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第10話 新婚夫婦の寝室での会話②
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「そんな、信じられません。どうして王太子殿下がルーラス様に恨みがあるんです?」
兄弟の仲が悪いのならまだしも、ルーラス様の話を聞くだけでは、そんな風には思えません。
ルーラス様は言いにくそうに少しだけ躊躇されたあと、前置きをされます。
「俺にはその気がないということを頭に入れて聞いてほしいんだが」
「何だかよくわかりませんが、承知しました」
「現在の王太子妃殿下、モリナ様は俺のことが好きだったらしい」
「……はい?」
驚きすぎて間抜けな声になってしまいました。
王太子妃殿下がルーラス様をお好きだった……?
ルーラス様のお顔は整っていらっしゃいますし、ありえないことではありませんが、色々と複雑になってきそうです。
「兄上と結婚した今は、さすがにそんな気持ちはないと思うんだが、兄上はそうとは思っていない可能性がある」
「あの、王太子殿下と妃殿下は政略結婚なのですか?」
「政略結婚と言えば政略結婚なんだが、兄上の希望でモリナ様は兄上の婚約者になって、そのまま結婚までいってる」
「妃殿下は結婚を嫌がられていたんですか?」
「ラディ兄さん……じゃなくて、兄上から聞いた話ではそうらしい。兄上は父上似で顔が濃いタイプだろ? モリナ様にとってはタイプじゃなかったらしい。今でも冗談っぽく言われるらしい。それについては、俺からということではなく、友人から彼女の侍女にその冗談を止めるように伝えてもらったけどな」
「……でも、もう、ご結婚なさっているわけでしょう? ですから、王太子殿下はルーラス様に恨みなんてないのではないでしょうか」
ルーラス様はシーツで体を隠して私に近寄ってくると、私の膝の上に頭を乗せて仰向けの状態で、私を見上げて言います。
「兄上は俺には優しいよ。だけど、嫉妬深いんだ。どんなものかは近い内にわかる……って、そうだ。言い忘れてた」
「何でしょう?」
「城の使用人達に不思議な落書きを見たことはないかと聞いたら、何人かが気が付いていた」
「書かれていた場所がわかったんですか?」
「ああ。一つは城の庭園の奥に庭師のための道具置き場の小屋があるんだが、その裏側に書かれていた。土の上に血らしきもので書かれていたらしい」
外に書かれていたなら風や雨などで魔法陣が消えたり、ターゲットの何かが飛んでいったりする可能性があります。
それなのに、外に書いた?
それに、どうして中々見つからなかったのでしょう。
考えられるとすれば……。
「結界魔法でしょうか」
「その可能性がある」
結界魔法は結界を張った部分だけ異空間を作る魔法です。
この国でいう異空間という言葉は、現実の世界ではない異質な空間という意味なのですが、そこに無意識に近寄らせないようにする力も働くようです。
結界魔法が張られた場所の本来の姿は魔法をかけたものにしか見えませんし、触れることもできません。
……敵は本当に厄介です。
もちろん、結界魔法に関しては場所がわかれば、私がとくことは出来ますが、その場所がわからなければ意味がありません。
庭師が見つけたのも結界魔法をかけた人間が解除したからでしょう。
「結界魔法が使える知り合いはおられますか?」
「両親も、俺が怪しいと思っている三人も使える」
「……」
思わず頭を抱えてしまいます。
容疑者が絞れない上に、ルーラス様の身内ばかりです。
それに結界魔法を使えるということを相手が公言していない可能性もあります。
「これは大変です」
「話は変わるんだが、リルーリア、母上から言われたんだが、近いうちに家族だけでリルーリアの歓迎の宴を開きたいと」
「家族だけ、というのは?」
「一応、君の身内も呼ぶことになってる。相手が断ってくれればいいんだが」
「両陛下や王太子殿下が祝ってくださるということであれば、断るとは思えません」
両陛下の私への態度によっては、私に媚びてくる可能性もあります。
「俺の体のこともあるから、歓迎の宴は昼に行われるし、特に何も起こらないと思う。その前にリルーリアは兄上やモリナ様、セレシー様とは初対面だろ。会いに行くという口実で、城の中を見て回るか?」
「よろしいのですか?」
「かまわない」
ルーラス様は頷くと、私を凝視して聞いてきます。
「もう日にちがないから、ドレスは無理だが、髪飾りかアクセサリーを送ろうと思ってたんだが、リルーリアは貴族の女性にしては髪が短いんだな」
「長い髪の女性がお好きですか?」
「いや、珍しいなと思って」
