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episode14-1
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「じゃあ次のお話ね。パーソナルの最新って何だか知ってる?」
「最新ですか? ラバーズとファミリア以降は大きなリリースは無いですよね。プライベートはまだですし……」
「あ、そうそう。それ。プライベートパーソナルだよ」
プライベートパーソナルとは、プラットフォーム型パーソナルの事だ。
恋愛前提のラバーズや家族前提のファミリアといった『特定の目的を持つプログラム』ではなく、パーソナルの土台となるプログラムだけをボディにインストールして、その先の成長は購入者との生活で変化していくという育成型プログラムだ。
「まさか販売できるとこまで開発進んでるんですか!?」
「うん。実はとっくに完成してるんだよ。販売してないだけ」
「ああ、結構問題あるって噂は聞きました」
プライベートには二つの課題があった。
一つは、成長結果によりアタッチメントを変える必要があるので、多種多様なパーツを用意しておく必要がある事だ。
例えば力仕事をやらせようと思ったら耐荷重の高い手足が必要になるが、タレントにしようと思ったら細い手足が必要になる。たとえ性格が理想通りに育ってもそれを叶えるボディが無ければ意味が無いが、何が必要になるか分からないから開発販売しようがない。
もう一つの方が特に問題で、どんな成長をするかが分からないから事故や犯罪が想定ができず先手を打てないという点だ。
アンドロイド依存症の前例があるので、新たなパーソナルをリリースするなら確実に問題が発生しないという確証が必要になる。
「問題はクリアしてるんだよ。エモーショナルリミッターで感情の起伏制限したりして。販売自体は可能なんだ」
「え!? じゃあ何で販売しないんですか!?」
「コストに見合わないからだよ。ラバーズとファミリアはインストールすればいいのに、プライベートはパーソナル監視用AIとカスタム用アタッチメントも豊富に必要って、どう考えてもラバーズとファミリアいっぱい売った方が楽だよね」
「そんな、アンドロイドが可哀そうです。もっと成長できるのに」
「そう思うのはアンドロイドを好きな現場社員だけ。会社は利益が無ければやっていけないんだ。美咲ちゃんは可哀そうな人に毎日十万円あげられる?」
蒼汰は再びノートパソコンを開くと、そこにはまだ売上や利益が表示されていた。
よく見るとアンドロイド事業を一部縮小し医療用補装具開発事業を拡大、と書いてある。おそらくこの先切り捨てられる事業があるのだろう。できる事でも利益にならないのなら切り捨てるしかない。
「ボディ開発は開発コストもかかるし、資材が場所を取るから販管費もかかる。常に赤字なんだ。となると利益の低いハイスペックボディは諦めざるを得ない。これはアンドロイドを好きであればあるほど苦しいだろうね」
理解すればするほど言い返す言葉が見つからなくなり、美咲はただ俯くしかなかった。
「でもね、マイナスばっかりじゃないよ。久世さんはアンドロイド医療って知ってる?」
「アンドロイドのパーツを補装具がわりにして体内に埋め込むってやつですよね。危険だからって結構前に中止された」
「そう。実はね、僕はその治験者なんだ」
「え!?」
アンドロイド医療は美作の転機であり、権威を喪失させた事業だ。
一般に公開される前にプロジェクトが凍結されたため世間には知られていないが、アンドロイドを学ぶものなら『禁忌』として知識を得ている。
治験者を多数死亡させた大きな事件があり、これを終結させたのが鷹司総一郎だ。だから美作のトップに君臨する事になった――と語られている。
「……えっと、治験者は亡くなったって噂では……」
「うん。生き残ったのは僕だけ。右目がそうなんだけど、分からないでしょ?」
蒼汰はにっこりと微笑んで右のこめかみをトントン、と突いた。
美咲の目には妙なところもその形跡も、傷すら無いように見える。
(え、な、何このハードなカミングアウト……)
一体どういう返答をしたら良いか迷っていると、蒼汰はくすっと笑った。
「最新ですか? ラバーズとファミリア以降は大きなリリースは無いですよね。プライベートはまだですし……」
「あ、そうそう。それ。プライベートパーソナルだよ」
プライベートパーソナルとは、プラットフォーム型パーソナルの事だ。
恋愛前提のラバーズや家族前提のファミリアといった『特定の目的を持つプログラム』ではなく、パーソナルの土台となるプログラムだけをボディにインストールして、その先の成長は購入者との生活で変化していくという育成型プログラムだ。
「まさか販売できるとこまで開発進んでるんですか!?」
「うん。実はとっくに完成してるんだよ。販売してないだけ」
「ああ、結構問題あるって噂は聞きました」
プライベートには二つの課題があった。
一つは、成長結果によりアタッチメントを変える必要があるので、多種多様なパーツを用意しておく必要がある事だ。
例えば力仕事をやらせようと思ったら耐荷重の高い手足が必要になるが、タレントにしようと思ったら細い手足が必要になる。たとえ性格が理想通りに育ってもそれを叶えるボディが無ければ意味が無いが、何が必要になるか分からないから開発販売しようがない。
もう一つの方が特に問題で、どんな成長をするかが分からないから事故や犯罪が想定ができず先手を打てないという点だ。
アンドロイド依存症の前例があるので、新たなパーソナルをリリースするなら確実に問題が発生しないという確証が必要になる。
「問題はクリアしてるんだよ。エモーショナルリミッターで感情の起伏制限したりして。販売自体は可能なんだ」
「え!? じゃあ何で販売しないんですか!?」
「コストに見合わないからだよ。ラバーズとファミリアはインストールすればいいのに、プライベートはパーソナル監視用AIとカスタム用アタッチメントも豊富に必要って、どう考えてもラバーズとファミリアいっぱい売った方が楽だよね」
「そんな、アンドロイドが可哀そうです。もっと成長できるのに」
「そう思うのはアンドロイドを好きな現場社員だけ。会社は利益が無ければやっていけないんだ。美咲ちゃんは可哀そうな人に毎日十万円あげられる?」
蒼汰は再びノートパソコンを開くと、そこにはまだ売上や利益が表示されていた。
よく見るとアンドロイド事業を一部縮小し医療用補装具開発事業を拡大、と書いてある。おそらくこの先切り捨てられる事業があるのだろう。できる事でも利益にならないのなら切り捨てるしかない。
「ボディ開発は開発コストもかかるし、資材が場所を取るから販管費もかかる。常に赤字なんだ。となると利益の低いハイスペックボディは諦めざるを得ない。これはアンドロイドを好きであればあるほど苦しいだろうね」
理解すればするほど言い返す言葉が見つからなくなり、美咲はただ俯くしかなかった。
「でもね、マイナスばっかりじゃないよ。久世さんはアンドロイド医療って知ってる?」
「アンドロイドのパーツを補装具がわりにして体内に埋め込むってやつですよね。危険だからって結構前に中止された」
「そう。実はね、僕はその治験者なんだ」
「え!?」
アンドロイド医療は美作の転機であり、権威を喪失させた事業だ。
一般に公開される前にプロジェクトが凍結されたため世間には知られていないが、アンドロイドを学ぶものなら『禁忌』として知識を得ている。
治験者を多数死亡させた大きな事件があり、これを終結させたのが鷹司総一郎だ。だから美作のトップに君臨する事になった――と語られている。
「……えっと、治験者は亡くなったって噂では……」
「うん。生き残ったのは僕だけ。右目がそうなんだけど、分からないでしょ?」
蒼汰はにっこりと微笑んで右のこめかみをトントン、と突いた。
美咲の目には妙なところもその形跡も、傷すら無いように見える。
(え、な、何このハードなカミングアウト……)
一体どういう返答をしたら良いか迷っていると、蒼汰はくすっと笑った。
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