【キャラ文芸大賞 奨励賞】壊れたアンドロイドの独り言

蒼衣ユイ/広瀬由衣

文字の大きさ
上 下
39 / 45

episode23-3

しおりを挟む
 婚約したばかりの子供の頃から、殿下は私を気に入ってはいないようでした。
 それでも私は、将来夫となり共に領地を支えていく方だからこそ、少しでも歩み寄りたい。

 両親の様に誰が見ても仲良しな夫婦にはなれなくても、殿下が家族としての情が持ってくださるなら良いと考えて、少しでも殿下の好みになれるよう、親しみを持って貰えるよう努力してきました。

 殿下に嫌われていても、私は恋していたからです。

 殿下と初めての会ったのは、お茶会の席でした。
 今思えばあれは私たちと殿下の顔合わせの為に設けられた場だったのでしょう。

 私はその日、恋に落ちました。

 一緒に茶会の席にいらっしゃった王妃様そっくりの美しいお顔、にこやかに話しかけて下さり手を繋いで王家のお庭を案内して下さった。
 それだけで幼い私は、殿下に恋してしまいました。

 ですからお父様に婚約の話を聞いた時は本当に嬉しくて、あんなに素敵な人と婚約出来る喜びに天にも昇る気持ちでした。
 婚約は王家から持ちかけられたものと聞かされて、殿下も私を好きになって下さったのだと思っていました。
 ですがそれは私の勘違いだと、婚約締結の日に気付かされました。

 両陛下の間に座り、私を出迎えた殿下の目はとても冷たく。
 初めて会った日に私に向けていた笑顔は、どこにもありませんでした。
 殿下は婚約に納得されていなかったのです。

 それはとても悲しい現実でした。
 手を繋いで優しく私に声を掛けながらお庭を案内してくださった殿下は、そこにはいなかったのです。

 ご機嫌が悪かったのよ。
 殿下はあなたを気に入っていらっしゃると、王妃様が仰っていたもの。

 大丈夫だ、少し照れていらっしゃるだけだよ。あの年頃の男の子にはよくあることだ。

 両親に励まされ私は気を取り直し、殿下に接することにしました。
 ですが私がいくら努力しても、殿下の態度が変わることはありませんでした。

 学園に通いだしてからは、その態度は悪くなる一方で、自分の立場を理解していないその様子に馬鹿な人だと呆れました。

 この婚約は王家から私の家ゾルティーア侯爵家からの希望ではなく、第三王子の行く末を心配した王妃様の要求によるものでした。

 この国では公爵家を新たに興せるのは第二王子まで、それ以降は王妃様の実家の爵位以上の爵位では新しく家を興すことは出来ません。

 年の離れた末っ子の第三王子を溺愛していた王妃様は、ご自分の実家の爵位が伯爵位であり、第三王子も伯爵位しか持てない事を嘆き、我が侯爵家に目をつけたのです。

 ゾルティーア侯爵家は昔から大きな領地を治めておりとても裕福でしたが、三代前の陛下の弟である第五王子が当家に婿入りの際婚姻の祝いとして陛下から下賜された地の中に、大きな鉱山と大きな農村地帯があった為更に裕福になりました。

 お父様の代になってもその裕福さは変わらぬどころか増すばかり。
 領地収入が莫大だというのに代々質素倹約を尊ぶ家柄、領民達との関係も良好で、子供は私だけという好条件でしたから、王妃様が溺愛する息子の婿入り先に望むのも当然でした。
 王家から籍を抜いても裕福な暮らしが約束され、当主となるのは妻である私。
 この国では、婿入りしてもその家の当主にはなれませんし、領主として仕事をする権限もありません。
 顔は良いものの、勉強嫌いで怠け者な片鱗が婚約当時にはすでにあった王子には、もってこいの良縁だと王妃様は考えていたのです。

「怠け者でも、せめて私をほんの少しでも好きになってくだされば良かったのに」

 好きという気持ちはとっくに薄れても、少しでも関係を改善出来ればと努力し続けました。
 そんな私を嘲笑うかの様に、殿下は頑なな態度を取り続けました。

 殿下が毎日仕事を大量に私に押し付けて自分達は遊んでいるのを見ながら、私の気持ちはどんどん冷えていきました。
 好きという気持ちは薄れ、殿下との仲が改善するという期待も砕け散り、婚約解消は望めないのだからという諦めだけの日々。
 殿下とある令嬢の噂を聞いたのはそんな時でした、この期に及んで浮気かと頭痛がしましたが、すでに気持ちは冷めきっていましたし、結婚前の一時的な遊びならと見て見ぬふりしようと思いました。

「それがこんな結果になるとは、私の考えが甘かったのね」

 期待なんかしていなかったし、諦めていたのに、なのにどうしてこんなに悲しいのでしょう。
 私は体中の水分がすべて涙で流れ出てしまった様な気持ちで、涙を流し続けました。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

I my me mine

如月芳美
恋愛
俺はweb小説サイトの所謂「読み専」。 お気に入りの作家さんの連載を追いかけては、ボソッと一言感想を入れる。 ある日、駅で知らない女性とぶつかった。 まさかそれが、俺の追いかけてた作家さんだったなんて! 振り回し系女と振り回され系男の出会いによってその関係性に変化が出てくる。 「ねえ、小説書こう!」と彼女は言った。 本当に振り回しているのは誰だ?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

カフェぱんどらの逝けない面々

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
キャラ文芸
 奄美の霊媒師であるユタの血筋の小春。霊が見え、話も出来たりするのだが、周囲には胡散臭いと思われるのが嫌で言っていない。ごく普通に生きて行きたいし、母と結託して親族には素質がないアピールで一般企業への就職が叶うことになった。  大学の卒業を間近に控え、就職のため田舎から東京に越し、念願の都会での一人暮らしを始めた小春だが、昨今の不況で就職予定の会社があっさり倒産してしまう。大学時代のバイトの貯金で数カ月は食いつなげるものの、早急に別の就職先を探さなければ詰む。だが、不況は根深いのか別の理由なのか、新卒でも簡単には見つからない。  就活中のある日、コーヒーの香りに誘われて入ったカフェ。おっそろしく美形なオネエ言葉を話すオーナーがいる店の隅に、地縛霊がたむろしているのが見えた。目の保養と、疲れた体に美味しいコーヒーが飲めてリラックスさせて貰ったお礼に、ちょっとした親切心で「悪意はないので大丈夫だと思うが、店の中に霊が複数いるので一応除霊してもらった方がいいですよ」と帰り際に告げたら何故か捕獲され、バイトとして働いて欲しいと懇願される。正社員の仕事が決まるまで、と念押しして働くことになるのだが……。  ジバティーと呼んでくれと言う思ったより明るい地縛霊たちと、彼らが度々店に連れ込む他の霊が巻き起こす騒動に、虎雄と小春もいつしか巻き込まれる羽目になる。ほんのりラブコメ、たまにシリアス。

処理中です...