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第十章

幻の海斗量産計画

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(海斗視点)

「ミクちゃんが飛び立った後、私は修理の終わったロボットスーツを装着して、北村さんのロボットスーツを持ってドームから飛び出しました。後は、北村の知っての通りです」

 香子と芽衣ちゃんが、代わる代わる話してくれた経緯を聞いているうちに、次第に僕は後悔に苛まれていった。

 なんてこった。僕らがレイホーの店で接待を受けている間に、そんな大変なことになっていたなんて……

 あの朝、レイホーに事情に話していれば、一緒にドームに行けたかもしれない。そうすれば、カルカシェルターもここまで苦戦する事なかったのに……

 報連相って、大切だな……

「すまない。肝心な時にいなくて……」

 香子と芽衣ちゃんに頭を下げた。

「北村さんが、謝る事はないですよ」
「そうよ。海斗は何も悪くないわ」
「でも……」
「最後には、来てくれたじゃない。私は、海斗が来てくれて嬉しかったわ」
「私も嬉しかったです」

 そう言ってもらえると、僕も嬉しいけど……


「それに先に謝らなきゃいけないのは、私達の方よ」
「え?」
「ごめんね、海斗。こんな惑星で再生して、いきなり一人で放り出したりして」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 私がいけないんです! 私が北村さんの再生をお願いしたりしたから……」

 また、芽衣ちゃんの謝り癖が……こんなに謝られたら、僕が芽衣ちゃんを苛めているみたいで、何も言えなく……もしかして、相手に何も言わせないためにやっているのか?

「その事に関しては、外でも言った通り僕は恨んでなんかいない。むしろ、感謝しているぐらいだ。凄い体験ができたし、ミールとも出会えたし……」
「カイトさん! 嬉しい!」

 突然、ミールが背後から僕に抱きついて来た。
 ダモンさんの看病していたんじゃないのか?

「ミール!? いつから、そこに?」
「かなり前からいました。部屋に入ると、何やら真剣な話をされていたので、声をかけられなくて。一緒に話を聞いていたのですけど」
「どこから、聞いていたんだ?」
「カトリさんが、自殺未遂をしたあたりからです」

 ほとんど最初の方からじゃないか……

「ところで」

 不意にミールは、香子と芽衣ちゃんを睨みつけた。

「どういう事ですか? プリンターで死者を蘇らせるのは、禁忌だそうじゃないですか」
「う」

 香子は顔をしかめた。

「どうして禁忌なのに『できる』なんて言ったのです?」
「禁忌だと黙っていたのは悪かったわ。でも、それで海斗の再生を諦めたわけじゃないわよ」
「どういう事です?」
「家族とか友達とか恋人とかを蘇らせる目的で、人間を再生させるのは禁忌よ。そんな事を認めたら、希望者が殺到して際限なく死者を蘇らせなきゃならなくなる。でも、社会の維持に必要な人間を蘇らせる目的で再生して、それがたまたま誰かの近しい人だったという事は認められているの」
「それって、抜け道じゃないですか?」
「抜け道じゃないわ。一人や二人の死者を蘇らせる事は問題じゃないのよ。ただそれには何らかの制限が必要なの。海斗の再生は私の婚約者だからではなく、ロボットスーツのパイロットとして必要だから再生された。その海斗が再び私と付き合ったとしても、それは問題ないの」

 香子がそう言った途端、ミールは僕の右腕にしがみ付いてきた。

「でも……このカイトさんはあたしのです。それに、恋人を再生すると、辛い思いをするのじゃないのですか?」
「それは、再生されてから初めて出会った男女の場合。私と海斗はデータを取る前から、幼馴染だったからあまり問題ないけど、例えば今ここにいる海斗が死んだとして」

 本人がいる前で、例えでも殺さないでほしいな……

「新しい海斗を再生したとして、ミールさんはその海斗と付き合えるかしら?」
「それは……」
「顔も性格も海斗と同じ。でも、その海斗にはミールさんに関する記憶がない。それって辛いでしょ?」
「たしかに……だとすると、ますますこのカイトさんは渡せません」
「だから、海斗のコピー人間をもう一人作るの」
「だから、それは許されるのですか? 死者の再生は許されないのでは?」
「死者を再生する目的では許されないけど、ロボットスーツのパイロットは必要よ」
「カイトさん以外の人が再生されるのでは?」
「確かにその可能性もあるけど、どうせ再生するなら優秀なパイロットがいいでしょ」
「ちょっと待った!」

 そこで、僕は口を挟んだ。

「優秀なパイロットと言うなら、芽衣ちゃんが再生されるのではないのか?」
 
 僕に言われて、芽衣ちゃんは頬を赤らめた。

「確かに、今の芽衣ちゃんは優秀よ。でも、五年前再生直後の芽衣ちゃんはかなり酷かったわ」
「え? そうなの?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! 五年前の私がご迷惑をかけて」

 また、ややっこしい事に……

「最初のうち、芽衣ちゃんは人を撃てなかったわ。それが、撃てるようになると、今度は暴走するようになった。海斗という優秀な指揮官がいたからこそ、芽衣ちゃんは優秀なパイロットになれたのよ」
「え? 僕って指揮官として、優秀だったの?」
「ええ。ただし、それは前の海斗。電脳空間サイバースペースで二百年の経験を積んでいるからよ。生データから作られた海斗では、パイロットとしてはともかく指揮官としては期待できないわ」

 悪かったな。

「ちょっとカトリさん。そんな言い方酷いじゃないですか。カイトさんは……」
「ストップ! ミールさん。言いたい事は分かるけど、この海斗は指揮官には不向きにしておいた方が、都合がいいのよ」
「どういう事ですか?」
「ロボットスーツ隊の欠員を補充するなら、生データの海斗でもいいけど、指揮官の能力はない。そうなると『カルルと戦いたくない』と言って電脳空間サイバースペースに引きこもっている海斗を再生せざるを得なくなるわ」
「なるほど。しかし、やはり他の人を再生する事にはならないですか?」
「それはない。ロボットスーツ隊の隊員を選ぶとき、最初は海斗を七人再生しようという意見もあったのよ。海斗ならモラル意識も高いから、自分の分身を利用して犯罪を犯す可能性も低いので。でも、海斗本人が嫌がったの」
「どうしてですか?」
「自分と同じ顔の人間が七人いるなんて、気持ち悪いって?」
「えええ!?」

 ミールは素っ頓狂な悲鳴を上げて、僕の方を向いた。

「カイトさん。ひょっとして、同じ顔の分身体を十二体使役しているあたしって、カイトさんから見て気持ち悪いですか?」
「え!?」

 そうくるか?

「いや、そんな事はないよ」
「本当ですか?」
「本当だって……そもそも、コピー人間と分身魔法の分身は違うだろ」
「そうですよね。よかった」

 まあ、確かにミールに僕の分身を作ってもらった時は、少し気持ち悪いと思ったけど、あれはすぐに慣れたし、それに分身はすぐ消えるし……

 なんて事を考えている時、楊母娘がラウンジに入ってきた。
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