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第13話 波乱の宴
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私の家族はゲストに当たるわけですが、相手が王族ということもあり、さすがに借りてきた猫のように、最初は大人しくしていました。
両陛下にご挨拶を済ませ、上辺だけは穏やかな食事会が始まり、ほとんど会話のないまま食事を終えると、女性と男性に分かれての会話が始まりました。
男性陣は長テーブルの席に着いた状態で話を始め、女性陣は応接のソファーに移動しました。
お父様とお兄様は必死に陛下や王太子殿下に媚びて色々と話しかけています。
普通ならルーラス様にも挨拶すべきですのに、わざとされていないようで、大人の対応をしているルーラス様から話しかけておられました。
後で謝らなくてはなりませんと思っておりますと、陛下がルーラス様への態度が無礼だと二人に怒ってくださったので、お父様達は慌てています。
心の中で国王陛下に感謝しておりますと、お姉様が向かい側の席から話しかけてきます。
「ねえ、リル、どうしてバフューを呼んでくれなかったの? 彼は私の旦那様なのよ?」
「お姉様、招待状を出した時点では、お二人はご結婚されておりませんでしたでしょう? だからですわ。婚約者の段階では家族ではありません」
「でも、お腹に子供がいるのよ? 結婚するとわかっていることじゃないの」
「そうよ。まったく、あなたは我が家の恥だわ。昔から気も利かない子なんだから」
お母様はお姉様と一緒になって私を責めてきます。
こうすることで、自分達は私のことで精一杯やったけれど、それでも、こんな風にしか育たなかったというアピールを、王妃陛下達にしたいようです。
「リルーリアは落ちこぼれではありませんよ?」
「そうですわ。ルーラスは人の悪意に敏感な人ですから、そんなルーラスに愛されているのですから、リルーリアは少なくとも悪い人間ではありませんし、自分の子供を落ちこぼれだという親のほうがどうかしていると思いますけどね?」
セレシー様はおっとりとした口調で、モリナ様はキツくて速い口調で、お母様を窘めてくださいました。
「も、申し訳ございません。ですが、リルーリアよりも、こちらにいる姉のリローゼのほうがよっぽど優秀でして……」
「ベイディ公爵夫人」
私の隣りに座っておられた王妃陛下が小さく息を吐いてから、お母様を睨みました。
「自分の子供になんてことを言うの。不快だわ。今日はリルーリアがルーラスの嫁に来てくれたから嬉しくて歓迎会を開いたの。私は歓迎しているのよ」
「も、も、申し訳ございませんでした」
お母様は顔を青くして頭を下げました。
王妃陛下は第二王子殿下を亡くしてからは、王太子殿下とルーラス様に対して過保護だと言われるくらいにかまうようになったそうですから、ルーラス様と仲良くしている私を悪く言うことも許せないのでしょう。
「ありがとうございます、お義母様」
「あなたがお嫁に来てくれて嬉しいわ」
お礼を言うと、王妃陛下はにっこりと微笑んでくださいました。
お姉様は私が王妃陛下と上手くやれていることが気に入らないらしく、ムッとした顔をして言います。
「王妃陛下、あまり、妹を甘やかさないでくださいませ。ただでさえ何もできないのに、これ以上、何もしなくなったら、ただのお荷物になりますので」
「そ、そうですわ。今回のバフュー様の件で、王妃陛下がリルーリアを甘やかしていると、エレオラ様が言っておられましたわ。王妃陛下の評判に傷を付けては大変です」