「今までは長いと邪魔だったのですが、これからは伸ばすようにいたしますよ!」
「そうか」
ルーラス様は眠くなってこられたのか、目がとろんとし始めました。
その姿が可愛くて、つい頬を触ってしまいます。
最初は嫌がって手を払っておられましたが、絶対に嫌というわけでもないようで、私に膝枕をされたままです。
ずっと気を張られていたのでしょうか。
優しく撫でていると、ルーラス様は眠ってしまわれました。
とっても可愛い天使のような寝顔です。
そんなルーラス様を見て、悲しいことを考えてしまいます。
回復魔法が使えたからこそ、ルーラス様は自分を責めていらっしゃるのかもしれません。
第二王子が命を絶たれた時、近くにいれば、回復魔法で助けられたかもしれませんものね。
それなのに、その日に限って、ルーラス様はいませんでした。
どちらが第二王子殿下のためだったかはわかりません。
まさか、陛下が第二王子殿下に生と死を選択させようとしたなんて、そんなことはないと思いますが、疑うべき人がいっぱいです。
第二王子殿下を苦しめた理由は何なのか。
ルーラス様をこのように夜だけ子供にしてしまった理由は何なのか。
私とルーラス様の平穏は、ルーラス様を慕っている使用人達の幸せにも繋がります。
とにかく関係者に会って、情報を集めなければいけません。
ルーラス様を優しく抱き上げて、起こさないようにゆっくりと横に寝かせて、私もベッドに横になりました。
その際、ぎゅっと私の手を掴んできたので、話せなかった話題を話しかけてみます。
「メイドから昨日やらなければいけなかったことの本をもらったんです。すべてが落ち着いたら、一緒に読みましょうね」
もちろん、返事は返ってきませんでしたが、とても可愛い寝顔を見せてくれただけで十分でした。
*****
頬に何かが触れた気がして目を開けると、すぐ近くにルーラス様の顔がありました。
「うひゃあっ!?」
「人の顔を見てそれはないだろ」
ルーラス様が眉を寄せて文句を言われました。
もう日は昇っているようですが、カーテンを締め切っているせいか、少し薄暗いですが、ルーラス様の姿ははっきりと見えます。
「お、おはようございます!」
「おはよう。それから、ごめん。昨日、俺、話の途中で寝たか?」
「お疲れのようでしたね」
すると、ルーラス様は大きなため息を吐かれます。
「どうかされましたか?」
「レイドから昨日の晩こそは頑張れと言われてたんだ。彼は俺が子供になることを知らないからな」
「人に言われて頑張るものではありませんよ」
「そ、そうだよな」
「ところで、レイド様と言いますと、エッフエム公爵家の長男のレイド様ですわよね?」
ベッドの上で横になって向かい合ったまま尋ねると、ルーラス様は私の頬を大きなゴツゴツした手で触りながら答えてくれます。
「そうだ。レイドは兄上の付き人の一人だよ」
「そうだったのですね! 関係者が増えてきましたので、人物相関図を作らなければなりません」
「リルーリアは真面目だな」
「何を言ってらっしゃるんですか! 命に関わることです。呑気になんてしていられません!」
「そうだな、そうだよな。昨日言えなかったんだが、今日は仕事が休みなんだ。だから、城を案内する。兄上や父上と会うのは難しいが、母上と王太子妃殿下とセレシー様には会えるはずだ」
ルーラス様が耳を触ってこられるので、くすぐったくなって手を掴んでから、上半身を起こすと、掛けていたシーツが大きくめくれてしまいました。
「今日は忙しい一日になりそうですね! ひぃっ!」
「おい! シーツをめくるな!」
「ちゃんと隠してくださいませ!」
「何を言ってるんだよ!? 俺は隠してただろ!」
ルーラス様が慌ててシーツを奪って叫びます。
「だ、だって、見ちゃったじゃないですか!」
「シーツをめくったのはリルーリアだろ!」
「殿下! リルーリア様! 何かありましたか!?」
ルーラス様が身を起こして大きな声で叫んだからか、騒ぎを聞きつけた騎士が扉を叩いて声をかけてくれたのでした。
※
結界魔法につきましては、お話などによって色々とあるかと思いますが、この世界ではそんな感じとさらりと流してやってくださいませ。
兄弟の仲が悪いのならまだしも、ルーラス様の話を聞くだけでは、そんな風には思えません。
ルーラス様は言いにくそうに少しだけ躊躇されたあと、前置きをされます。
「俺にはその気がないということを頭に入れて聞いてほしいんだが」
「何だかよくわかりませんが、承知しました」
「現在の王太子妃殿下、モリナ様は俺のことが好きだったらしい」
「……はい?」
驚きすぎて間抜けな声になってしまいました。
王太子妃殿下がルーラス様をお好きだった……?
ルーラス様のお顔は整っていらっしゃいますし、ありえないことではありませんが、色々と複雑になってきそうです。
「兄上と結婚した今は、さすがにそんな気持ちはないと思うんだが、兄上はそうとは思っていない可能性がある」
「あの、王太子殿下と妃殿下は政略結婚なのですか?」
「政略結婚と言えば政略結婚なんだが、兄上の希望でモリナ様は兄上の婚約者になって、そのまま結婚までいってる」
「妃殿下は結婚を嫌がられていたんですか?」
「ラディ兄さん……じゃなくて、兄上から聞いた話ではそうらしい。兄上は父上似で顔が濃いタイプだろ? モリナ様にとってはタイプじゃなかったらしい。今でも冗談っぽく言われるらしい。それについては、俺からということではなく、友人から彼女の侍女にその冗談を止めるように伝えてもらったけどな」
「……でも、もう、ご結婚なさっているわけでしょう? ですから、王太子殿下はルーラス様に恨みなんてないのではないでしょうか」
ルーラス様はシーツで体を隠して私に近寄ってくると、私の膝の上に頭を乗せて仰向けの状態で、私を見上げて言います。
「兄上は俺には優しいよ。だけど、嫉妬深いんだ。どんなものかは近い内にわかる……って、そうだ。言い忘れてた」
「何でしょう?」
「城の使用人達に不思議な落書きを見たことはないかと聞いたら、何人かが気が付いていた」
「書かれていた場所がわかったんですか?」
「ああ。一つは城の庭園の奥に庭師のための道具置き場の小屋があるんだが、その裏側に書かれていた。土の上に血らしきもので書かれていたらしい」
外に書かれていたなら風や雨などで魔法陣が消えたり、ターゲットの何かが飛んでいったりする可能性があります。
それなのに、外に書いた?
それに、どうして中々見つからなかったのでしょう。
考えられるとすれば……。
「結界魔法でしょうか」
「その可能性がある」
結界魔法は結界を張った部分だけ異空間を作る魔法です。
この国でいう異空間という言葉は、現実の世界ではない異質な空間という意味なのですが、そこに無意識に近寄らせないようにする力も働くようです。
結界魔法が張られた場所の本来の姿は魔法をかけたものにしか見えませんし、触れることもできません。
……敵は本当に厄介です。
もちろん、結界魔法に関しては場所がわかれば、私がとくことは出来ますが、その場所がわからなければ意味がありません。
庭師が見つけたのも結界魔法をかけた人間が解除したからでしょう。
「結界魔法が使える知り合いはおられますか?」
「両親も、俺が怪しいと思っている三人も使える」
「……」
思わず頭を抱えてしまいます。
容疑者が絞れない上に、ルーラス様の身内ばかりです。
それに結界魔法を使えるということを相手が公言していない可能性もあります。
「これは大変です」
「話は変わるんだが、リルーリア、母上から言われたんだが、近いうちに家族だけでリルーリアの歓迎の宴を開きたいと」
「家族だけ、というのは?」
「一応、君の身内も呼ぶことになってる。相手が断ってくれればいいんだが」
「両陛下や王太子殿下が祝ってくださるということであれば、断るとは思えません」
両陛下の私への態度によっては、私に媚びてくる可能性もあります。
「俺の体のこともあるから、歓迎の宴は昼に行われるし、特に何も起こらないと思う。その前にリルーリアは兄上やモリナ様、セレシー様とは初対面だろ。会いに行くという口実で、城の中を見て回るか?」
「よろしいのですか?」
「かまわない」
ルーラス様は頷くと、私を凝視して聞いてきます。
「もう日にちがないから、ドレスは無理だが、髪飾りかアクセサリーを送ろうと思ってたんだが、リルーリアは貴族の女性にしては髪が短いんだな」
「長い髪の女性がお好きですか?」
「いや、珍しいなと思って」
「今までは長いと邪魔だったのですが、これからは伸ばすようにいたしますよ!」
「そうか」
ルーラス様は眠くなってこられたのか、目がとろんとし始めました。
その姿が可愛くて、つい頬を触ってしまいます。
最初は嫌がって手を払っておられましたが、絶対に嫌というわけでもないようで、私に膝枕をされたままです。
