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第9話  新婚夫婦の寝室での会話①

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 色々と考えることはありましたが、一番気になったのは、第三王子殿下という立場が低く見られているような気がして、その日の晩、寝室のベッドの上で向かい合い、ルーラス様の両手を握りしめながら聞いてみます。

「あの、どうしてルーラス様が王太子殿下の付き人だけならまだしも、護衛を務めておられるのですか?」
「……何で、そんなことを聞くんだ?」
「ルーラス様だって護られる側の立場の方ではないですか」
「ああ、そういうことか」

 ルーラス様は私の右手を離し、私の左手を両手でマッサージしてくれながら答えてくれます。

「第三王子っていうのは、第二王子のスペアだったから。今回もそんな感じだ」
「どうしてそんなことを仰るんですか! それにスペアであるなら、余計に守られるべきです! ルーラス様の言い方ですと、王太子殿下のために死なないといけない感じではないですか!」

 怒りでカッとなって叫んでしまうと、私を宥めるようにまた、両手を握って微笑まれます。

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、亡くなった第二王子のリド兄さんだって、今の王太子であるラディ兄さんのスペアだったんだ」
「……スペアが必要なことはわかります。でも、それは、王太子殿下に何か遭った時のためではないですか」
「いや、絶対にそんなことがあっちゃ駄目だ。ラディ兄さんに何かあるのなら、俺が死んだほうが」
「ルーラス様!!」

 体格差がありますので、私の頭突きは、ルーラス様の顎にヒットしました。

「っって!」
「痛い……、痛いですっ!」
「自分で頭突きしといて、痛いはないだろ!」

 手は握りあったままなので、痛む場所をお互いに触ることが出来ないまま、痛みが引くのを待ったあとに叫びます。

「ルーラス様が悲しいことを口にしようとされるからです! 私を未亡人にさせるおつもりですか! 守ってくださるとお約束してくださったから秘密も打ち明けましたのに!」
「そ、それはそうだけど」
「死ぬのであれば、私を守って死んでください。というか、私のために死んだりされましたら、絶対に許しませんから!」
「いや、言ってること無茶苦茶だからな!?」

 興奮してしまったためか、集中力が途切れ、手を握っていたのにルーラス様が子供になってしまわれました。

「……申し訳ございません」
「いや、いいよ」

 自分の服に埋もれてしまっているルーラス様を抱き上げると、服が落ちて、まあ、言わなくてもわかると思いますが裸です。

「やめろ! 見るな!」
「そんなに恥ずかしがらなくても。メイドの子供と一緒にお風呂に入ったこともありますので、お気になさらず。可愛らしいですね」
「それは本当の子供だろ! 俺は大人だ! だから、見るなって! さっきからどこ見てるんだよ!?」
「……仕方がありませんね」

 顔だけ出した状態で、子供のルーラス様をシーツでぐるぐる巻きにして差し上げると、不満そうにしておられますが、見られたくないところを見られなくて済むからか、大人しくしてくださいました。

「ルーラス様、少し考えたのですが、私を王城に連れて行ってもらうことは可能でしょうか」
「良いけど、どうするつもりだ?」
「犯人を探します」
「……駄目だ、危険だ」

 大きな赤ん坊のようにシーツに包まれて横になっているルーラス様は首を横に振られました。

「どうしてですか?」
「リルーリアに誰かが魔法をかけたら、君は異変に気がついた時点で無効化の魔法をかけるだろ? 君の力が相手に気付かれる可能性がある。それに魔法陣を使われた魔法の場合は君でも無効化できないだろ」
「そのことなのですが、私は自分の命を守ろうと思いまして」
「……どういうことだ?」

 守れと言っておきながら、自分で自分を守ると言い出したので、言っていることがおかしいとでも思われたのか、ルーラス様は眉を寄せて聞いてこられました。

「リルーリア・アメルのままでは危ないと思うのです。最初は改名を考えましたが、変えるのは名前ではなく……。ただ、これについては国王陛下の承認が必要です」
「……そういうことか。でも、それなら、俺も変更すれば良いんじゃないのか?」
「ルーラス様の場合は、国王陛下がご健在の今は難しいでしょう。出来たとしても、一時的に魔法の効果はなくなるかも知れませんが、身近な人にはお伝えするでしょう? そうなってしまえば一緒です。魔法をかけた相手に知られてしまっては意味がありません。私はルーラス様、そして国王陛下にしかお伝えしませんから、私に何かあったら、疑うのはルーラス様と陛下だけになります」
「でも、手続きはしないといけないだろ。その場合、役所の人間には伝わるはずだ。そこから漏れたらどうするんだ?」
「そのことなのですが、役所の人間には守秘義務として就職する際に誓約書を書かされているそうです」

