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国内騒動編

閑話 覗き失敗

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 俺はたびたびカーマたちの入浴を覗こうとしている。

 これは決して不埒な理由ではなくて、彼女らの身体を日頃から見て病気などがないかチェックするためだ。

 それと身体測定とかも必要だろうし、ほらこの世界って健康診断とかないし。

 繰り返すが決して俺が彼女らの裸を拝みたいからではない。

 だがいつも覗きは失敗してばかりだ。決して俺が無能だから失敗しているわけではない。

 いつも華麗な作戦を考えてるのに何かにつけてバレるのだ。

 今回こそはと計画を練りながら廊下を歩いていると、仲良く歩いているカーマとラークとすれ違った。

 すると即座にカーマがこちらを見ながら、掌に炎を浮かべて笑いかけてくる。

「……ボクたちの入浴時に突入する? 燃やすよ?」
「すみませんでした」

 俺は即座に頭を下げて許しを請う。

 そう! カーマが心を読んで! 俺の作戦を全て把握してくるのである!

 ズルくね!? いつもは大して役に立たない読心能力のくせに! 

 味方に回すと微妙なのに敵にすると厄介なやつそのものだ!

 そのせいで一定以上の時間をかけた作戦を実行することが不可能。

 素晴らしい悪だくみを考えていても、カーマと出会った瞬間に全て灰塵と化されてしまう。

 俺が例え天才軍師の諸葛孔明でもハンニバルでも、心を読まれたら流石にどうにもならんだろう。

 いや彼らならば心を読まれた上で通じる作戦を考えつくのかも知れない……異世界ショップでその頭脳を購入できないものか。

 天才軍師の頭脳に風呂を覗く策を考えさせるのは、無駄遣いなどという者もいるかもしれない。

 だが俺は覗きたい! 天才だろうが変態だろうが誰でもいいから俺に力を貸してほしい!

「アトラス君、何か悩み事かい?」
「ごめん、変態はお呼びじゃなかったわ」

 必死に考えていると、廊下ですれ違ったセサルに話しかけられてしまった。
 
 ……何でこいつがこんなところにいるのだろうか。よく観察すると奴は手に金属製の帽子を持っている。

 金属製なので鎧のヘルムのように使うのかと思ったが、形状はベレー帽に近いので頭を防ぐのに役立つとは思えない。

「セサル、その帽子はなんだ?」
「ああ。これは頭にかぶっている間、頭がクルクルパーになる帽子サッ! これをかぶったら変な行動をしてしまう!」
「む、無意味過ぎる……」

 流石はセサルだ。何考えて生きてるのかわけわからん。

 だがセサルは人差し指を立てて、チッチッチッと呟く。

「これは頭を休めるための帽子サッ。無駄に考えすぎる者がこの帽子を被れば、一時的にリラックスが可能! ついでに周囲の人からはぶっ壊れたように見られるので、心配してもらえて休ませてもらえる代物! 名前はズバリ、過労帽子サッ!」
「何と言うか使い道が限定過ぎる……」

 人前でクルクルパーになって生き恥を晒したい人間はいないと思う。

「それと副作用で読心魔法が無効になるサッ」
「セサル君! その帽子を言い値で買おう!」

 やはり持つべき者は天才で変態の配下だなっ! 読心魔法さえ無力化できれば、カーマ恐れるに足らずだ!

 根本的にあいつは脳筋だから、心さえ読まれなければ入浴を覗ける自信はある!

