365 / 848
第十二章
レムの呟き
しおりを挟む
(三人称)
闇の中で思考が飛び交っていた。
この思考を言葉にするとこんな感じであろう。
「我が地球を追われ、この惑星に来てから七十年。いつになったら地球へ戻れるのだ?」
「まだ機は熟していない」
「そもそもなぜこうなった? 計画では三十年でこの惑星で人間を最低でも十億人に増やし、その精神を融合して我は神に進化するはずだった。それなのに融合できた精神はいまだに三百万にも満たぬ」
「融合する精神を選り好みし過ぎるからだ。そんな悠長な事をしているから《天竜》や《イサナ》が来てしまった。軍艦で無かったのが幸いだが、地球の船が来てしまうのは想定していたはず。その前に事を終わらせようと三十年というタイムリミットを設定したのだ」
「仕方あるまい。質の悪い精神を融合するわけに行かないからな」
「それだけではない。精神の選別に戦争を使うから、人口が増えないのだ。そもそも、我は戦争をなくすために融合したのではないのか? これでは本末転倒」
「この戦争は恒久的平和を実現するための方便に過ぎん。戦争という極限状態に置くことによって、その者の本質が見えてくる。精神の選別に戦争は有効な手段だ」
「極限状態に置くことによって、精神がねじ曲がることもある事もある。本来なら融合可能な精神まで戦争は蝕んでいる」
「更生可能な精神は可能な限り更生させている。更生不可能な不要分子だけ排除している」
そこへ新たな情報がもたらされた。
「不要分子の排除には成功したようだな」
「しかし、カルカ攻略作戦は失敗した。原因はなにか?」
「《マカロフ》の戦力を過信しすぎたことだと思う」
「それだけではあるまい。不要分子の排除に敵の力を借りたのが不味かったのでないか?」
「確かに、カイト・キタムラを排除してしまえば作戦遂行は容易であったであろう。しかし、かの者はぜひとも我の一部に加えたい」
「別に排除しろと言っているのではない。カイト・キタムラとカルカの戦力を分離しておけば良かったという事だ。カイト・キタムラのカルカ入りを認めたのが間違えだった」
「別に認めたくて認めたわけではない。シミュレーションの結果、現有戦力でカイト・キタムラのカルカ入りを阻止する事は不可能と判断したまでだ。それくらいなら、カルカ入りを認めて共闘を続けた方がいいという判断だ。カイト・キタムラがカルカ入りしてもカルカの戦闘準備が整うには時間がかかる。その前に速攻で叩けば勝機はあった」
「それで戦闘開始を急ぐあまり、敗走中の味方を犠牲にしたというのか」
「しかたあるまい」
「戦闘に勝利したのならまだいい。だが、そこまでの犠牲を出してまで敗北した。原因はなんだ? 潜水艦による奇襲を予想できなかったのか?」
「潜水艦による攻撃は予想していた。ロボットスーツもレーザーで対処できるはずだった。ナーモ族の分身魔法使いも想定内だった。エラ・アレンスキーなら分身魔法に対抗できるはずだった」
「想定外はこれだな」
闇の中に映像が現れた。
セーラー服を纏った十二歳ぐらいの少女が微笑んでいる。
「名前は、ミク・アヤノコージ。地球の式神使い。もちろん、コピー人間だが、能力はエラ・アレンスキーと同様にオリジナルから受け継いでいる。それどころか、エラ同様、オリジナルよりも遥かに能力が強くなっている」
「なぜ、この惑星では超能力が強くなるのだ?」
「仮説だが、地球では超能力を抑制する因子があるらしい。抑制が無くなったために本来の力を発揮できるようになったようだ。だが、これが我にとって厄介な事。帝国内で能力に目覚めた者達が、その能力を制御できなくて被害が出ている」
「だからナーモ族の魔法使いを捕えて、帝国内の能力者に制御法をレクチャーさせている」
「ミク・アヤノコージを捕えてはどうだろうか?」
「なぜだ?」
「この娘は地球人だ。地球人に合った制御法を知っているかもしれない」
「地球人だから、いいと言うものではない。エラ・アランスキーはまったく役に立たなかったではないか。それを八人も作りおって」
「あれは性格に問題があったのだ。それでも、戦力としては役に立つ」
「だが、あのように汚らわしい者を融合するわけにはいかぬ。残り四人もさっさと粛清すべきだ」
「戦場で敵にダメージを与えながら、戦死してくれるのが望ましい」
「ならば、直ちに戦闘に投入しよう」
「ヤナの粛清も急ぐか?」
「あやつは、リトル東京に潜入していたからこそ価値があった。正体が露見して逃げてきた今では、ただの有害分子だ。なるべく早く戦場で死ぬように仕向けよう」
「ミク・アヤノコージの捕獲についてはどうする?」
「その前にミク・アヤノコージの能力を見極める必要がある。もう一度、エラ・アレンスキーとぶつけて様子を見よう。その上で捕獲を検討する」
この会話が交わされていたのは、ほんの数秒の事である。
(次からの海斗の一人称に戻ります)
闇の中で思考が飛び交っていた。
この思考を言葉にするとこんな感じであろう。
「我が地球を追われ、この惑星に来てから七十年。いつになったら地球へ戻れるのだ?」
「まだ機は熟していない」
「そもそもなぜこうなった? 計画では三十年でこの惑星で人間を最低でも十億人に増やし、その精神を融合して我は神に進化するはずだった。それなのに融合できた精神はいまだに三百万にも満たぬ」
