイホーから睨みつけられた。
「自分の父親を助けるのに人に危険な事をさせて、実の娘が安全なところでのうのうとしているなんてできないね」
確かに……
「あなた……」
楊 美雨が章 白龍の肩にそっと手を置いた。
「美雨……」
「三十年前、まだ少年だったあなたに私は言ったわね。君が死んだら、私が悲しむと。今でも気持ちは同じよ。それに、三十年の間にあなたは英雄になって、そして父親になった。あなたが死んだら悲しむ人は、あの時よりもっと多いのよ」
「……」
女医と看護師も詰め寄った。
「章さん。あなたが死んだら私も悲しいです」「私だって悲しいわよ! それにデブだって悲しむわ! いや……今では大分痩せちゃったけど……あいつが涙なんか流したら、恰好悪いじゃないの! カルカ防衛隊の鬼隊長に、そんな恰好悪い事させたいの!」
「いや……その……」
「このままだとあんた、リトル東京を探しに出かけたアーニャと美玲が戻ってくるまで身体がもたないのよ。二人に別れの言葉もかけられないのよ」
「それは困るな」
章 白龍はようやく首を縦にふった。
「分かった。一パーセントの可能性にかけよう」
一時間後、章 白龍はみんなに見送られながら、再び眠りについた。
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