「これが欲しいのかい? まだ試作品で読心魔法を無効にする機能以外は、確実に正常に動くとは限らないのだが。それでもいいなら」
「むしろそのほうがいい!」

 俺はセサルから帽子をひったくって、今後の展望を考え始める。

 やはり綿密に風呂を覗く計画を立てるならば、カーマたちの入浴時間を把握しておくべきだろう。

 この屋敷の入浴ルールはかなり簡単だ。俺とカーマとラークが、空いてる時に風呂に入る。

 空いてる時に入るルールが曲者だ。相手に対して「風呂入るねー?」と確認するからだ。

 つまりそこで俺が覗きを考えていた場合、カーマが話しかけてきたら心読まれて即バレしてしまうのである。

 そのせいで俺はいつもいつも失敗するのだから。

 他にルールといえばメルが俺達全員が入り終えた後に、隙を見て(本人はコッソリのつもりで)盗み湯をしているくらい。

 メル本人はバレないように入浴しているつもりのようだが、俺達は全員が把握していたりする。

 流石に毎日風呂に入っていたらバレバレだ。しかも浴場に向かっている時のあいつは、廊下を鼻歌交じりでステップしてるので更に分かりやすい。

 あいつとことん暗部に向いてない。

 俺とカーマたちの間でメルが可哀そうだから、気持ち早めの時間に入浴する協定までも作られている。

「その帽子を使った感想をよろしくサッ! ではミーは暇なのでこれで」

 セサルは変なダンスを踊りながら去っていった。

 あいつのことはどうでもよい。肝心なのは覗きである。

 急いで執務室に戻って策を練りまくっている。脳内でいくつもの案が生まれては消えていった。

 今の俺の頭脳は人生で一番活性化している。どうすれば覗き……いや彼女らの身体を風呂で観察できるかを考える。

 やはり男なら正々堂々、風呂場に突っ込むべきだろうか。

 いやダメだ、それだと彼女らがタオルを身体に巻いて入浴してたら見れない。

 …………以前に監視カメラを仕掛けたのが読心されてバレて以来、彼女らはタオルで身体を隠して入るようになってしまった。

 しかも浴場にカメラが仕掛けられてないことを毎回確認するのだ! そのせいで今回は思考読みを防げても、盗撮するのが困難と言わざるを得ない。

 過去の俺め、なんて余計なことを……! 心を読まれなければ、盗撮はバレようがなかったのに!

 俺のバカ! アホ! 間抜け! 切り札は最後に撮っておけとあれほど!

 ええい! 自責の念を感じても仕方がない! 肝心なのは過去ではなくて未来だ!

 何とか妙案を…………。

 思考を切り替えようとした瞬間、扉が開いて赤い髪が見えた。

 即座に俺は過労帽子をかぶって彼女の読心魔法に備える。

 ふっ、ミーの恐るべき速く華麗な動作にほれぼれしてしまうサッ!

「あなたー。先にお風呂入っていい?」

 カーマがタオルを抱えて呼びかけてくる。

 後ろにはラークも控えているので、いつも通り仲良く入るのだろう。

「ふっ。答えはノー、サッ!」

 手で頭を押さえながら彼女の問いに返答する。

「……なんか変じゃない? まあいいや、じゃああなたが先に入るの?」
「いやもちろん違うサッ」
「? あ、メルをたまには先にいれてあげようってこと?」
「それも違う」

 ミーは我が美しい妻の問いを全て否定する。

 首をかしげた彼女らに対して、皆が幸せになる提案をしてみせよう。

「全員一緒に入ろう。それでみんなが幸せになる……エフィルンやリズも招待しようか」

 ミーながら天才的な発想だ。

 この天上に愛されしミーの肢体、公開せねば世界の損失だ。

「…………姉さま、絶対おかしいよあれ。何考えてるか全然わからないし」
「頭につけてる帽子が怪しい」
「だよね……。ねえあなた、その帽子格好いいよね。ボクにも被らせてほしいなぁ」

 カーマがうらやましそうにミーの帽子を見ている。

 やれやれ仕方ない。迷える子羊を救うのも役目、求められれば答えるのが正義だ。

 頭から帽子を取った瞬間、俺は自我を取り戻した。

 …………やべぇ、爆弾発言を投下しまくった。殺戮の空襲爆撃みたいになってる。

 …………ここから俺が無条件降伏を避けられる道はないだろうか。

「……今までの爆撃は全てこの帽子がやりました。和平を希望します」

 カーマは背筋が凍るような笑みを浮かべた。
 
「そっかー。それでその帽子を使ったのは誰かなー? 更に言うなら……その帽子で変なこと画策していた愚かな人は……」
「戦略的転進!」

 俺は脱兎のごとく執務室から逃げようとする。

 だが出口は彼女らが防いでしまっている……結局俺は捕まっていつもの炎氷地獄を受けた。

 …………くそぉ! セサルめ、変なの渡しやがって! 

 俺は諦めないからな! 絶対に、絶対に覗いてやるからなっ!

 後日、執務室にやってきたセサルが帽子の感想を聞いてきたので。

「こんな帽子何の役にも立たないぞ! なんだよクルクルパーじゃなくてクルクルセサルになるだけじゃないか!」
「まだ完成してないと言ったサッ。まずはミーの思考回路になるように、試しに造ったのサッ! そもそも何でこの帽子を借りようとしたのサッ?」
「え? 風呂覗いてカーマたちの裸を拝みたかっただけだが」

 セサルは俺の言葉に「なるほど」と呟いた後、少しだけ考え込んで。

「彼女らの服を脱がせたかったのなら、この過労帽子を彼女らに被せるべきだったサッ。そうすれば一緒に風呂も入ってくれただろう。ミーなら入るし」

 俺はその言葉を聞いて、床に力なく座り込んだのだった。

 俺、カーマたちに風呂一緒に入ろうって言ったもんな…………目的を伝えてお願いするのって大事だよな……。

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