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第十二章

レムの呟き

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(三人称)

 闇の中で思考が飛び交っていた。
 この思考を言葉にするとこんな感じであろう。

「我が地球を追われ、この惑星に来てから七十年。いつになったら地球へ戻れるのだ?」

「まだ機は熟していない」

「そもそもなぜこうなった? 計画では三十年でこの惑星で人間を最低でも十億人に増やし、その精神を融合して我は神に進化するはずだった。それなのに融合できた精神はいまだに三百万にも満たぬ」

「融合する精神を選り好みし過ぎるからだ。そんな悠長な事をしているから《天竜》や《イサナ》が来てしまった。軍艦で無かったのが幸いだが、地球の船が来てしまうのは想定していたはず。その前に事を終わらせようと三十年というタイムリミットを設定したのだ」

「仕方あるまい。質の悪い精神を融合するわけに行かないからな」

「それだけではない。精神の選別に戦争を使うから、人口が増えないのだ。そもそも、我は戦争をなくすために融合したのではないのか? これでは本末転倒」

「この戦争は恒久的平和を実現するための方便に過ぎん。戦争という極限状態に置くことによって、その者の本質が見えてくる。精神の選別に戦争は有効な手段だ」

「極限状態に置くことによって、精神がねじ曲がることもある事もある。本来なら融合可能な精神まで戦争は蝕んでいる」

「更生可能な精神は可能な限り更生させている。更生不可能な不要分子だけ排除している」

 そこへ新たな情報がもたらされた。

「不要分子の排除には成功したようだな」

「しかし、カルカ攻略作戦は失敗した。原因はなにか?」

「《マカロフ》の戦力を過信しすぎたことだと思う」

「それだけではあるまい。不要分子の排除に敵の力を借りたのが不味かったのでないか?」

「確かに、カイト・キタムラを排除してしまえば作戦遂行は容易であったであろう。しかし、かの者はぜひとも我の一部に加えたい」

「別に排除しろと言っているのではない。カイト・キタムラとカルカの戦力を分離しておけば良かったという事だ。カイト・キタムラのカルカ入りを認めたのが間違えだった」

「別に認めたくて認めたわけではない。シミュレーションの結果、現有戦力でカイト・キタムラのカルカ入りを阻止する事は不可能と判断したまでだ。それくらいなら、カルカ入りを認めて共闘を続けた方がいいという判断だ。カイト・キタムラがカルカ入りしてもカルカの戦闘準備が整うには時間がかかる。その前に速攻で叩けば勝機はあった」

「それで戦闘開始を急ぐあまり、敗走中の味方を犠牲にしたというのか」

「しかたあるまい」

「戦闘に勝利したのならまだいい。だが、そこまでの犠牲を出してまで敗北した。原因はなんだ? 潜水艦による奇襲を予想できなかったのか?」

「潜水艦による攻撃は予想していた。ロボットスーツもレーザーで対処できるはずだった。ナーモ族の分身魔法使いも想定内だった。エラ・アレンスキーなら分身魔法に対抗できるはずだった」

「想定外はこれだな」

 闇の中に映像が現れた。
 セーラー服を纏った十二歳ぐらいの少女が微笑んでいる。

「名前は、ミク・アヤノコージ。地球の式神使い。もちろん、コピー人間だが、能力はエラ・アレンスキーと同様にオリジナルから受け継いでいる。それどころか、エラ同様、オリジナルよりも遥かに能力が強くなっている」

「なぜ、この惑星では超能力が強くなるのだ?」

「仮説だが、地球では超能力を抑制する因子があるらしい。抑制が無くなったために本来の力を発揮できるようになったようだ。だが、これが我にとって厄介な事。帝国内で能力に目覚めた者達が、その能力を制御できなくて被害が出ている」

「だからナーモ族の魔法使いを捕えて、帝国内の能力者に制御法をレクチャーさせている」

「ミク・アヤノコージを捕えてはどうだろうか?」

「なぜだ?」

「この娘は地球人だ。地球人に合った制御法を知っているかもしれない」

「地球人だから、いいと言うものではない。エラ・アランスキーはまったく役に立たなかったではないか。それを八人も作りおって」

「あれは性格に問題があったのだ。それでも、戦力としては役に立つ」

「だが、あのように汚らわしい者を融合するわけにはいかぬ。残り四人もさっさと粛清すべきだ」

「戦場で敵にダメージを与えながら、戦死してくれるのが望ましい」

「ならば、直ちに戦闘に投入しよう」

「ヤナの粛清も急ぐか?」

「あやつは、リトル東京に潜入していたからこそ価値があった。正体が露見して逃げてきた今では、ただの有害分子だ。なるべく早く戦場で死ぬように仕向けよう」

「ミク・アヤノコージの捕獲についてはどうする?」

「その前にミク・アヤノコージの能力を見極める必要がある。もう一度、エラ・アレンスキーとぶつけて様子を見よう。その上で捕獲を検討する」

 この会話が交わされていたのは、ほんの数秒の事である。

(次からの海斗の一人称に戻ります)
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