366 / 848
第十二章
一パーセントの可能性
しおりを挟む
(海斗視点)
「主治医に、会わせてほしい」
僕の要請に応じて、病室にやって来た医者は、細い金フレームの眼鏡をかけた清楚な雰囲気を漂わせる中年の女医だった。
「主治医の柳 魅音と申します」
柳 魅音!? ひょっとして……
「あの……失礼ですが、先生は、朱雀隊の?」
「そうですけど……章さんから、昔の話でも聞いたのですか?」
「ええ……《朱雀》に乗って戦った時の話を……」
「まあ!」
女医は少し顔を赤らめた。
「な……何を聞いたのです!?」
突然、そんな事を叫んだのは女医の背後にいた中年の女性看護師。ネームプレートに目をやると『趙 麗華』と書かれている。
という事は彼女が……
「私の黒歴史をペラペラと……」
やはり彼女が、趙 麗華か。あの時の事は、彼女にとって消し去りたい恥ずかしい過去なのだろうか?
さらに聞いてみると、趙 麗華と王 博文はその後結婚したらしい。
王は日頃楊 美雨の店で料理人をやっているが、いざとなったらカルカ防衛隊の隊長を務めているそうだ。
芽衣ちゃんが言っていた隊長というのは王のことだったようだ。
「北村さん。用事と言うのはなんでしょう?」
僕は女医にタブレットを見せた。
そこには、カルル・エステスらがリトル東京から盗み出したマテリアルカートリッジのリストが表示してある。
「これは!?」
女医は目を皿の様にしてタブレットを見つめた。
「この中に、ナノマシン製造に必要なカートリッジは揃っていますか?」
女医は頷いた。
「確かにあります。しかしこれは盗まれた物ですよね?」
「そうです。でも、まだ使っていないかもしれない。可能性はゼロではない。そこで聞きますが、今からこれを取り戻したとして、章 白龍の治療は可能ですか?」
「可能です。しかし、すぐに決断しなければなりません」
女医は章 白龍のベッドに歩み寄り、眠っていた彼を起こした。
「章 白龍。決断して下さい」
「何を?」
「このまま治療を断念して、残り数日の余生を過ごすか? 一パーセントの可能性にかけて、もう一度、冷凍睡眠するか?」
話を聞いた章 白龍は首を横にふった。
なぜ?
「どうして!? 白龍君! 助かるかも知れないんだよ!」
食って掛かったミクに対して、章 白龍はゆっくりと首を横にふる。
「ダメだ。少ない可能性にかけるのはかまわない。しかし、敵に奪われたカートリッジを取り戻すとなると、味方に犠牲が出る。僕のために、これ以上人が死ぬのは……」
そういう事か……
僕はベッドに歩み寄った。
「その点は気にすることありません。どのみち、僕らは帝国と戦います。そのついでにカートリッジを取り戻すだけの事です」
「しかし……」
「ここであなたが治療を断念しても、犠牲はどのみち出る。戦いの結果、カートリッジを取り戻したとしましょう。その時に、あなたが死んでいたら、みんながどれだけ落胆すると思いますか?」
章 白龍は暫く考え込んだ。
「白龍君。冷凍睡眠して。あたしとお兄ちゃんで、必ずカートリッジを取り戻すから」
「しかし……」
レイホーが父に腕にしがみ付く。
「父さん! 冷凍睡眠するね! 私も一緒にカートリッジを取り戻しに行くね」
「お前に、そんな危険な事をさせたくない」
それも、そうか。
「それでは、レイホーさんはカルカに残るという事で……」
「冗談じゃないね!」
う! レイホーから睨みつけられた。
「自分の父親を助けるのに人に危険な事をさせて、実の娘が安全なところでのうのうとしているなんてできないね」
確かに……
「あなた……」
楊 美雨が章 白龍の肩にそっと手を置いた。
「美雨……」
「三十年前、まだ少年だったあなたに私は言ったわね。君が死んだら、私が悲しむと。今でも気持ちは同じよ。それに、三十年の間にあなたは英雄になって、そして父親になった。あなたが死んだら悲しむ人は、あの時よりもっと多いのよ」
「……」
女医と看護師も詰め寄った。
「章さん。あなたが死んだら私も悲しいです」「私だって悲しいわよ! それにデブだって悲しむわ! いや……今では大分痩せちゃったけど……あいつが涙なんか流したら、恰好悪いじゃないの! カルカ防衛隊の鬼隊長に、そんな恰好悪い事させたいの!」
「いや……その……」
「このままだとあんた、リトル東京を探しに出かけたアーニャと美玲が戻ってくるまで身体がもたないのよ。二人に別れの言葉もかけられないのよ」
「それは困るな」
章 白龍はようやく首を縦にふった。
「分かった。一パーセントの可能性にかけよう」
一時間後、章 白龍はみんなに見送られながら、再び眠りについた。
「主治医に、会わせてほしい」
僕の要請に応じて、病室にやって来た医者は、細い金フレームの眼鏡をかけた清楚な雰囲気を漂わせる中年の女医だった。
「主治医の柳 魅音と申します」
柳 魅音!? ひょっとして……
「あの……失礼ですが、先生は、朱雀隊の?」
「そうですけど……章さんから、昔の話でも聞いたのですか?」
「ええ……《朱雀》に乗って戦った時の話を……」
「まあ!」
女医は少し顔を赤らめた。
「な……何を聞いたのです!?」
突然、そんな事を叫んだのは女医の背後にいた中年の女性看護師。ネームプレートに目をやると『趙 麗華』と書かれている。
という事は彼女が……
「私の黒歴史をペラペラと……」
やはり彼女が、趙 麗華か。あの時の事は、彼女にとって消し去りたい恥ずかしい過去なのだろうか?
