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王家騒動編

第129話 王手

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「何かないか!? 俺の評判が下がらない上に、王にさせるのはないなと思わせる妙案は!?」

 俺とセンダイとエフィルンはクズどもを成敗した後、屋敷に戻って執務室にこもっていた。

 入口に鍵をかけているので、扉が粉砕されるまでは侵入に対して時間が稼げる。

 ようやく一息ついたと椅子に腰かけるが、状況はまるで好転していない。

「ちなみに先ほどの屑族《くぞく》を連行したことで、更にアトラス殿の評判は上がったでござるよ。法で裁けなかった者たちを捕らえたと」
「くそぅ! あいつら最後まで俺の邪魔にしかならねぇ!」

 センダイの言葉に思わず悲鳴をあげてしまう。

 このままでは本当に王にされてしまうぞ!? 俺の老後の計画が全てパーになってしまう!

「まずい……こんなレスタンブルクなんぞの王にされては……! せめて後十年くらいは経って、この国が立ち直ってから継がないと罰ゲームだぞ!」
「この国、十年で立ち直るでござるか?」
「立ち直らなければ、その時は崩壊してるから継がなくてすむ!」
「自国の貴族の言葉とは思えぬでござる」
「そりゃ地獄の貴族の言葉だし」

 この国、どれだけ終わってたと思ってるんだよ。

 俺がいなかったらとっくの昔に飢饉で国が崩壊。もしくはベフォメットに滅ぼされてる説があるくらいだぞ。 

 これは自惚れではない、まじで両方とも可能性あったと思う。

 俺の芋がなければ飢饉はもっと酷かっただろう。俺がいなかったらエフィルンを止められる奴がいなくて、ベフォメットに負けていただろう。

 あれ? 俺って実は救世主では? わりと英雄なんじゃないのか!?

「そういうわけで王を継承しなくてよい。もしくは十年は時間を稼げる方法を考えて欲しい」
「アトラス殿の評判を落とさずには無理でござるよ。今や王都でもアトラス=サンが広まりまくってるでござる」
「あれは完全フィクションだって言ってるだろうが! あんな聖人がこの世にいてたまるかっ!」

 アトラス=サン。それは俺のペルソナ……制御できない俺の別側面。

 ……ようは伝記として出版された俺が、完全に別キャラで書かれて出版されているのだ。

 それが何故か国民にうけまくって、俺の評価が民の中でうなぎのぼり。

 大量に増刷している上に、次は三巻『ベフォメット救済編』が発売されるらしい。

 おかしいな? すでにうさんくさい宗教じみたタイトルである。

「ちなみに私も取材を受けました。三巻の最後に主様の妻になります」
「事実捏造してる!?」

 そんな本が出版されて人気になったら、マジでエフィルンが暗黙の了解で妻になるのでは!?

 別にエフィルン嫌いじゃないけどマズイと思う!

 ……アトラス=サンめ。冗談抜きで制御できない俺の別側面になってやがる。

「もう諦めて王を継ぐでござるよ。何、アトラス殿が王になろうが拙者はいつまでも酒の友でござる」
「俺が王になっても酒タカリに来るだけだろうが!」
「はっはっは」

 センダイは笑いながら酒瓶を口に含む。

 どうすればよいのだ! なんか何をしてもムダな気がしてきたぞ!

「主様。私に策があります」
「エフィルン……お前はやはり俺の忠臣だ。その策を教えてくれ」

 エフィルンは無表情のまま、俺の味方をしてくれる。やはり彼女こそ俺の忠臣だ。

 アトラス=サンの取材に協力したので、実は敵なのではと思ったけど流すことにしよう。

 ここでエフィルンが敵だったら、俺の味方がいなくなるっ……!

「アトラス様の伝記の書き手と直接交渉して、無難な出来にさせるのです。そして本で宣言させるのです、私は王になるつもりはない。そして私を妻にしてくれると」
「最後はともかく、わりとよい手かもしれないな……」

 エフィルンの提案は結構よい線をいってると思う。

 なんかそれっぽくだ。「私はレスタンブルクだけではなく、全ての人を救う!」とかなんとかのたまわせれば、わりとワンチャンあるのでは?

 少なくとも何もしないよりはだいぶマシだ。

「そうと決まれば早く動かねば! カーマたちに買収される前に、俺の伝記の著者を買収せねば!」

 そう叫んで俺は椅子から立ち上がり走り出す。だがすぐに行先が分からずにすぐ止まった。

「……伝記の著者って誰だったっけ。なんか聞いたような記憶はあったんだが……ゴーストライターなことは覚えてるんだが」
「リズ様です」

 リズ……リズ……誰だったか。どこかで聞いたような聞かなかったような。

 思い出せ。確か著者は身体が物凄く弱かったはずだ。

 そして何かヤバイ特徴があったはずだ……何か……。

「セバスチャンさんの孫です」
「敵じゃねぇか!」

 よりによってセバスチャンの孫かよ!? 敵の主軸じゃねぇか!

 そういやセバスチャンの孫は常に病床に臥せってたな!? 

 以前にも勝手にアトラス=サンを書かれたあげく、文句を言おうにも床に伏したと逃げられたのだ。

「……リズの元へ向かう。戦いは免れないだろう、覚悟してかかれ」
「家臣の孫に会いに行くだけで大げさでござるなぁ」
「軽口を叩くな! フォルン領と俺の命運、この一戦にありだ!」

 思わず叫ぶ。ここで俺の伝記を悪く書かせなければ、完璧に詰んでしまうのだから。

 まるでマスメディアを敵に回したかのような恐ろしさだ。

 ……普通なら悪く書かれるのを食い止めるのだが、俺の場合は今まで通りにべた褒めに書かれるとまずい。

「大丈夫でござるよ。フォルン領はこれからも発展するから、アトラス殿の今後の暇な時間が減る程度でござる」
「それが嫌だって言ってるんだろうが! 俺が王にされて胃痛と過労で倒れたらどうする!」
「はははは。アトラス殿が倒れるほどなら、今の王様は胃痛でくたばってるでござるよ」
「どういう意味だこの野郎」

 それではまるで俺が無敵の人みたいではないか。

 この繊細な俺によくもそんな心無いことを! 俺はか弱いんだぞ!

「行くぞ! 敵はセバスチャンの家にあり!」
「あ、拙者どうでもよく眠くなってきたのでパスで」
「裏切り者がぁ!」

 センダイは床でいびきをかいて眠り始めてしまった。なんて野郎だ、何の役にも立たなかったぞ!

 タダ酒飲まれただけじゃねぇか!

 仕方がないのでエフィルンと二人で、セバスチャンの家へと向かった。

 セバスチャンは日中は走り回ってるので家にいないはずだ。あいつは背中に電動式ゼンマイと、ソーラーパネルつけてるようなものだから。

 なので今いるのは、セバスチャンの孫娘のみ! 

俺はセバスチャンの自宅の前につくと、【異世界ショップ】から拡声器を取り出す。

「聞こえるか! 俺はアトラス! 俺の伝記の作者よ、速やかに降伏して自首せよ! さもなくば反撃するから大人しくしてくれ!」
「犯罪者扱いなんですね」
「セバスチャンの孫だぞ? 大人しく捕まるわけが……来るぞっ!」

 家の扉が開かれて、そこから殺人鬼の孫が現れた。

 その孫はすごく身体が細く色白だ。とても健康な見た目とは思えない。

 いやむしろ病人と言った方がしっくりくるだろう。そんな彼女は扉にもたれかかり、何とか立っている状態だ。

「あ、あの……けほっ。アトラス様……ようこそいらっしゃいまし……」
「えっ、ちょっ」

 セバスチャンの孫は力尽きたかのように、地面に倒れ伏した。
 
「リズ様は超虚弱ですよ。セバスチャン様と同じ種族として扱うのは……」
「先に言おう!? いや聞いてたけど信用ならなかったというか!?」
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