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 一週間後。
 各地の建設現場には、二つの新素材が導入された。

 一つ目は――

「おいそこ! 固まる前だから踏むんじゃねーぞ!」
「うおっとあぶね! 足形が残るとこだった」
「気をつけろよ。固まったら崩すの面倒なんだからよ」
「了解、次そっちか」

 地面に流し、固まるのを待っている。
 そう、あれはコンクリートだ。
 この世界にはコンクリートが発明されていないことに、私は気がついた。
 コンクリートの利便性は、前世の世界では知れ渡っていた。
 あまりに当たり前すぎて、構造とか作り方なんて知るはずもない。
 ただ原理は少しだけ知っていたので、微かな記憶を頼りに、それっぽいものを錬金術で作りあげた。
 錬金術があって本当によかったと思う。
 あれを一から作った人たちは、本物の天才たちだ。

 そんな天才たちに負けないように私も頑張ってみた。
 導入されたのはコンクリート以外にもう一つ。
 
「にしても軽いなこれ。心配になるくらい軽いぞ」
「だよな。でも硬いし、燃えないし、耐久性は普通の木材の何倍もある」
「すげーな。錬金術って」
「ああ」

 作業をこっそり見学していると、大工さんたちから嬉しい声が聞こえてきた。
 作った身としては鼻が高い。

「ふふっ」
「嬉しそうで何よりだな」
「そうですね。喜んでもらえたみたいです」
「いや、お前がな」
「はい。私も嬉し――殿下!」

 いつの間にか、こっそり隠れていた私の背後に、エルムス殿下がいた。
 驚いた私は転びそうになる。
 殿下は私の手を掴み、転ばないようにひっぱり上げてくれた。

「おっと、危ないぞ」
「す、すみません」

 二重で恥ずかしい。
 顔が赤くなっているのが、自分でもわかる。
 いつから見られていたのだろう……。

「好評みたいだな」
「は、はい」
「期待以上だ。トリスタンも喜んでたぞ」
「ありがとうございます」

 トリスタン様は今頃、本国に戻っている頃だろう。
 新素材での建築は、一度国に申請を出す必要があるらしく。
 すでに使い始めているのは、トリスタン様が絶対に許可を出すと言っていたから。
 彼が絶対にできると言って、できなかったことは一度もないそうだ。
 そういうところは信頼されている。

「改めて思ったが、錬金術は何でも作れるんだな」
「なんでもは難しいです。できるのは、私が理解できる範囲のものだけですから」
「それなら余計に凄いな。誰も思いつかなかったものを、新しいものを、お前は想像して生み出したんだから」
「いえ、コンクリートはその、参考があったので。もう一つはオリジナルですけど」

 私が新たに作った素材。
 名前はまだ決まっていないけど、簡単に表現すると鉄の木。
 複数の木材と鉱物を掛け合わせて作った新素材は、木や鉄よりも軽く、耐久性は鉄には劣るが木材をはるかに上回る。
 そして木材の欠点である可燃性を下げ、腐りにくい構造に変えた。
 鉄の木とコンクリートを併用することで、これまでより建物に使う鉄の量を減らせる。
 強度はそのままか、それ以上に。

「これで作業も速くなる。人員を増やすのはまだかかるから、本当に助かった」
「お役に立てたのなら何よりです」
「まったくな。期待していた以上だよ。正直こっちの分野で何かできるとは思ってなかった」
「わ、私もです」

 自分が一番驚いている。
 錬金術師として頑張ろうと思っていたら、まさか建築の分野に関わることになるなんて。
 もちろん実際の作業は大工さんたちの仕事だけど。
 コンクリートのこと、少しでも知っていてよかった。
 今後もこういうことがあるかもしれない。

「もっと他の分野の勉強も増やさないといけないですね。まだ役に立てることがあるかも……」
「――ははっ、すごいな」
「え?」

 気の抜けた笑顔を殿下は見せる。

「もう次のことを考える。今に満足せず、新しい何かを生み出そうとしている」
「殿下?」
「そういう前向きな考え方は、誰でもできるものじゃないぞ。大切にしておけ」
「は、はい」

 褒められるようなことをしただろうか?
 ただ自分の未熟さを、少しでも拭えるようにと思っているだけなのに。
 私にとっては当たり前のことが、褒められることだった?

「お前を見てると、俺もやれることを増やさないとなって思うよ」
「そう、ですか?」
「ああ、負けてられないな」

 殿下はどこか嬉しそうに笑って、私の肩をポンと叩く。
 そのまま背を向け歩き出す。

「俺は仕事に戻るよ」
「はい! 私はアトリエに戻ります」
「ああ、頑張れよ」
「はい」

 お互いに背を向けて、別々の方向へ歩き出す。
 私は私がやれることを、殿下は自身のやれることを探して。
 どうしてかな?
 進んでいる方向は違っても、すぐ隣に殿下がいるように感じるのは。
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