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第九章

捕らわれた海斗(過去編)

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「北村さん! 北村さん!」

 半狂乱になって叫ぶ芽衣。
 楊 美雨が駆け寄って宥める。

「落ち着いて! 森田さん。北村さんは、まだ生きているわ」
「え?」

 ドローンの赤外線センサーは、海斗の体温が正常をあることに示していた。
 カメラの映像を拡大すると、胸が微かに上下動しているのが分かる。
 呼吸は止まっていないようだ。

「北村さん……よかった……」
「森田さん。安心するのは早いわ」
「え?」
「エラ・アレンスキーのオリジナルが逮捕されたのは、少年を誘拐しては、電撃で拷問するという犯罪を繰り返していたから……」
「なぜ、そんな事を?」
「そういう事に、興奮を覚える変態なのよ」
「趣味なのですか?」
「ええ。しかし、逆にそれが幸いしたわ。あいつは、自分の趣味のために、北村さんをすぐには殺さないはず。奪還するチャンスはあるわ」

 ドローンの映像では、エラは気絶している海斗を担ぎ上げていた。

「いけない! 北村さんを連れ去られてしまう。奪還するのよ! 救援部隊を出して!」

 部下の一人が、楊 美雨の方へ振り向く。

「司令。無理です。もう弾薬がありません」
「う」

 美雨は顔をしかめた。

「それに、弾薬があったとしても、帝国軍の囲みを破って、あそこまではとても……」

 芽衣は席から立ち上がる。

「私が……私が行きます」
「待って! これを見て」

 楊 美雨の指差すモニターで、エラが立ち止まっていた。
 何かを警戒しているようだ。
 突然、エラは光球を数発放つ。
 何かと戦っているらしい。

「どうやら、北村さんの味方は、私達だけではないみたいね。映像を縮小して」

 エラは、十二人の少女達に取り囲まれていた。
 少女達は全員、頭に猫耳が付いていて同じ顔をしている。
 そして、出現消滅を繰り返していた。
 
(これは……ナーモ族の分身魔法使い!)

 ずっと補給基地にいた芽衣は会った事はないが、香子からシーバ城にいる分身魔法使いの事を聞いていた。一人で十二の分身体を操る事が出来て、その分身は憑代を破壊されない限り死ぬことはない。
 ただし、活動時間に制限がある。
 回復薬を飲んでから、三十分が限界だと……

 術者は十代の少女で、分身体は戦闘モードに入ると胸と腰を辛うじて鎧で覆っている裸に近い姿になる。それぞれの分身体は、戦斧、長剣、槍、弓、モーニングスターなど異なる武器を所持している。
 エラを囲んでいる猫耳少女たちの姿は、まさにそれだった。

(じゃあ、北村さんと行動している二人の魔法使いの一人が、あの女の子? だとすると、もう一人はダモンさんでは?)

 エラは光球を次々と放つが、猫耳少女達の動きは素早く、まったく当たらない。
 時折、矢を放ってエラをけん制する。
 不意にエラは、不敵な笑みを浮かべた。

(何か企んでいる!)

 エラは、周囲に大量の光球を放った。
 猫耳少女達は、いったん瓦礫の陰に隠れる。
 それを確認したエラは、海斗の両腕に手錠をかけた。
 海斗を地面に横たえ、手錠をペグで固定する。
 地面に横たわった海斗の腰に、エラは跨った。

(何をする気?)

 海斗が意識を取り戻したのはその時。
 エラは海斗と、しばらく何かを話した後、電撃を浴びせる。

「ひ……酷い! 抵抗できない北村さんに……」

 執拗な電撃を浴びて、海斗は再び意識を失った。
 エラは意識を失った海斗に顔を近づけ……

「……!」

 その光景を見て、芽衣の中で激しい怒りと嫉妬がわき上がってきた。
 それは、海斗を奪還しに来た猫耳少女達も同様だったようだ。
 今までエラを遠巻きにして慎重に攻撃していた猫耳少女達は、エラの狼藉に怒り狂い、一斉に飛び掛かって行く。
 だが、それこそがエラの思う壺。
 エラが放つ大量の光球によって、猫耳少女達は消されていく。
 冷静さを取り戻して再び間合いを取った時には、猫耳少女達の半数が消されていた。
 
「もう、見ていられません」

 芽衣は楊 美雨が止めるのも聞かず、指令室から飛び出した。
 ロボットスーツの置いてある部屋に駆け込み、着脱装置に座る。

「装着」

 コマンドを唱えるが……

『修理中です。しばらくお待ちください』

 着脱装置の音声メッセージは冷酷に事実を告げた。

「装着」
『修理中です。しばらくお待ちください』
「装着……してよ……今、行かないと、北村さんを助けられない……」

 しかし、修理中という事態は変わらない。

「ううう……」

 何もすることができず、芽衣は着脱装置の上で嗚咽を漏らしていた。

「芽衣ちゃん……」

 いつの間にか、部屋の入り口に未来がいた。

「未来ちゃん。気が付いたのね」
「芽衣ちゃん。どうして泣いているの?」
「未来ちゃん」

 芽衣の持っていたタブレットで、海斗の惨状を見せられた未来は、懐から憑代を取り出した。

「出でよ! 式神」

 だが、オボロは顕現しない。
 まだ、未来の魔力は回復していないのだ。
 その時だった。

「おお! モリタさん。ここにいましたか。探しましたよ」

 部屋の入り口に目を向けると、ター・メ・リックの姿があった。

「リックさん! あの……」
「薬が完成しましたよ」

 泣いていた芽衣の顔が、パッと輝く。

「ありがとう! リックさん」

 薬を受け取った未来は、ドームの上でオボロを呼び出し飛び立っていった。  

(第九章 終了 過去編はこれで最後です。次回から海斗視点の本編に戻ります)


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