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第十章

帝国軍の新たな動き

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  楊美雨ヤンユイメイとレイホーの母子は、僕らに茶と月餅を配ってから席に着いた。

「北村さん。話を始める前に礼を言わせて下さい。娘が盗賊に襲われているところを助けて頂いたそうですね」
「いや……それほどでも……人として、当然の……」

 ん? 突然香子に腕を引っ張られた。

「なに? 香子?」
「海斗。さっき私達の話しを聞いていたわよね。レイホーさんを盗賊から助けてお店に招待された男がいたってことも」
「そ……そういえば、そんな話もしていたね」
「それって、海斗の事だったの?」
「あれ? 言わなかったっけ」
「聞いてないわよ」

 確かに言ってなかったな。いや、言うとややこしくなりそうと思って黙っていてそのまま忘れていた。

「い……いや、後で言おうと思って忘れていたのだと思う」

 香子の反対側から、芽衣ちゃんが僕の耳に口を寄せてきた。

「気を付けて下さい。レイホーさんはあの夜、北村さんを酔いつぶして、逆NТRを目論んでいたのですよ」
「やだなあ……芽衣ちゃん。そんなの冗談に……」
「大丈夫ですよ」

 ミールが、背後から僕に手を回して抱き着いてきた。

「あたしの目の黒いうちは、そんな事はさせませんから」

 そこへPちゃんが横から割り込む。

「ミールさんの目が白くなっても、私がさせませんから」

 この状況に、楊 美雨が困惑していた。

「話が進まなくなるから、みんな離れて」

 女子たちが僕から離れたところで、《天竜》がタウ・セチに着いてからの事を楊 美雨に質問してみた。

「その事について詳しくお話ししたかったのですが、先ほど帝国軍に新たな動きがありました。先にその対策についてお話したいと思うのですが、よろしいですか?」
「新たな動き? 何があったのですか?」
「これを見て下さい」

 楊 美雨がリモコンを操作すると、ラウンジの巨大スクリーンに映像が現れた。

「これは!?」

 さっきまで、乾き切っていた運河に水が流れていた。今のところ、ちょろちょろとした小川だが……

「帝国軍は、水門を開いたということでしょうか?」
「そうです。次は船で攻めてくるつもりでしょう」
「船!?」
「斥候の調査では、水門付近に敵艦隊が停泊しています」
「艦隊が来ていたのですか? それにしてはドームに攻めてきた敵が少なすぎます」
「あれはこちらの出方を見るための威力偵察だったのでしょう。敵は、まだ我々がプリンターを持っているか分かっていなかったと思います。しかし、今までの戦いで我々がプリンターを失っている事は分かってしまったのでしょう」
「しかし、プリンターは僕が持ってきた。それは向こうも分かって……」
「分かっているからこそ。大急ぎで攻めてくるのです。こちらが、プリンターを使って体制を整える前に……」

 そうか。プリンターがあっても、それで武器を作るには時間がかかるんだ。

「迂闊でした。そうと分かっていれば、医療用ナノマシーンは後回しにするべきでした」
「済んだ事を言ってもしょうがないですよ。とにかく、プリンターは好きに使っていいですから先に武器を作って下さい」

 僕がそう言った時、女子たちのざわめく声が聞こえた。
 声の方に目を向けると、ミールも香子もミクも芽衣ちゃんもキラもミーチャも目がスクリーンに釘付けになっている。
 スクリーンに映っている運河の水量は、かなり増えていた。
 その中を、何かが流されている。

 あれは!?

「人が、流される」

 香子が言った通り、人や馬が運河の中を流されていた。
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