上 下
65 / 75

33-1

しおりを挟む
 ルミナとの再会は、各人各様の変化をもたらした。
 姉のリエリアの場合――

「私がルミナより劣ってるなんてありえないわ。絶対に……絶対にないのよ!」

 大出世を果たしたルミナに影響され、いつも以上に仕事に励むようになった。
 空いた時間に錬金術に関する勉強もするようになる。
 今までの彼女は、自分は優れている、と信じて疑わなかった。
 しかし今、その自信が揺らいでいる。
 立場、環境こそが自身の優位性を示す要素だと彼女は知っていた。
 宮廷で働く自分と、第二王子に認められて大役を任されていたルミナ。
 どちらが優れているか?
 認められているか?
 揺らいだ自信を確信へと変えるため、彼女は生まれて初めての努力を始める。

 きっかけは怒りだった。
 決して褒められた感情ではないけれど、彼女にとってはよい傾向だった。
 元より才能には恵まれている。
 正しく努力し、成長することができれば……。
 彼女はいずれ、王国にとっても大きな存在となるかもしれない。

 その様子を室長は影から見守っていた。
 彼女の変化に、一番に気がついたのは室長だった。
 常に部下たちのことを気にかけ、必要に応じで仕事量を調整したり、時に期待から厳しく接することもある。
 リエリアに対しては、これまでルミナに押し付けていた罰として、彼女と同等の仕事量を割り振っていた。
 
(……変わろうとしているのかしら)

 真意はわからない。
 なぜ努力するようになったのか。
 ルミナに触発されたのだろうか。
 ただ一つ言えるのは、彼女の錬金術師としての研鑽は、たった今始まったのだということ。

(少しだけ、仕事量を減らしましょう)

 彼女が自信をつけられるように。
 ほんの少しずつでも、勉学の時間に当てられる余裕ができるように。
 これをきっかけに彼女が成長してくれたら、ルミナがいなくなった穴もようやく埋まるだろう。
 
 室長はリエリアを見守りながら、自身の仕事に戻る。
 彼女はずっと、心の奥底で引っかかっていた。
 ルミナを追い込んでいたのはリエリアやその周囲だが、自分もその一人なのではないか、と。
 彼女の才能に期待して、成長のために裏で仕事量を変えていた。
 期待からの行為だった。
 決して悪意や、嫌がらせの目的ではない。
 リエリアたちとは違う。
 けれど、それが彼女を追い詰めてしまっていたのなら……。
 そう思わずにはいられなかった。

 ありがとうございました!
 殿下から聞きました! 
 私を推薦してくれたこと! 
 それに仕事のことも、気づいて調整してくださっていたこと!

 ルミナからの言葉が、彼女の心を救った。
 
「感謝すべきは私のほうね」

 よくぞ。
 よくぞ期待に応えてくれたと。
 成長し、巣立った大きな才能に、更なる期待を寄せる。
 彼女ならきっと大丈夫だ。
 恵まれた環境で、ようやく手に入れた居場所で、今度はもっと大きな空へと羽ばたいてく。
 それを見守ることが、今の室長の喜びになっていた。

 この二人にはある種、よい変化が現れた。
 ただ一人……そうはならなかった人間がいる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】姉に婚約者を寝取られた私は家出して一人で生きていきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,178pt お気に入り:5,590

悪役令嬢は森で静かに暮らします。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:319

婚約破棄したのに断罪されそうなんですけど....?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:51

悪役令嬢は冤罪を嗜む

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:346

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:3,558

断罪されたクールな聖女は、隣国の騎士団長に愛されています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,092

処理中です...