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episode23-3

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「A-RGRYの視覚動画、どうやって手に入れたと思います?」
「サルベージしたとお前自分で言っただろうが」
「サルベージできたのは十年分ですよ。何しろアンドロイドが内臓機器で保有できるデータは十年分がいいとこなんです。それ以前の分は自動消去されるから五十年前のデータなんてあるはずがないんです」
「というか、どうやってサルベージしたんですか? 本体もうお祖母ちゃんとこなのに」

 サルベージというのは本体から取り出すという事だ。
 手元に無ければできないが、美咲がA-RGRYを返したのはまだ藤堂小夜子氏だと思っていた時だ。サルベージなど、あの時点では必要が無かったはずだ。
 漆原はよく気付いたな、と笑った。

「あれは送られて来たんだよ。AR-139-3-6293-0本体から」
「え? それって……」

 AR-139-3-6293-0。それは暗号でも何でもない。美咲が拾った壊れたアンドロイドの型番だ。

「あの子が自分の意志で送ってきたんですか!?」
「そういう事になる」
「無理ですよ! だって所有者の許可なくアンドロイドが勝手になんて、そんな事できないはずです!」
「でも届いた。あるはずの無いデータがここに存在するんだ」

 システムは絶対だ。
 プログラムは良くも悪くも絶対に裏切らない。裏切れないのだ。
 自動消去されるプログラムなら、例え人間だったとしても念じて残せるものでは無い。物理的に実行される。
 けれどそれを上回る何かが壊れたアンドロイドにはあったのだ。

「あの子、お祖母ちゃんを見つけてほしかったんだ……」

 美咲の心臓はプログラムを超えたアンドロイドの行動にどくどくと大きく音を立てた。
 けれど、漆原はなおも冷静に祖父に語り掛けた。

「美咲さんが裕子さんに会った事を聞いて取り乱したそうですね」

 ぴくりと祖父の口元が歪んだ。

「あれは裕子さんの居場所を知りたかったのではなく、見つけられた事に焦ったんじゃないんですか? 実家なんて分かりやすい場所、真っ先に探しに行くでしょう。あなたは知ってたはずだ。あそこに裕子さんがいる事を」
「追い出したうえに隠そうとしたわけ!? そんなに自分のメンツが大事!?」

 待て、と美咲の激情を収めたのは父だった。ぐいっと美咲の手を引き落ち着け、と背を撫でる。

「お祖母ちゃんは追い出されたんじゃない。自分から出て行ったんだ」
「え?」
「この人は追い出すつもりも見捨てるつもりもなかったんだよ。でも無理に連れ戻す事もしたくはない。だから自由に暮らせる環境を整え知らないフリをしているのでは?」

 言われて祖母が『離婚届けと一緒に全て置いて来ました』と言っていたのを思い出した。それは追い出されたというよりも自ら決別を決めた行動だ。
 漆原はノートパソコンを指先でコンッと叩いた。

「十年以上前のデータは存在しない。だがラバーズであるA-RGRYはそれを残し孫へ届けた」

 漆原は背に隠していた美咲の肩を抱き前に引っ張り出した。

「壊れたアンドロイドが久世と裕子さんを繋いだ。次は貴方が動く番だ!」
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