「融合する精神を選り好みし過ぎるからだ。そんな悠長な事をしているから《天竜》や《イサナ》が来てしまった。軍艦で無かったのが幸いだが、地球の船が来てしまうのは想定していたはず。その前に事を終わらせようと三十年というタイムリミットを設定したのだ」
「仕方あるまい。質の悪い精神を融合するわけに行かないからな」
「それだけではない。精神の選別に戦争を使うから、人口が増えないのだ。そもそも、我は戦争をなくすために融合したのではないのか? これでは本末転倒」
「この戦争は恒久的平和を実現するための方便に過ぎん。戦争という極限状態に置くことによって、その者の本質が見えてくる。精神の選別に戦争は有効な手段だ」
「極限状態に置くことによって、精神がねじ曲がることもある事もある。本来なら融合可能な精神まで戦争は蝕んでいる」
「更生可能な精神は可能な限り更生させている。更生不可能な不要分子だけ排除している」
そこへ新たな情報がもたらされた。
「不要分子の排除には成功したようだな」
「しかし、カルカ攻略作戦は失敗した。原因はなにか?」
「《マカロフ》の戦力を過信しすぎたことだと思う」
「それだけではあるまい。不要分子の排除に敵の力を借りたのが不味かったのでないか?」
「確かに、カイト・キタムラを排除してしまえば作戦遂行は容易であったであろう。しかし、かの者はぜひとも我の一部に加えたい」
「別に排除しろと言っているのではない。カイト・キタムラとカルカの戦力を分離しておけば良かったという事だ。カイト・キタムラのカルカ入りを認めたのが間違えだった」
「別に認めたくて認めたわけではない。シミュレーションの結果、現有戦力でカイト・キタムラのカルカ入りを阻止する事は不可能と判断したまでだ。それくらいなら、カルカ入りを認めて共闘を続けた方がいいという判断だ。カイト・キタムラがカルカ入りしてもカルカの戦闘準備が整うには時間がかかる。その前に速攻で叩けば勝機はあった」
「それで戦闘開始を急ぐあまり、敗走中の味方を犠牲にしたというのか」
「しかたあるまい」
「戦闘に勝利したのならまだいい。だが、そこまでの犠牲を出してまで敗北した。原因はなんだ? 潜水艦による奇襲を予想できなかったのか?」
「潜水艦による攻撃は予想していた。ロボットスーツもレーザーで対処できるはずだった。ナーモ族の分身魔法使いも想定内だった。エラ・アレンスキーなら分身魔法に対抗できるはずだった」
「想定外はこれだな」
闇の中に映像が現れた。
セーラー服を纏った十二歳ぐらいの少女が微笑んでいる。
「名前は、ミク・アヤノコージ。地球の式神使い。もちろん、コピー人間だが、能力はエラ・アレンスキーと同様にオリジナルから受け継いでいる。それどころか、エラ同様、オリジナルよりも遥かに能力が強くなっている」
「なぜ、この惑星では超能力が強くなるのだ?」
「仮説だが、地球では超能力を抑制する因子があるらしい。抑制が無くなったために本来の力を発揮できるようになったようだ。だが、これが我にとって厄介な事。帝国内で能力に目覚めた者達が、その能力を制御できなくて被害が出ている」
「だからナーモ族の魔法使いを捕えて、帝国内の能力者に制御法をレクチャーさせている」
「ミク・アヤノコージを捕えてはどうだろうか?」
「なぜだ?」
「この娘は地球人だ。地球人に合った制御法を知っているかもしれない」
「地球人だから、いいと言うものではない。エラ・アランスキーはまったく役に立たなかったではないか。それを八人も作りおって」
「あれは性格に問題があったのだ。それでも、戦力としては役に立つ」
「だが、あのように汚らわしい者を融合するわけにはいかぬ。残り四人もさっさと粛清すべきだ」
「戦場で敵にダメージを与えながら、戦死してくれるのが望ましい」
「ならば、直ちに戦闘に投入しよう」
「ヤナの粛清も急ぐか?」
「あやつは、リトル東京に潜入していたからこそ価値があった。正体が露見して逃げてきた今では、ただの有害分子だ。なるべく早く戦場で死ぬように仕向けよう」
「ミク・アヤノコージの捕獲についてはどうする?」
「その前にミク・アヤノコージの能力を見極める必要がある。もう一度、エラ・アレンスキーとぶつけて様子を見よう。その上で捕獲を検討する」
この会話が交わされていたのは、ほんの数秒の事である。
(次からの海斗の一人称に戻ります)
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―
あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。
それから数年後の2035年、8月。
日本は異世界に転移した。
帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。
総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる――
何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。
質問などは感想に書いていただけると、返信します。
毎日投稿します。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる