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第12話 義姉の思い

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 王妃陛下と別れたあとは、王太子妃殿下やセレシー様にお会いしたりして、どのような方か簡単にですが見極めさせていただきましたが、中々、厄介なことになっていそうでした。

 とある理由から、ルーラス様と話し合って、とにかく、私達はラブラブで上手くいっているというアピールをしなければいけないということになり、まずは、大切なことを済ませようと頑張ってみることにしました。
 でも、夜は進もうとすると、私の集中が途切れて子供の姿になってしまわれますし、明るいと緊張してしまって何もできなくなるという日々が続いておりました。

 初めて同士というものはこんなものなのでしょうか!?

 そんなこんなとしている内に、歓迎の宴の日がやって来ました。
 王妃陛下のご希望でバフュー様は来ないとのことですが、家族から何か言われるんじゃないかと思うと、それはそれでうんざりです。

「緊張してるのか?」
「そうですわね。何もなければ良いとは思っておりますが……」

 表情が強張ってしまっているのでしょうか。
 黒の燕尾服姿のルーラス様が心配そうに聞いてこられましたので首を縦に振りました。

 家族のこともありますが、何か起きる可能性が高いですし、気持ちが落ち着きません。
 この何日間かで無効化魔法を発動させながら、城の敷地内を歩き回って確認しましたが、ルーラス様に関係する魔法陣らしきものは見つかりませんでした。

 もちろん、違う魔法陣もです。

 私達が宴に出席している間は、ルーラス様のご友人でもあるレイド様率いる調査チームが、引き続き、魔法陣を探してくれるとのことでした。

 レイド様は鑑定魔法を使えるらしく、多人数や広範囲であっても一度に鑑定できるんだそうです。
 しかも、それだけではなく悪意の混じる魔法が近くで発動されている場合は、気分が悪くなられるそうで、結界が張られていなければ、魔法陣に関しても気付けるのではないかと言われておりました。

 そして、私をルーラス様に紹介してくださったのもレイド様でした。

 あのパーティーの日、エッフエム公爵と共に私に近付く際に、職業病なのか、無意識に鑑定してしまったようです。

 普通なら彼の目には私の近くに、どんな魔法が使えるか、善人か悪人かと区別できる色が見えるそうなのです。

 でも、レイド様の目に見えたのは善人の色だけだったので、おかしいと感じたと言っておられました。

 レイド様も魔法について研究しておられるそうなので、もしかすると、レイド様は私の魔法に気が付いておられるかもしれません。

 そして、ルーラス様が魔法をかけられていることにも気付いておられる可能性があります。

 無効化の魔法が使える私をルーラス様の妻にすることにより、ルーラス様を助けようと思われたのかもしれません。

「大丈夫だ。リルは俺が守るから」

 ルーラス様が手を優しく握って言ってくださるので、恥ずかしくなり、可愛くないことを言ってしまいます。

「ですが、魔法陣が相手では無理でしょう?」
「リルは魔法陣で悩まされることはないだろ」
「そうでした」

 国王陛下に事情を説明したところ、快く許可してくださり、現在の私は表向きはリルーリア・アメルですが、実際は違っております。

 本日、宴が開催される場所は国賓を迎える際に使われる大広間で、ダンスホールなどと比べればこじんまりしていますが、参加する人数からすれば、かなり大きめな部屋になります。

 部屋の中央には二十人程が座れる、大きな長テーブルがあり、部屋の奥には宴が始まるまでの休憩場所兼食事後にゆっくり談話できるようにか、応接スペースがありました。

 早い時間に着いたので、そちらで座って話をすることになり、ルーラス様と向かっていると、背後から声を掛けられました。
 
「ごきげんようリルーリア、とても綺麗な色合いのドレスね。小柄で可愛らしい、あなたにとてもよく似合っているわ」

 水色のシュミーズドレスに身を包んだ私を見て、ほんわかした笑顔で近寄ってこられたのは、セレシー様です。

 ダークブラウンの髪をシニヨンにした、グラマーな体型のセレシー様は言葉を続けます。

「本当に二人は仲が良いのね。羨ましいわ」

 セレシー様の視線の先はルーラス様と繋がれている私の手です。
 第二王子殿下がお亡くなりになったあと、実家には戻られず、城に滞在しておられます。
 それが駄目だという理由もないですし、本人のご希望のようですので、私も何も言うつもりはありませんが、やはり、恋人同士や夫婦などを見ると、第二王子殿下のことを思い出されるのか辛そうにされています。

「ごきげんよう、セレシー様。あの、ルーラス様、セレシー様とお話させてもらってもよろしいですか?」
「わかった。何かあったら呼んでくれ」

 ルーラス様は私の手を離すと、すでに席に着いていらっしゃる国王陛下の所へと向かっていかれました。

「まさか、ルーラスが結婚するだなんて思っていませんでしたわ」

 セレシー様とお話をしようとソファーに座ったところで、王太子妃殿下がいらっしゃったので、立ち上がって慌てて頭を下げます。

「王太子妃殿下にお会いできて光栄ですわ」
「あなたはわたくしの義理の妹でしょう? そんな挨拶はいらないわ。それよりも、元婚約者が来るのを断ったそうね」
「それは……」

 王妃陛下が気を遣ってくださったのです。
 
 素直にそう口にしようと思いましたが、今は悪手のような気がしましたので、素直に謝ることにします。

「申し訳ございませんでした。何かございましたでしょうか?」
「社交界で噂になっているわよ。あなたが元婚約者にフラれたショックで意地悪をして、今回の宴に呼ばなかったと。しかも、それを王妃陛下から言わせたって。王妃陛下の名誉も丸潰れよ。あなたに甘い顔をしたということでね」
「お言葉ですが、それに関しましては王妃陛下が甘い顔をされたというわけではなく」
「口答えしないで! ジオラ家がどれだけの権力を持っているか、あなたも知らないわけではないでしょう? クーデターでも起こされたらどうするつもり? ルーラスも本当に馬鹿だわ! あなたが可愛いからって、王家よりもあなたを優先するなんて」

 エメラルドグリーンの腰まであるストレートの長い髪の毛を揺らし、興奮した様子で王太子妃殿下である、モリナ様が言ってこられるので、言わなければいけないことは伝えることにします。

「そうなると思っておりましたから、ルーラス様は王妃陛下に、無理はされないようにとお伝えしておられました。今回は王妃陛下のご厚意です。もちろん、私がそのご厚意に甘えたことが一番悪いのです。ご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」

 深々と頭を下げると、揉めていることに気が付いたルーラス様が近寄ってこられました。

「どうした」
「ルーラス! あなた、何を考えているのよ! リドがあんな形で亡くなって、ただでさえ、私達の結束がバラバラになっている時に、こんな厄介な女性を嫁にするだなんて!」
「リルは厄介ではありません。それにエッフエム公爵家の推薦ですよ」
「リルーリアが呼ぶのを嫌がった彼は彼女の姉と結婚したのよ!? ジオラ家を敵に回すつもりなの!?」

 モリナ様の仰る通り、お姉様とバフュー様は、最近、ご結婚なさいましたので、私にとっては義理の兄です。
 ですが、王妃陛下が断ってくださったのは結婚前です。
 このようなことになる可能性があったから、ルーラス様はバフュー様を呼ばないでおこうとする王妃陛下の意見を強く止められなかったのでしょう。

「モリナ、もう止めて。今回の件は私が勝手に進めたことよ。ジオラ卿を呼ばなかったのは、私が彼の顔を見たくなかっただけ。リルーリアは何も関係ないわ。陛下からもリルーリアに疚しいこともないようだし、ルーラスとも上手くいっているから呼ぶべきだと言われていたの」

 興奮してルーラス様に食って掛かるモリナ様に、王妃陛下が割って入ってこられて厳しい口調で言われました。

 正直、バフュー様がお姉様と一緒に来てくだされば、それはそれで「おかげさまで、ルーラス様と結婚できました。ありがとうございます!」と笑顔で言って差し上げるつもりでした。

 王妃陛下の優しさを無駄にしたくはありませんし、気苦労をおかけすることになったのは私の責任です。

 とにかく、謝るしかありません。

「今後、このようなことがないように致します。申し訳ございませんでした」
「俺からも謝ります。申し訳ございませんでした」

 ルーラス様も頭を下げてくださると、モリナ様は私の両肩を掴みます。

「リルーリア! あなたは第三王子妃なのよ! これからもっと嫌なことを言われるようになるわ。こんなことで負けては駄目よ」
「は、はい……。申し訳ございません」
「ルーラスも、ルーラスだわ! 彼女のことを思うなら、もっとしっかりなさい!」
「す、すみません」

 も、もしかして、モリナ様は、誰も私を叱らないので、私のためを思って叱ってくださったのでしょうか。

「お義母様もですわ! 新しく出来た娘を大事にしたいというお気持ちはわかりますが、自分の立場を考えてくださいませ」
「モリナ、もういいだろう。母上だって何も考えずにやった行動じゃない」

 王太子殿下が止めに入ってくださったこともあり、この場が丸く収まった時に、ベイディ公爵家とジオラ家に嫁にいったお姉様がやって来たのでした。


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