お母様が小さく息を吐いて、心配そうな顔で王妃陛下を見つめます。
エレオラ様というのは、バフュー様のお祖母様のことです。
養子にされましたから、バフュー様はエレオラ様の息子という扱いになっております。
ただ、エッフエム公爵と兄弟の扱いにはならず、ジオラ家の息子という扱いで、少し、ややこしいことになっているようです。
「甘やかしているとは思っていないわ。気分が悪かっただけよ。だって、普通の人間ならば婚約者の姉に手を出したりはしないでしょうし、妹の婚約者との間に子供ができたと、大勢の前で自慢気に発表する姉の常識を疑うわ」
王妃陛下が笑顔で嫌味を言ってくださり、それを聞いたお姉様とお母様は口を閉ざして俯かれました。
それを見て、何だか胸がスカッとして気分が良くなった、その時でした。
「兄上!?」
ルーラス様の驚く声と共に、激しく咳き込む声が聞こえました。
「ラディ!」
今度は国王陛下の焦った声と激しい音が聞こえましたので、慌てて立ち上がって、ルーラス様達のいる方向に目を向けました。
すると、そこには椅子から崩れ落ち、床で倒れ込んでいる王太子殿下の姿と、必死に呼びかけているルーラス様の姿があったのです。
「兄上!」
「ラディ!」
王妃陛下が悲痛な声で王太子殿下の名を呼んで立ち上がられましたが、苦しむ王太子殿下を見てショックで気を失われてしまったのか、ソファーに崩れ落ちてしまわれました。
「王妃陛下! しっかりしてください!」
王妃陛下の介抱をしようとした私の耳に、モリナ様とセレシー様の声が届きます。
「ルーラスの仕業だわ……! ああ、ラディ!」
「ルーラス……! 今度は王太子殿下の命まで奪うつもりなの……!?」
セレシー様はそこまで言うと、顔を覆って泣き始めました。
「どうして、ルーラス様のせいになるのですか」
「だってそうでしょう! リドはあんな状態になって死んだのよ! 今回だって同じだわ! ルーラスだけ苦しんでいないのがその証拠よ!」
私の問いかけにモリナ様が答えてくださった時でした。
部屋の扉が大きく開かれたので、騒ぎを聞きつけた騎士が扉を開けたのかと思いました。
でも、実際は違いました。
開け放たれた扉の向こうに見えたのは、黒色のプリンセスラインのドレスに身を包んだ、長身痩躯の気難しそうな顔をした老婆でした。
白髪混じりの黒い髪を後ろでシニヨンにした、緑色の瞳を持つエレオラ様は部屋に勝手に入ってくるなり、苦しまれている王太子殿下のことなど気にせずに、ルーラス様を見て言います。
「ルーラス様、犯人はあなたですね」
「何を言ってるんだ? それよりも毒の魔法かもしれない。解毒魔法を使える人間を呼んでくれ!」
「それがあなたが犯人だという証拠です!」
エレオラ様は低く冷たい声で続けます。
「バフューは解毒魔法が使えます。すぐに解毒魔法を使われては困るので、わざとこの宴に呼ばないようにしたのでしょう?」
「違う!」
「違わないわ!」
ルーラス様の否定の言葉に対して、モリナ様が叫びます。
「王妃陛下のせいにして、あなたはラディを殺そうとしたのね! 自分が王太子になるために!」
「やめろ! ルーラスはそんなことをするような人間ではない!」
陛下が窘めている間に、ルーラス様は騎士に解毒魔法が使える人間を呼びに行くように指示されました。
「身内を庇いたくなるお気持ちはわかります。ですが、陛下。一番怪しいのはルーラス殿下です。ラディ様に近付けるのは危険です」
「ちが……、ルー……ないっ!」
王太子殿下が否定の言葉を発されたと同時にまた咳き込まれ、体の痙攣が激しくなりました。
これはいけません!
「失礼します!」
呆然と立ち尽くしているお父様とお兄様を押し退けて、王太子殿下に近寄ります。
「リル!」
私がしようとしていることに気付かれたらしく、ルーラス様が止めようとされました。
私の身の危険が今まで以上に増えることを心配してくださったのでしょう。
「大丈夫です。ルーラス様。ルーラス様が守ってくださるのでしょう? それに、ルーラス様のそんなお顔を黙って見ていられるほと、薄情な妻ではないのです」
王太子殿下の意識はすでに無くなっています。
ということは魔法陣ではなく、ただの毒の魔法のはずです。
やると決めたものの、人が多いことと、知られたくない人達に自分の力を知られることが怖くて集中できません。
でも、このままでは、王太子殿下が死んでしまわれます。
回復魔法は解毒魔法ではないため、今、この場では役に立ちません。
緊張で息を荒くしていると、ルーラス様が手を握ってくださいました。
すると、フッと身体の力が抜けて、周りの声などは聞こえなくなり、集中力が増した私は、王太子殿下に無効化の魔法をかけたのでした。
両陛下にご挨拶を済ませ、上辺だけは穏やかな食事会が始まり、ほとんど会話のないまま食事を終えると、女性と男性に分かれての会話が始まりました。
男性陣は長テーブルの席に着いた状態で話を始め、女性陣は応接のソファーに移動しました。
お父様とお兄様は必死に陛下や王太子殿下に媚びて色々と話しかけています。
普通ならルーラス様にも挨拶すべきですのに、わざとされていないようで、大人の対応をしているルーラス様から話しかけておられました。
後で謝らなくてはなりませんと思っておりますと、陛下がルーラス様への態度が無礼だと二人に怒ってくださったので、お父様達は慌てています。
心の中で国王陛下に感謝しておりますと、お姉様が向かい側の席から話しかけてきます。
「ねえ、リル、どうしてバフューを呼んでくれなかったの? 彼は私の旦那様なのよ?」
「お姉様、招待状を出した時点では、お二人はご結婚されておりませんでしたでしょう? だからですわ。婚約者の段階では家族ではありません」
「でも、お腹に子供がいるのよ? 結婚するとわかっていることじゃないの」
「そうよ。まったく、あなたは我が家の恥だわ。昔から気も利かない子なんだから」
お母様はお姉様と一緒になって私を責めてきます。
こうすることで、自分達は私のことで精一杯やったけれど、それでも、こんな風にしか育たなかったというアピールを、王妃陛下達にしたいようです。
「リルーリアは落ちこぼれではありませんよ?」
「そうですわ。ルーラスは人の悪意に敏感な人ですから、そんなルーラスに愛されているのですから、リルーリアは少なくとも悪い人間ではありませんし、自分の子供を落ちこぼれだという親のほうがどうかしていると思いますけどね?」
セレシー様はおっとりとした口調で、モリナ様はキツくて速い口調で、お母様を窘めてくださいました。
「も、申し訳ございません。ですが、リルーリアよりも、こちらにいる姉のリローゼのほうがよっぽど優秀でして……」
「ベイディ公爵夫人」
私の隣りに座っておられた王妃陛下が小さく息を吐いてから、お母様を睨みました。
「自分の子供になんてことを言うの。不快だわ。今日はリルーリアがルーラスの嫁に来てくれたから嬉しくて歓迎会を開いたの。私は歓迎しているのよ」
「も、も、申し訳ございませんでした」
お母様は顔を青くして頭を下げました。
王妃陛下は第二王子殿下を亡くしてからは、王太子殿下とルーラス様に対して過保護だと言われるくらいにかまうようになったそうですから、ルーラス様と仲良くしている私を悪く言うことも許せないのでしょう。
「ありがとうございます、お義母様」
「あなたがお嫁に来てくれて嬉しいわ」
お礼を言うと、王妃陛下はにっこりと微笑んでくださいました。
お姉様は私が王妃陛下と上手くやれていることが気に入らないらしく、ムッとした顔をして言います。
「王妃陛下、あまり、妹を甘やかさないでくださいませ。ただでさえ何もできないのに、これ以上、何もしなくなったら、ただのお荷物になりますので」
「そ、そうですわ。今回のバフュー様の件で、王妃陛下がリルーリアを甘やかしていると、エレオラ様が言っておられましたわ。王妃陛下の評判に傷を付けては大変です」
お母様が小さく息を吐いて、心配そうな顔で王妃陛下を見つめます。
エレオラ様というのは、バフュー様のお祖母様のことです。
養子にされましたから、バフュー様はエレオラ様の息子という扱いになっております。
ただ、エッフエム公爵と兄弟の扱いにはならず、ジオラ家の息子という扱いで、少し、ややこしいことになっているようです。
「甘やかしているとは思っていないわ。気分が悪かっただけよ。だって、普通の人間ならば婚約者の姉に手を出したりはしないでしょうし、妹の婚約者との間に子供ができたと、大勢の前で自慢気に発表する姉の常識を疑うわ」
王妃陛下が笑顔で嫌味を言ってくださり、それを聞いたお姉様とお母様は口を閉ざして俯かれました。
それを見て、何だか胸がスカッとして気分が良くなった、その時でした。
「兄上!?」
ルーラス様の驚く声と共に、激しく咳き込む声が聞こえました。
「ラディ!」
今度は国王陛下の焦った声と激しい音が聞こえましたので、慌てて立ち上がって、ルーラス様達のいる方向に目を向けました。
すると、そこには椅子から崩れ落ち、床で倒れ込んでいる王太子殿下の姿と、必死に呼びかけているルーラス様の姿があったのです。
「兄上!」
「ラディ!」
王妃陛下が悲痛な声で王太子殿下の名を呼んで立ち上がられましたが、苦しむ王太子殿下を見てショックで気を失われてしまったのか、ソファーに崩れ落ちてしまわれました。
「王妃陛下! しっかりしてください!」
王妃陛下の介抱をしようとした私の耳に、モリナ様とセレシー様の声が届きます。
「ルーラスの仕業だわ……! ああ、ラディ!」
「ルーラス……! 今度は王太子殿下の命まで奪うつもりなの……!?」
セレシー様はそこまで言うと、顔を覆って泣き始めました。
「どうして、ルーラス様のせいになるのですか」
「だってそうでしょう! リドはあんな状態になって死んだのよ! 今回だって同じだわ! ルーラスだけ苦しんでいないのがその証拠よ!」
私の問いかけにモリナ様が答えてくださった時でした。
部屋の扉が大きく開かれたので、騒ぎを聞きつけた騎士が扉を開けたのかと思いました。
でも、実際は違いました。
開け放たれた扉の向こうに見えたのは、黒色のプリンセスラインのドレスに身を包んだ、長身痩躯の気難しそうな顔をした老婆でした。
白髪混じりの黒い髪を後ろでシニヨンにした、緑色の瞳を持つエレオラ様は部屋に勝手に入ってくるなり、苦しまれている王太子殿下のことなど気にせずに、ルーラス様を見て言います。
「ルーラス様、犯人はあなたですね」
「何を言ってるんだ? それよりも毒の魔法かもしれない。解毒魔法を使える人間を呼んでくれ!」
「それがあなたが犯人だという証拠です!」
エレオラ様は低く冷たい声で続けます。
「バフューは解毒魔法が使えます。すぐに解毒魔法を使われては困るので、わざとこの宴に呼ばないようにしたのでしょう?」
「違う!」
「違わないわ!」
ルーラス様の否定の言葉に対して、モリナ様が叫びます。
「王妃陛下のせいにして、あなたはラディを殺そうとしたのね! 自分が王太子になるために!」
「やめろ! ルーラスはそんなことをするような人間ではない!」
陛下が窘めている間に、ルーラス様は騎士に解毒魔法が使える人間を呼びに行くように指示されました。
「身内を庇いたくなるお気持ちはわかります。ですが、陛下。一番怪しいのはルーラス殿下です。ラディ様に近付けるのは危険です」
「ちが……、ルー……ないっ!」
王太子殿下が否定の言葉を発されたと同時にまた咳き込まれ、体の痙攣が激しくなりました。
これはいけません!
「失礼します!」
呆然と立ち尽くしているお父様とお兄様を押し退けて、王太子殿下に近寄ります。
「リル!」
私がしようとしていることに気付かれたらしく、ルーラス様が止めようとされました。
私の身の危険が今まで以上に増えることを心配してくださったのでしょう。
「大丈夫です。ルーラス様。ルーラス様が守ってくださるのでしょう? それに、ルーラス様のそんなお顔を黙って見ていられるほと、薄情な妻ではないのです」
王太子殿下の意識はすでに無くなっています。
ということは魔法陣ではなく、ただの毒の魔法のはずです。
やると決めたものの、人が多いことと、知られたくない人達に自分の力を知られることが怖くて集中できません。
でも、このままでは、王太子殿下が死んでしまわれます。
回復魔法は解毒魔法ではないため、今、この場では役に立ちません。
緊張で息を荒くしていると、ルーラス様が手を握ってくださいました。
すると、フッと身体の力が抜けて、周りの声などは聞こえなくなり、集中力が増した私は、王太子殿下に無効化の魔法をかけたのでした。
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