さらに聞いてみると、趙 麗華と王 博文はその後結婚したらしい。
王は日頃楊 美雨の店で料理人をやっているが、いざとなったらカルカ防衛隊の隊長を務めているそうだ。
芽衣ちゃんが言っていた隊長というのは王のことだったようだ。
「北村さん。用事と言うのはなんでしょう?」
僕は女医にタブレットを見せた。
そこには、カルル・エステスらがリトル東京から盗み出したマテリアルカートリッジのリストが表示してある。
「これは!?」
女医は目を皿の様にしてタブレットを見つめた。
「この中に、ナノマシン製造に必要なカートリッジは揃っていますか?」
女医は頷いた。
「確かにあります。しかしこれは盗まれた物ですよね?」
「そうです。でも、まだ使っていないかもしれない。可能性はゼロではない。そこで聞きますが、今からこれを取り戻したとして、章 白龍の治療は可能ですか?」
「可能です。しかし、すぐに決断しなければなりません」
女医は章 白龍のベッドに歩み寄り、眠っていた彼を起こした。
「章 白龍。決断して下さい」
「何を?」
「このまま治療を断念して、残り数日の余生を過ごすか? 一パーセントの可能性にかけて、もう一度、冷凍睡眠するか?」
話を聞いた章 白龍は首を横にふった。
なぜ?
「どうして!? 白龍君! 助かるかも知れないんだよ!」
食って掛かったミクに対して、章 白龍はゆっくりと首を横にふる。
「ダメだ。少ない可能性にかけるのはかまわない。しかし、敵に奪われたカートリッジを取り戻すとなると、味方に犠牲が出る。僕のために、これ以上人が死ぬのは……」
そういう事か……
僕はベッドに歩み寄った。
「その点は気にすることありません。どのみち、僕らは帝国と戦います。そのついでにカートリッジを取り戻すだけの事です」
「しかし……」
「ここであなたが治療を断念しても、犠牲はどのみち出る。戦いの結果、カートリッジを取り戻したとしましょう。その時に、あなたが死んでいたら、みんながどれだけ落胆すると思いますか?」
章 白龍は暫く考え込んだ。
「白龍君。冷凍睡眠して。あたしとお兄ちゃんで、必ずカートリッジを取り戻すから」
「しかし……」
レイホーが父に腕にしがみ付く。
「父さん! 冷凍睡眠するね! 私も一緒にカートリッジを取り戻しに行くね」
「お前に、そんな危険な事をさせたくない」
それも、そうか。
「それでは、レイホーさんはカルカに残るという事で……」
「冗談じゃないね!」
う! レイホーから睨みつけられた。
「自分の父親を助けるのに人に危険な事をさせて、実の娘が安全なところでのうのうとしているなんてできないね」
確かに……
「あなた……」
楊 美雨が章 白龍の肩にそっと手を置いた。
「美雨……」
「三十年前、まだ少年だったあなたに私は言ったわね。君が死んだら、私が悲しむと。今でも気持ちは同じよ。それに、三十年の間にあなたは英雄になって、そして父親になった。あなたが死んだら悲しむ人は、あの時よりもっと多いのよ」
「……」
女医と看護師も詰め寄った。
「章さん。あなたが死んだら私も悲しいです」「私だって悲しいわよ! それにデブだって悲しむわ! いや……今では大分痩せちゃったけど……あいつが涙なんか流したら、恰好悪いじゃないの! カルカ防衛隊の鬼隊長に、そんな恰好悪い事させたいの!」
「いや……その……」
「このままだとあんた、リトル東京を探しに出かけたアーニャと美玲が戻ってくるまで身体がもたないのよ。二人に別れの言葉もかけられないのよ」
「それは困るな」
章 白龍はようやく首を縦にふった。
「分かった。一パーセントの可能性にかけよう」
一時間後、章 白龍はみんなに見送られながら、再び眠りについた。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる