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5  そう言うんだぞ? 嫌に決まってるでしょ

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「えーっと、少し確認させてほしいんだけど、ルキアが寝室を出た後、あなたとミゲルは、どうやってそんな関係になったの?」
「昨晩の夕食時に声をかけられていたんです。まさか、こんな事になるとは思っていませんでしたけど」

 なぜか照れて言う毒見役に、呆れ返って物も言えない。

 あんな男に爵位継がせたら終わりだわ。
 家が潰れる。
 新婚初夜に嫁を寝室から追い出して、毒見役のメイドを寝室に連れ込むって、常識的に考えたら、駄目な事くらいわかるでしょう。
 そんな事もわからない馬鹿が爵位を継ごうとしてただなんて!
 
 そりゃあ、イケメンでも貰い手がないわ!
 だから、ルキアの所にきたのかな。
 
 ああ、嫌になる。
 早く離婚しないといけない。
 それに、毒見役の話は離婚に有利な案件よね。
 キスマークという証拠もある。

 何というか、これが、友人から聞いた話で、友人の旦那と知らない女の話だったら、とっても怒っていたと思う。
 
 けど、今回は、別れたいと思っている男と毒見役の女性!
 正直に話してくれた事を褒めてつかわすわ!
 これで、ミゲルがゴネなければ離婚できる!

「じゃあ、彼に責任をとってもらう事にしましょう。ミゲルとあなた、結婚しなさいよ。私、離婚するから」
「え? いいんですか!? でも、最後まではしていませんよ?」
「は?」
「その抱き合ったりしただけです…」

 中途半端な事を…。
 やるならやってよ!
 って、こんな事を思ってはいけないわ。
 
 それに、抱き合ったりする事だって浮気よ。
 キスマークつけてるんだから、それ以上はしてるはず。
 立派な離婚案件だわ!

「浮気してる事にかわりはないから、離婚はするし、爵位はミゲルには渡さないわ。ところで、あなたは平民?」
「そうです」
「じゃあ、平民同士なら、身分もどうこう言われないだろうし、仲良くやれていいと思う。頑張って! その代わり、あなたはここを辞めてね。そして、ミゲルに養ってもらって? ミゲルにもそう私が伝えていたと言ってくれない?」
「わかりました! 話をしてきます!」
 
 毒見役は今までのふてぶてしい態度から一変し、表情を輝かせて頷くと、部屋から出ていく。

 あ、料理を食べさせそこねた。
 というか、あの子、若いんだろうなあ。
 ミゲルが自分を本当に守ってくれると思ってんのかなぁ…。

 ぐぅぅぅ。

 ……お腹が鳴った。

 お腹は減ってるけど、身体に良くない物が入っているとわかってるものを食べるのもなんだし、自分で調理場まで行って、新しい料理をもらうとするか。

 立ち上がってサービングカートを押していこうとすると、メアリーがやって来てくれたので、彼女と一緒に調理場に行く事にした。

「え? ピノがそんな事を?」
「あの子、そんな美味しそうな名前だったのか…」
「え? 美味しそう!?」

 メアリーが驚愕した顔で私を見てくるので、苦笑して首を横に振る。

「こっちの話よ。そのピノは昨日、ミゲルと寝室でイチャイチャしていたそうよ」
「他のメイドは気付かなかったんでしょうか」
「気付いていても、若旦那がいいって言ってるんなら、文句は言えないでしょう」
「ですが、旦那様にバレたら…」
「そんな事をしていないって言うだけでしょ」
「そこまで旦那様は馬鹿ではないと思いますが…」
「あのね、メアリー。ミゲルは私が彼の話が正しいと言うに決まっていると思ってるの」

 メアリーが意味がわからないと言わんばかりに、不思議そうな顔をするので、もうちょっとかみくだいて話す。

「ミゲルは私に、寝室に来なかったのは私の都合と言ったわけ」
「はい」
「お父様はわざわざ、寝室や私の部屋まで来て、さあ、2人は励んでいるかな、なんて調べに来ないでしょう?」
「そんな父親でしたら嫌ですね」
「でしょ? だからバレないのよ。もし、声やら何やらを聞かれたり見られたりしても、相手が私だったとミゲルは言うだろうし、ルキアも自分だったと言うに決まっていると思ってるわけ」
「では、旦那様が疑っても、ルキア様は自分だとおっしゃるわけですか?」
「ルキアは言うかもしれないけれど、私は言わないわ」

 メアリーは、私とルキアが別の人格だということをまだ、信じてくれていない様で何が何やら分からなくなっているみたいだった。

 まあ、その内にわかってくれるでしょ。

 そんな呑気な事を考えている間に厨房に着いたので、先程の事情を話すと、料理人の一人が料理を食べてみて、味がおかしいと証言してくれたので、作り直してもらう事になった。

「あ、ピノとかいう毒見役は解雇するつもりよ。お父様に話をして、新しい人を探してもらうわ」

 毒見役は毎日、2日置きに交代していて、我が家には2人しかいない。
 となると、1人を解雇したら、もう1人しかいなくなるので、彼女の休みがなくなってしまうから、早く見つけてあげないと。

「でも、その前に、お腹が減ったから、何か食べさせてくれる? 目の前で味見してくれたら、毒見役もいらないでしょう?」
 
 笑顔でお願いすると、いつものルキアと様子が違うからか、調理人達は顔を見合わせあったけれど、すぐに、私の昼食を作ってくれた。

 料理が出来上がった後、部屋には戻らずに、調理場に隣接している調理人用の休憩室で食事をしていると、ミゲルの声が聞こえた。

「おい! ルキアを知らないか?」
「ルキア様なら、お食事中ですが…」
「食事中!? 何を呑気に食事をしているんだ!」

 呑気に食事…って、食事くらいゆっくりさせてほしいわ。

 私のところから見えないけれど、足音が遠ざかっていくので、ミゲルは私がダイニングにいると思い込んだらしい。

 今の内に逃げてしまおうか。
 かと言って、どうせまた部屋まで来るだろうし。
 しょうがない。
 また戻ってくるまでに、ご飯を食べてしまおう。

 ルキアは少食すぎるから、少しずつ食べる量を増やしていかないと。
 こういう場合って、どうやって量を増やしていくのが正解なのかしら。

 文明の機器が欲しい…。

 とにかく、お父様の所へ行って、私とミゲルとの離婚の話と、ピノの話をするかなっと。

 ちょうど食べ終えて、一服しようと思った時だった。

「ここにいたのか!」

 またもや、ミゲルが現れた。

 もしかして、この人、ルキアの事好きだったとか?
 んな訳ないか。

 爵位大好きだもんね。
 余計な事を言うなと言いに来たのかな?

 ミゲルは無言で彼を見つめる私に向かって叫んだ。

「わかってるだろうな!? 昨日の晩、僕と君は一緒の部屋にいたんだ! そう言うんだぞ!」
「嫌に決まってるでしょ」

 どうして、わざわざ嘘をついてあげないといけないの?

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