ずっと気を張られていたのでしょうか。
優しく撫でていると、ルーラス様は眠ってしまわれました。
とっても可愛い天使のような寝顔です。
そんなルーラス様を見て、悲しいことを考えてしまいます。
回復魔法が使えたからこそ、ルーラス様は自分を責めていらっしゃるのかもしれません。
第二王子が命を絶たれた時、近くにいれば、回復魔法で助けられたかもしれませんものね。
それなのに、その日に限って、ルーラス様はいませんでした。
どちらが第二王子殿下のためだったかはわかりません。
まさか、陛下が第二王子殿下に生と死を選択させようとしたなんて、そんなことはないと思いますが、疑うべき人がいっぱいです。
第二王子殿下を苦しめた理由は何なのか。
ルーラス様をこのように夜だけ子供にしてしまった理由は何なのか。
私とルーラス様の平穏は、ルーラス様を慕っている使用人達の幸せにも繋がります。
とにかく関係者に会って、情報を集めなければいけません。
ルーラス様を優しく抱き上げて、起こさないようにゆっくりと横に寝かせて、私もベッドに横になりました。
その際、ぎゅっと私の手を掴んできたので、話せなかった話題を話しかけてみます。
「メイドから昨日やらなければいけなかったことの本をもらったんです。すべてが落ち着いたら、一緒に読みましょうね」
もちろん、返事は返ってきませんでしたが、とても可愛い寝顔を見せてくれただけで十分でした。
*****
頬に何かが触れた気がして目を開けると、すぐ近くにルーラス様の顔がありました。
「うひゃあっ!?」
「人の顔を見てそれはないだろ」
ルーラス様が眉を寄せて文句を言われました。
もう日は昇っているようですが、カーテンを締め切っているせいか、少し薄暗いですが、ルーラス様の姿ははっきりと見えます。
「お、おはようございます!」
「おはよう。それから、ごめん。昨日、俺、話の途中で寝たか?」
「お疲れのようでしたね」
すると、ルーラス様は大きなため息を吐かれます。
「どうかされましたか?」
「レイドから昨日の晩こそは頑張れと言われてたんだ。彼は俺が子供になることを知らないからな」
「人に言われて頑張るものではありませんよ」
「そ、そうだよな」
「ところで、レイド様と言いますと、エッフエム公爵家の長男のレイド様ですわよね?」
ベッドの上で横になって向かい合ったまま尋ねると、ルーラス様は私の頬を大きなゴツゴツした手で触りながら答えてくれます。
「そうだ。レイドは兄上の付き人の一人だよ」
「そうだったのですね! 関係者が増えてきましたので、人物相関図を作らなければなりません」
「リルーリアは真面目だな」
「何を言ってらっしゃるんですか! 命に関わることです。呑気になんてしていられません!」
「そうだな、そうだよな。昨日言えなかったんだが、今日は仕事が休みなんだ。だから、城を案内する。兄上や父上と会うのは難しいが、母上と王太子妃殿下とセレシー様には会えるはずだ」
ルーラス様が耳を触ってこられるので、くすぐったくなって手を掴んでから、上半身を起こすと、掛けていたシーツが大きくめくれてしまいました。
「今日は忙しい一日になりそうですね! ひぃっ!」
「おい! シーツをめくるな!」
「ちゃんと隠してくださいませ!」
「何を言ってるんだよ!? 俺は隠してただろ!」
ルーラス様が慌ててシーツを奪って叫びます。
「だ、だって、見ちゃったじゃないですか!」
「シーツをめくったのはリルーリアだろ!」
「殿下! リルーリア様! 何かありましたか!?」
ルーラス様が身を起こして大きな声で叫んだからか、騒ぎを聞きつけた騎士が扉を叩いて声をかけてくれたのでした。
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結界魔法につきましては、お話などによって色々とあるかと思いますが、この世界ではそんな感じとさらりと流してやってくださいませ。
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