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episode24-2
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漆原の自宅マンションに着くとリビングに案内された。
嫌味なほどに広く、いかにも高級なインテリア揃いの部屋に全員がきょろきょろと部屋を眺めまわす。
「裕子は」
「客間にいらっしゃいます。お連れするのでこちらでお待ち下さい。久世、来い」
「はいっ!」
美咲は漆原に付いて客間へ向かった。そこには隠れるように身を縮めてひっそりとソファに座る美咲の祖母がいた。
「お約束通り大河さんをお連れしました」
「……どんな魔法をお使いになったのかしら」
「お会いになりますか?」
「それは、どう、でしょう……」
「無理にとは言いません。所詮俺は他人です。けど、どうしても戻って来て欲しいという方もいらっしゃっていますよ」
その時、キイ、とドアを開ける音がした。
二人は音のした方を見ると、そこにいたのは美咲の父だった。
「裕太……!」
「久しぶり、母さん」
「……母と呼んでもらう資格はないわ。私はあなたを置いて行った」
「悲しくないと言えば嘘になるよ。でも悪いと思ってくれるなら帰って来て欲しい」
「あの人は私が近くにいるのは嫌でしょう……」
「そんな事ない! 心配してたよ!」
「口先だけなら何とでも言えるわ」
「そんな……」
息子の事は受け入れても夫を受け入れる気にはなれないようで、ふいっと逃げるように目を逸らした。
依存症だという事を思うと強く出る事もできず、息子はぐっと言葉を詰まらせていた。
しかしその時、漆原は胸ポケットから一枚の写真を取り出して差し出した。家族三人とA-RGRYの四人で映っている写真だ。
「これは……」
「大河さんはこれを捨てようとしたことを酷くお怒りになられたそうです」
「……これを、ですか……」
「ええ。それからこれ」
漆原はもう一つ何かを取り出した。
四つ折りにされていたそれを広げると、それは一枚の書類だった。
「戸籍謄本です。離婚届を置いて出たとおっしゃいましたね」
「……ええ」
「それは提出されていません。あなたはまだ久世裕子です」
漆原が美咲に取って来させたのはこの戸籍謄本だった。
そこには裕子の名前も記載されたままで、離縁したとはどこにも書いていなかった。
暴力を振るうほど捨てられたくなかった物は全て出ていった祖母の荷物というのを聞いて、漆原は違和感を感じたそうだ。
「疎ましく思うならとっくに離縁して荷物も捨てたと思いますよ。少なくとも俺はそうします」
「でも……」
やはり祖母は頷かなかった。
あの祖父を信じろというのは土台無理な話だし、長年の維持もあるだろう。
美咲は祖母の手を握ろうとしたが、その手を漆原が止めた。漆原を見上げると、真剣な眼差しで祖母を見ている。
「何故『久世』の姓で活動をなさったんです?」
ぴくりと祖母の手が揺れた。
再会した時に、都合上久世にしていると言っていた。
「ご自身はもう久世ではないと思っておられたんですよね。なら藤堂に戻すのが普通だ。ましてや過去のことを思えば久世姓を名乗るのは嫌でしょう」
離婚が成立しているのなら名乗って良い姓ではない。
偽名を使うのなら全く知られない名前にする方が自然だ。
けれどそれでも久世を名乗った。
「見つけて欲しかったんじゃないんですか」
祖母は何も言わなかった。肯定も否定も、何も言わずに震えていた。
今度こそ手を握らなくてはと美咲は手を伸ばしたが、それよりも先に祖母の手を握った者がいた。
「母さん。見つけるのが遅くなってすまなかった」
「裕太……」
「戻って来てくれ。妻を紹介したいんだ」
母はうう、と涙を流して息子の手を取った。
嫌味なほどに広く、いかにも高級なインテリア揃いの部屋に全員がきょろきょろと部屋を眺めまわす。
「裕子は」
「客間にいらっしゃいます。お連れするのでこちらでお待ち下さい。久世、来い」
「はいっ!」
美咲は漆原に付いて客間へ向かった。そこには隠れるように身を縮めてひっそりとソファに座る美咲の祖母がいた。
「お約束通り大河さんをお連れしました」
「……どんな魔法をお使いになったのかしら」
「お会いになりますか?」
「それは、どう、でしょう……」
「無理にとは言いません。所詮俺は他人です。けど、どうしても戻って来て欲しいという方もいらっしゃっていますよ」
その時、キイ、とドアを開ける音がした。
二人は音のした方を見ると、そこにいたのは美咲の父だった。
「裕太……!」
「久しぶり、母さん」
「……母と呼んでもらう資格はないわ。私はあなたを置いて行った」
「悲しくないと言えば嘘になるよ。でも悪いと思ってくれるなら帰って来て欲しい」
「あの人は私が近くにいるのは嫌でしょう……」
「そんな事ない! 心配してたよ!」
「口先だけなら何とでも言えるわ」
「そんな……」
息子の事は受け入れても夫を受け入れる気にはなれないようで、ふいっと逃げるように目を逸らした。
依存症だという事を思うと強く出る事もできず、息子はぐっと言葉を詰まらせていた。
しかしその時、漆原は胸ポケットから一枚の写真を取り出して差し出した。家族三人とA-RGRYの四人で映っている写真だ。
「これは……」
「大河さんはこれを捨てようとしたことを酷くお怒りになられたそうです」
「……これを、ですか……」
「ええ。それからこれ」
漆原はもう一つ何かを取り出した。
四つ折りにされていたそれを広げると、それは一枚の書類だった。
「戸籍謄本です。離婚届を置いて出たとおっしゃいましたね」
「……ええ」
「それは提出されていません。あなたはまだ久世裕子です」
漆原が美咲に取って来させたのはこの戸籍謄本だった。
そこには裕子の名前も記載されたままで、離縁したとはどこにも書いていなかった。
暴力を振るうほど捨てられたくなかった物は全て出ていった祖母の荷物というのを聞いて、漆原は違和感を感じたそうだ。
「疎ましく思うならとっくに離縁して荷物も捨てたと思いますよ。少なくとも俺はそうします」
「でも……」
やはり祖母は頷かなかった。
あの祖父を信じろというのは土台無理な話だし、長年の維持もあるだろう。
美咲は祖母の手を握ろうとしたが、その手を漆原が止めた。漆原を見上げると、真剣な眼差しで祖母を見ている。
「何故『久世』の姓で活動をなさったんです?」
ぴくりと祖母の手が揺れた。
再会した時に、都合上久世にしていると言っていた。
「ご自身はもう久世ではないと思っておられたんですよね。なら藤堂に戻すのが普通だ。ましてや過去のことを思えば久世姓を名乗るのは嫌でしょう」
離婚が成立しているのなら名乗って良い姓ではない。
偽名を使うのなら全く知られない名前にする方が自然だ。
けれどそれでも久世を名乗った。
「見つけて欲しかったんじゃないんですか」
祖母は何も言わなかった。肯定も否定も、何も言わずに震えていた。
今度こそ手を握らなくてはと美咲は手を伸ばしたが、それよりも先に祖母の手を握った者がいた。
「母さん。見つけるのが遅くなってすまなかった」
「裕太……」
「戻って来てくれ。妻を紹介したいんだ」
母はうう、と涙を流して息子の手を取った。
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