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第六章「彼のトナリをかけたタイマン勝負⁉︎の前に嫌われちゃった⁉︎」

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「ああ、緊張したぁ。夕日ヶ丘君、わたし変じゃなかった?」
「うん、良かったよ」
「ありがとう!」
 席に戻る時、二人がそんな言葉を交わしてるのが、聞こえてくる。ジゴク耳なだけで、盗み聞きしたわけじゃないからね。
 ごめんなさい。気になってわざとそっちに耳を向けちゃいました。
「ぜったいサナちゃんの勝ちだね!」
「ていうかそんなの、やる前から分かってることだよ」
 彼女のお友だちが、笑いながら南さんの肩を触ってる。
「うん!夕日ヶ丘君のこと、助けられてよかったぁ」
 南さんも、うれしそう。やっぱかわいいなぁ、全部かわいい。うらやましい。
「……けど、違うもん」
 わたしは、どう頑張っても南さんみたいにはなれない。でも、いいんだ。わたしはわたしなりに、少しずつ前に進んでいくんだから。
「じゃあ次は、朝日さん。お願いできますか?」
上川先生の言葉に、教室が一気にザワザワッと騒がしくなる。事情を知らない人は、まさかわたしが作文発表に名乗りをあげるなんて、思ってなかったみたいだ。まぁ、そうだよね。正直言って、こういうのめちゃくちゃ苦手だし。
「はい」
 静かにイスを引いて、黒板の前に立つ。手も足も震えるし、勝手に顔に力入るし、今絶対ヤバい表情になってる気がする。
「目つきこわっ」
 西山君、あわてて口押さえてるけど、しっかり聞こえてるよ。
「……わたしが華組になってから、毎日がとても楽しかったです。話すことが苦手で、すぐに緊張して、クラス副委員長になってからも、失敗ばかりで、みんなにはたくさん迷惑をかけてしまったと思います」
 作文を読みはじめた途端、クラスがしんと静かになる。前を向くのがこわくて、自分の書いた文字をジッと見つめた。
「わたしは、わたしのことが好きではありませんでした。こんな自分を変えたいと、ずっと思っていました。だけど、そのままのわたしを受け入れてくれた人がいて、その人のおかげで、思ったんです。別に、このままでもいいんじゃないかなって」
 今まで、こわいとか感じ悪いとか、それは周りの評価なんだっておもってた。でも、違ったんだ。わたしがいちばん、わたしのことをそう思ってた。こんな自分、キレイサッパリ捨てちゃいたいって。
「遠足や、交流会や、防災訓練など、さまざまなイベントを通して、わたしは少しだけ成長できたような気がします。まだまだ、間違えてばかりで、気持ちをうまく伝えられなくて、相手を傷つけてしまうこともあるけど。わたしはこれからも、この華組で、いろんなことをみんなと一緒に学んでいきたいです」
 B5の原稿用紙に書いてあることは、これで全部。わたしはそこから目を離して、グイッと顔を上げる。
 「あの時、勇気を出してクラス副委員長に立候補して、ホントに良かったです!」
 夕日ヶ丘君の顔は、最後まで見れないまま。だってわたしがそんなことしたら、彼に迷惑かけちゃうもん。
 わたしは、夕日ヶ丘君に関わらない方がいい。これからは、あのキラキラの笑顔を、遠くから見るだけになる。
 そう思ったら、涙があふれ出しそうになって、わたしはグッと唇をかんだ。
「……以上です」
「ありがとうございました、朝日さん」
 
パチパチ、パチ
 
 誰がどう聞いても、南さんの拍手より少ない。そりゃそうだよね、一学期の振り返りってテーマなのに、なんか自分語りみたいになっちゃったし。自分でも、なんかよく分かんなかったし。
「……」
 悲しいのは、負けたからじゃない。勝っても負けても、わたしはもう夕日ヶ丘君のトナリにはいられないから。それが、いちばんいいから。
 ガマンして、麗。家に帰って、部屋に入って、それから思いっきり泣けばいいんだから。だから今は……
 
バチバチバチッ!!
 
 うつむきながら席に着こうとしたわたしの耳に、おっきな拍手の音。それはみんなじゃなくて、たったひとりの音。

 
「い、一心?なんでそんな拍手してんの?ていうか、拍手にしては激しすぎない?」
 西山君が、ビックリしてる。
「朝日さんの作文が良いと思ったから、拍手してるだけ!それのなにが悪いんだよ!」
「べ、別に悪くないけどさ」
「おれがこのクラス全員分、ひとりで拍手してやる!」
 みんながヒソヒソ話しても、上川先生がオロオロしても、夕日ヶ丘君の音は止まらない。
「そ、そんなにしたら、手が取れちゃうよ夕日ヶ丘くん~!」
 とうとうガマンが出来なくなって、わたしは天を仰ぎながら思いっきり泣いた。
「取れるわけないだろバーカ!」
 涙がいっぱいたまって、前がよく見えない。でも、夕日ヶ丘君がイジワルな顔で思いっきりニシシッて笑ってくれてるのだけは、分かったんだ。

 
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