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第二章 宮藤喜左衛門
第025話 武兵衛の願い
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その夜、喜左衛門は考え事がしたいと言って、独り坐禅堂にいた。
坐禅を組むわけではなく、蝋燭の光が揺れる中、腕枕で寝そべって虚空を見つめていた。
そこへ久安から、客が訪れたとの報せがあった。
さして疑問にも思わず、案内されるがままに中書院へと向かうと、そこには武兵衛がひとり座している。
喜左衛門を見るなり、
「や、これは喜左衛門様、お休みのところを申し訳ございません」
と、随分機嫌がいい。
「武兵衛どのどうなされました?こんな夜分に…」
「ひとつお話があって参りました」
「話が…?ハテなんでしょう」
畏まって座る武兵衛の様子は、どことなく落ち着かない。
さっきから咳払いなどをして、なかなか話を切り出さずにいる。
喜左衛門が不思議に思っていると、
「喜左衛門様、わしは決めましたぞ」
真っ直ぐな眼をして言った。
「決めた?何をでございますか…?」
「明日にでも松代へ使いをやって、喜内様に許しを請おうかと存じます」
「父に?何の許しでございますか?」
「それは───」
武兵衛は深く息を吸って呼吸を整えてから、
「喜左衛門様に、当家の婿に入ってもらいたいのです」
頭を下げながら言った。
「御当家の婿?それはつまり…」
「御迷惑でございますか?」
座敷には、暫しの沈黙が流れた。
真剣の立ち合いでは動じなかった喜左衛門の眼が、この時ばかりは左右に落ち着かなく揺れていた。
「め、迷惑なわけがありましょうか…。しかしそれがしの一存では決めかねますので、やはり明日父に伺いを立てて頂くのがよろしいでしょう」
坐禅を組むわけではなく、蝋燭の光が揺れる中、腕枕で寝そべって虚空を見つめていた。
そこへ久安から、客が訪れたとの報せがあった。
さして疑問にも思わず、案内されるがままに中書院へと向かうと、そこには武兵衛がひとり座している。
喜左衛門を見るなり、
「や、これは喜左衛門様、お休みのところを申し訳ございません」
と、随分機嫌がいい。
「武兵衛どのどうなされました?こんな夜分に…」
「ひとつお話があって参りました」
「話が…?ハテなんでしょう」
畏まって座る武兵衛の様子は、どことなく落ち着かない。
さっきから咳払いなどをして、なかなか話を切り出さずにいる。
喜左衛門が不思議に思っていると、
「喜左衛門様、わしは決めましたぞ」
真っ直ぐな眼をして言った。
「決めた?何をでございますか…?」
「明日にでも松代へ使いをやって、喜内様に許しを請おうかと存じます」
「父に?何の許しでございますか?」
「それは───」
武兵衛は深く息を吸って呼吸を整えてから、
「喜左衛門様に、当家の婿に入ってもらいたいのです」
頭を下げながら言った。
「御当家の婿?それはつまり…」
「御迷惑でございますか?」
座敷には、暫しの沈黙が流れた。
真剣の立ち合いでは動じなかった喜左衛門の眼が、この時ばかりは左右に落ち着かなく揺れていた。
「め、迷惑なわけがありましょうか…。しかしそれがしの一存では決めかねますので、やはり明日父に伺いを立てて頂くのがよろしいでしょう」
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