 ルーラス様のお帰りを待っている間に調べた結果、商店は別ですが、役所など多くの人のプライバシーに関わるものを扱うところで働く人は、職場で知った個人情報を漏らさないという誓約書にサインさせられるんだそうです。
 その誓約書には魔法がかけられており、個人情報を漏らそうとすると全身が激痛に襲われ、話したくても話せない状況に陥るとのことでした。

 そのことをルーラス様にお伝えしますと、表情を歪めます。

「でも、それに関しては誓約書を破れば終わりなんじゃないのか?」
「そうなってしまいますが、破られた時点で退職したとみなされて、記憶が消されるそうです」
「間違って破った場合は?」
「間違えて破られるということは絶対にありえません。誓約書はまとめて保管されていて、保管場所には何重もの防御魔法や侵入防止魔法がかけられていて、普通の人間では破れませんし、その部屋には限られた人しか入室も出来ません。もし、許可なく破れるとしたら」
「リルーリアだけか」

 ルーラス様は手を出して身を起こすと、私を見つめてこられたので頷きます。

「そうです。今のところ、無効化魔法を使えるという人物は私以外には現れていませんから、なんとも言えません。ですが、数万人に一人の割合といいますと、この国の人口は100万人近くおりますが、子爵家以上の貴族は、その数パーセント程度しかいません」
「それは知ってる。だから、現在、無効化魔法を使えるのはリルーリアしかいない可能性が高い。ただ、男爵家に現れないというのは確実なのか?」
「平民の血が混ざっていくからだと言われております」
「男爵や騎士だと平民と結婚する可能性もあるからか」
「そうです。男爵や騎士が平民と結婚を続ければ、平民の血が濃くなってしまうのでしょう。それが悪いことだとは思いませんが」

 話が少しズレてしまいましたので、元に戻します。

「私は凄腕の盗賊とかにもなれてしまいそうな気がしますが、第三王子殿下の妻です! そんなことは出来ません。私がやらなければならないのは、ルーラス様がかけられている魔法を解くこと、そして第二王子殿下を苦しめた犯人を捕まえること、最後に、これ以上の犠牲者を出さないことです。そのためには、ルーラス様以外の王族の方達も疑わねばなりません。それはご了承願えますか?」
「……わかってるよ。たぶん、犯人は王族、もしくは王族の関係者の中にいる」
「気になったのですが、どうしてルーラス様を夜だけ子供にしたのでしょうか?」
「……わからない。初夜を邪魔したかった、とか?」

 ルーラス様が小首を傾げるので、その姿が可愛らしくて頭を撫でると「やめろ」と頬を膨らませて、小さな手で私の手を払いました。

 その際、ぱちんと音がしたからか、慌てて私の手を取ってさすってこられます。

「悪い。強く払うつもりはなかったんだ」
「大丈夫ですよ。骨は折れてません」
「それはそうだろうが、最悪の場合は言ってくれ。俺は回復魔法が使えるから」
「そ、そうなのですか!?」
「ああ。これは両親と兄上しか知らない」
「そういえば、王太子殿下も第二王子殿下もご結婚されておられましたよね。王太子妃殿下にも伝えておられないのですか?」
「言う必要ないだろ? それに言わないでくれって言ってる」

 ふぅーと子供らしからぬ大きなため息を吐いてから、ルーラス様は私の目を見て言います。

「自分で言うのもなんだが、俺に恨みがあると思われる人間は考えられる限り、三人はいる」
「三人!」
「王太子妃殿下のモリナ様、亡くなったリド兄さんの妻、セレシー様、それから……兄上だ」
「兄上って……、王太子殿下のことですか!?」

 驚いて聞き返すと、ルーラス様は大きく首を縦に振ったのでした。

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