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第50話 油断は禁物
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バフュー様からの手紙に書かれていたのは、どうしても私と会って話をしたいということでした。
話したい内容については書かれておらず、お姉様とのことなのか、もしくはエレガンさんのことなのか予想がつきません。
ルーラス様に私の部屋まで一緒に来てもらい、ソファに並んで座って手紙を読み終えました。
すると、ルーラス様が尋ねてきます。
「どうするつもりだ?」
「一応、会うつもりではおります。ですが、二人きりで会うつもりはありません」
そこまで答えたあと、ルーラス様に聞いてみます。
「そういえば、お姉様は元気にされているのでしょうか?」
「今のところ、ジオラ伯爵と一緒に暮らしてはいるようだが別れる可能性はあるかもな。だが、君の姉は彼と別れたら住む家がなくなってしまう」
「実家はルーラス様のものになっていますものね。ということは、お姉様から離婚する意思はなさそうですね。それにバフュー様は子供を欲しがっておられますし、今すぐにお姉様を捨てることはないですよね」
私が気にすることではないとは思いますが、つい思ったことを口に出してしまうと、ルーラス様は眉根を寄せます。
「もしかしたら離婚して、リルに自分の子を生めと言い出すかもな」
「そんなの嫌です! 私はルーラス様一筋ですよ! 他の方の子は生みません!」
「そ、そうか……」
ルーラス様がなぜか頬を赤く染められました。
とても可愛らしいです。
でも、何かルーラス様が照れるようなことを私は言いましたでしょうか。
よくわかりませんが、嫌な様子には見えませんし微笑ましく思っておきましょう。
ルーラス様はこほんと咳払いをしてから口を開きます。
「リルがそう思っていたとしても、ジオラ伯爵はそう思わないかもしれないだろ」
「ですが、第3王子殿下の妻に手を出そうとするだなんておかしいでしょう? しかも、私が子を生んだとしてもルーラス様の子どもとして育てることになると思うのです」
「ということは、まずは離婚させようとしてくるのか?」
「その可能性はありますが、ルーラス様と離婚しても私に何のメリットもありませんので、お断りの一択です」
きっぱりとお伝えしますと、ルーラス様は満面の笑みを見せてくれます。
「そうか。そうだよな。リルにとって俺が王子なんだからな」
「国民にとっても王子ですね」
「……」
一瞬にして、ルーラス様の元気がなくなってしまいました。
何かおかしなことを言ってしまったのでしょうか。
「申し訳ございません、ルーラス様」
「……いや、別にリルは間違ったことは言ってない。俺が敏感になりすぎてるんだ」
ルーラス様は苦笑したあと、今日の仕事をこなすために、ベイディ邸に出かけていかれました。
私はバフュー様にお返事を書き、それからお姉様にも手紙を書きました。
その後は公爵夫人としての仕事をするために、私専用の執務室に向かったのでした。
*****
それから数日後、お招きしたバフュー様が屋敷に訪ねて来られました。
「ジョゼフィーヌ嬢は僕に脅されたと言っているようですが、そんな事実はありません。信じていただけますよね?」
メイドがお茶を淹れて出ていくなり、バフュー様は挨拶もそこそこに訴えてきました。
ルーラス様が眉根を寄せて質問を返します。
「ジオラ伯爵はリルを裏切っただろう? そんな奴の言葉を信じると思うのか? それにリルにそんな話をしてどうする」
「誰が信じなくてもリルーリア様には信じていただきたいんですよ」
「無理です」
はっきり言わせていただきますと、一瞬だけ、バフュー様の笑みが引きつったように見えました。
私に反抗されるなんてプライドが許さないといったところでしょうか?
「バフュー様、あなたの妻は私のお姉様ですよね。お姉様に信じてもらえていればそれで良いのではないのですか?」
「彼女との夫婦関係は破綻しているんですよ」
「そうですか、それは失礼いたしました。では、どうして私に信じてほしいとおっしゃるのです?」
「それは、あなたが優秀な人だからですよ」
「私は優秀ではありません」
「謙遜しなくても良いんですよ!」
バフュー様は両腕を広げて熱弁を始めます。
「リルーリア様の能力は素晴らしいと聞いております。外見も以前とは比べものにならないくらい美しくなられましたし、今のあなたは僕にとってふさわしい女性になられたと思います」
「何を言っておられるのか意味がわかりません。私はルーラス様の妻ですから、あなたにとってふさわしい妻ではありませんが?」
きっぱりと答えますと、バフュー様は本性を見せることにされたのか、貼り付けていた笑みを消して眉根を寄せます。
「そんな態度を取って良いと思ってるんですか」
「どういうことでしょうか」
「エレガンのことを知っているのでしょう?」
何を言おうとしているのかはわかりますが、返事をしないでいるとバフュー様は言います。
「わからないようでしたらそれはそれで良いでしょう。ただ、言っておきますが、あなたが生きるか死ぬかはエレガンの判断ではなく、私が握っているということをお忘れないように」
「そんなことを言われて、エレガンを好きなようにさせると思ってるのか?」
ルーラス様が尋ねますと、バフュー様は笑顔で答えます。
「彼女は現在、面会はできない状態ですからどうしようもできないと思いますよ」
バフュー様の言うとおり、エレガンさんはお医者様の判断により、王城警察の人間でさえも彼女と会うことが難しい状態になっています。
もしかしますと、バフュー様が裏で仕組んでいるのかもしれません。
彼女とバフュー様が何を考えているのかは何となく見当はつきます。
ですが今は、分からないふりをしておきましょう。
「何をしようとされているかはわかりませんが、それはあなたも同じなのではないですか?」
「彼女と接触できないと思っているんですね? だが、私はあなたたちとは違う」
バフュー様は立ち上がると、私を蔑んだような目で見つめます。
「せっかく僕の妻になるチャンスをあげようと思ったのに、能力がすごくても頭の中が馬鹿じゃ意味がないな」
バフュー様はそう言って、ふんと鼻で笑いました。
ルーラス様が口を開こうとされましたが、服をつかんで制止します。
すると、ルーラス様は口をへの字に曲げた状態ではありますが、我慢してくださいました。
「本日はこれで失礼いたします」
バフュー様は深々と頭を下げると、私たちが何か言う前に部屋から出ていかれます。
そのため、ルーラス様が一度部屋の外へ出て、メイドにバフュー様を玄関まで案内するように頼まなければなりませんでした。
「勝手な奴だな」
部屋に戻ってきたルーラス様は不機嫌そうに言いました。
「私たちのことを舐めきってくれているのは助かります。このままですと、準備が整えば油断した状態で仕掛けてこられると思います」
「……大丈夫なのか?」
「ええ。ただ、ルーラス様も危険ですので、しておかなければいけないことがあります」
「……そうだな」
ルーラス様は緊張した面持ちで頷かれたのでした。
さあ、バフュー様とエレガンさんを今度こそ追い詰めて差し上げましょう!
※
とりあえずあと4話(話数は前後する可能性あり)と番外編で終わる予定をしておりますので、お付き合いいただけますと幸せです。
話したい内容については書かれておらず、お姉様とのことなのか、もしくはエレガンさんのことなのか予想がつきません。
ルーラス様に私の部屋まで一緒に来てもらい、ソファに並んで座って手紙を読み終えました。
すると、ルーラス様が尋ねてきます。
「どうするつもりだ?」
「一応、会うつもりではおります。ですが、二人きりで会うつもりはありません」
そこまで答えたあと、ルーラス様に聞いてみます。
「そういえば、お姉様は元気にされているのでしょうか?」
「今のところ、ジオラ伯爵と一緒に暮らしてはいるようだが別れる可能性はあるかもな。だが、君の姉は彼と別れたら住む家がなくなってしまう」
「実家はルーラス様のものになっていますものね。ということは、お姉様から離婚する意思はなさそうですね。それにバフュー様は子供を欲しがっておられますし、今すぐにお姉様を捨てることはないですよね」
私が気にすることではないとは思いますが、つい思ったことを口に出してしまうと、ルーラス様は眉根を寄せます。
「もしかしたら離婚して、リルに自分の子を生めと言い出すかもな」
「そんなの嫌です! 私はルーラス様一筋ですよ! 他の方の子は生みません!」
「そ、そうか……」
ルーラス様がなぜか頬を赤く染められました。
とても可愛らしいです。
でも、何かルーラス様が照れるようなことを私は言いましたでしょうか。
よくわかりませんが、嫌な様子には見えませんし微笑ましく思っておきましょう。
ルーラス様はこほんと咳払いをしてから口を開きます。
「リルがそう思っていたとしても、ジオラ伯爵はそう思わないかもしれないだろ」
「ですが、第3王子殿下の妻に手を出そうとするだなんておかしいでしょう? しかも、私が子を生んだとしてもルーラス様の子どもとして育てることになると思うのです」
「ということは、まずは離婚させようとしてくるのか?」
「その可能性はありますが、ルーラス様と離婚しても私に何のメリットもありませんので、お断りの一択です」
きっぱりとお伝えしますと、ルーラス様は満面の笑みを見せてくれます。
「そうか。そうだよな。リルにとって俺が王子なんだからな」
「国民にとっても王子ですね」
「……」
一瞬にして、ルーラス様の元気がなくなってしまいました。
何かおかしなことを言ってしまったのでしょうか。
「申し訳ございません、ルーラス様」
「……いや、別にリルは間違ったことは言ってない。俺が敏感になりすぎてるんだ」
ルーラス様は苦笑したあと、今日の仕事をこなすために、ベイディ邸に出かけていかれました。
私はバフュー様にお返事を書き、それからお姉様にも手紙を書きました。
その後は公爵夫人としての仕事をするために、私専用の執務室に向かったのでした。
*****
それから数日後、お招きしたバフュー様が屋敷に訪ねて来られました。
「ジョゼフィーヌ嬢は僕に脅されたと言っているようですが、そんな事実はありません。信じていただけますよね?」
メイドがお茶を淹れて出ていくなり、バフュー様は挨拶もそこそこに訴えてきました。
ルーラス様が眉根を寄せて質問を返します。
「ジオラ伯爵はリルを裏切っただろう? そんな奴の言葉を信じると思うのか? それにリルにそんな話をしてどうする」
「誰が信じなくてもリルーリア様には信じていただきたいんですよ」
「無理です」
はっきり言わせていただきますと、一瞬だけ、バフュー様の笑みが引きつったように見えました。
私に反抗されるなんてプライドが許さないといったところでしょうか?
「バフュー様、あなたの妻は私のお姉様ですよね。お姉様に信じてもらえていればそれで良いのではないのですか?」
「彼女との夫婦関係は破綻しているんですよ」
「そうですか、それは失礼いたしました。では、どうして私に信じてほしいとおっしゃるのです?」
「それは、あなたが優秀な人だからですよ」
「私は優秀ではありません」
「謙遜しなくても良いんですよ!」
バフュー様は両腕を広げて熱弁を始めます。
「リルーリア様の能力は素晴らしいと聞いております。外見も以前とは比べものにならないくらい美しくなられましたし、今のあなたは僕にとってふさわしい女性になられたと思います」
「何を言っておられるのか意味がわかりません。私はルーラス様の妻ですから、あなたにとってふさわしい妻ではありませんが?」
きっぱりと答えますと、バフュー様は本性を見せることにされたのか、貼り付けていた笑みを消して眉根を寄せます。
「そんな態度を取って良いと思ってるんですか」
「どういうことでしょうか」
「エレガンのことを知っているのでしょう?」
何を言おうとしているのかはわかりますが、返事をしないでいるとバフュー様は言います。
「わからないようでしたらそれはそれで良いでしょう。ただ、言っておきますが、あなたが生きるか死ぬかはエレガンの判断ではなく、私が握っているということをお忘れないように」
「そんなことを言われて、エレガンを好きなようにさせると思ってるのか?」
ルーラス様が尋ねますと、バフュー様は笑顔で答えます。
「彼女は現在、面会はできない状態ですからどうしようもできないと思いますよ」
バフュー様の言うとおり、エレガンさんはお医者様の判断により、王城警察の人間でさえも彼女と会うことが難しい状態になっています。
もしかしますと、バフュー様が裏で仕組んでいるのかもしれません。
彼女とバフュー様が何を考えているのかは何となく見当はつきます。
ですが今は、分からないふりをしておきましょう。
「何をしようとされているかはわかりませんが、それはあなたも同じなのではないですか?」
「彼女と接触できないと思っているんですね? だが、私はあなたたちとは違う」
バフュー様は立ち上がると、私を蔑んだような目で見つめます。
「せっかく僕の妻になるチャンスをあげようと思ったのに、能力がすごくても頭の中が馬鹿じゃ意味がないな」
バフュー様はそう言って、ふんと鼻で笑いました。
ルーラス様が口を開こうとされましたが、服をつかんで制止します。
すると、ルーラス様は口をへの字に曲げた状態ではありますが、我慢してくださいました。
「本日はこれで失礼いたします」
バフュー様は深々と頭を下げると、私たちが何か言う前に部屋から出ていかれます。
そのため、ルーラス様が一度部屋の外へ出て、メイドにバフュー様を玄関まで案内するように頼まなければなりませんでした。
「勝手な奴だな」
部屋に戻ってきたルーラス様は不機嫌そうに言いました。
「私たちのことを舐めきってくれているのは助かります。このままですと、準備が整えば油断した状態で仕掛けてこられると思います」
「……大丈夫なのか?」
「ええ。ただ、ルーラス様も危険ですので、しておかなければいけないことがあります」
「……そうだな」
ルーラス様は緊張した面持ちで頷かれたのでした。
さあ、バフュー様とエレガンさんを今度こそ追い詰めて差し上げましょう!
※
とりあえずあと4話(話数は前後する可能性あり)と番外編で終わる予定をしておりますので、お付き合いいただけますと幸せです。
応援ありがとうございます!
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