上 下
279 / 848
第十章

帝国軍の新たな動き

しおりを挟む
  楊美雨ヤンユイメイとレイホーの母子は、僕らに茶と月餅を配ってから席に着いた。

「北村さん。話を始める前に礼を言わせて下さい。娘が盗賊に襲われているところを助けて頂いたそうですね」
「いや……それほどでも……人として、当然の……」

 ん? 突然香子に腕を引っ張られた。

「なに? 香子?」
「海斗。さっき私達の話しを聞いていたわよね。レイホーさんを盗賊から助けてお店に招待された男がいたってことも」
「そ……そういえば、そんな話もしていたね」
「それって、海斗の事だったの?」
「あれ? 言わなかったっけ」
「聞いてないわよ」

 確かに言ってなかったな。いや、言うとややこしくなりそうと思って黙っていてそのまま忘れていた。

「い……いや、後で言おうと思って忘れていたのだと思う」

 香子の反対側から、芽衣ちゃんが僕の耳に口を寄せてきた。

「気を付けて下さい。レイホーさんはあの夜、北村さんを酔いつぶして、逆NТRを目論んでいたのですよ」
「やだなあ……芽衣ちゃん。そんなの冗談に……」
「大丈夫ですよ」

 ミールが、背後から僕に手を回して抱き着いてきた。

「あたしの目の黒いうちは、そんな事はさせませんから」

 そこへPちゃんが横から割り込む。

「ミールさんの目が白くなっても、私がさせませんから」

 この状況に、楊 美雨が困惑していた。

「話が進まなくなるから、みんな離れて」

 女子たちが僕から離れたところで、《天竜》がタウ・セチに着いてからの事を楊 美雨に質問してみた。

「その事について詳しくお話ししたかったのですが、先ほど帝国軍に新たな動きがありました。先にその対策についてお話したいと思うのですが、よろしいですか?」
「新たな動き? 何があったのですか?」
「これを見て下さい」

 楊 美雨がリモコンを操作すると、ラウンジの巨大スクリーンに映像が現れた。

「これは!?」

 さっきまで、乾き切っていた運河に水が流れていた。今のところ、ちょろちょろとした小川だが……

「帝国軍は、水門を開いたということでしょうか?」
「そうです。次は船で攻めてくるつもりでしょう」
「船!?」
「斥候の調査では、水門付近に敵艦隊が停泊しています」
「艦隊が来ていたのですか? それにしてはドームに攻めてきた敵が少なすぎます」
「あれはこちらの出方を見るための威力偵察だったのでしょう。敵は、まだ我々がプリンターを持っているか分かっていなかったと思います。しかし、今までの戦いで我々がプリンターを失っている事は分かってしまったのでしょう」
「しかし、プリンターは僕が持ってきた。それは向こうも分かって……」
「分かっているからこそ。大急ぎで攻めてくるのです。こちらが、プリンターを使って体制を整える前に……」

 そうか。プリンターがあっても、それで武器を作るには時間がかかるんだ。

「迂闊でした。そうと分かっていれば、医療用ナノマシーンは後回しにするべきでした」
「済んだ事を言ってもしょうがないですよ。とにかく、プリンターは好きに使っていいですから先に武器を作って下さい」

 僕がそう言った時、女子たちのざわめく声が聞こえた。
 声の方に目を向けると、ミールも香子もミクも芽衣ちゃんもキラもミーチャも目がスクリーンに釘付けになっている。
 スクリーンに映っている運河の水量は、かなり増えていた。
 その中を、何かが流されている。

 あれは!?

「人が、流される」

 香子が言った通り、人や馬が運河の中を流されていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

キャンピングカーで異世界の旅

モルモット
ファンタジー
主人公と天女の二人がキャンピングカーで異世界を旅する物語。 紹介文 夢のキャンピングカーを手に入れた主人公でしたが 目が覚めると異世界に飛ばされていました。戻れるのでしょうか?そんなとき主人公の前に自分を天女だと名乗る使者が現れるのです。 彼女は内気な性格ですが実は神様から命を受けた刺客だったのです。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

処理中です...