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第三部 最終話

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 ギュルダン氏の妻たちは帰宅していて、一行を温かく迎えてくれた。

 夕餉の席に共につき、今日見た芝居の内容を語ってくれる。

 贔屓にしている劇作家がおり、今日は新作の公演だったようだ。母と二人、興奮していかに素晴らしかったかを熱心にギュルダン氏に語った。

 ギュルダン氏はあまり口を挟まなかった。話し好きなギュルダン氏は聞き上手でもあったようだ。

 夕餉を終えると、一同は談話室に移った。

 妻と母の二人は疲れたのでと部屋に引き上げ、残った五人はワインやエールをちびりちびりやりながら、話に花を咲かせた。

 オルガン奏者だったギュルダン氏と師匠の出会いや、音楽家を目指して切磋琢磨していた若い頃の話、ギュルダン氏が音楽家を辞め養子に入る道を選んだことや、その後の互いの人生を報告しあっていた。

 積もる話は日を越え、マウロは途中で部屋に引き上げた。

 ディーノも疲れてはいたが、師匠の若い頃の話に興味を惹かれ、最後まで付き合った。

 明け方、全員が部屋に引き上げようやく就寝となった。

 昼ごろまで寝ていたディーノはお腹が空いて目が覚めた。師匠とピエールはまだ眠っていたが、マウロは寝台にいなかった。屋敷内にいるのか、それともどこかに出かけたのだろうか。

 着替えて部屋から出ると、使用人の女性が廊下で待機してくれていた。用事があれば云い付けてくれと、ギュルダン氏が付けてくれた女性だった。

「おはようございます。御用はございますか?」

「あ、おはようございます。あの、お腹が空いたので、外に食べに行こうかと」

「お食事でしたら整っております。お部屋で召し上がられますか? それとも食堂へご案内致しましょうか」

 ディーノは迷わず「部屋でお願いします」と答えた。

 たった一人広い食堂で食べるなんて、緊張して味なんてわからなくなりそうだった。

「かしこまりました。ではお部屋でお待ちくださいませ」

 ディーノがシーツを整え終え、窓から外を眺めていると、扉が叩かれた。

「失礼致します」

 女性の入室とともに、食欲を刺激するいい香りが漂う。

 ゆで卵の入ったミートローフ、真っ白なブロッコロー、黄色が鮮やかなスクランブルエッグ、真っ赤なトマト、芋の入った優しそうなスープは鍋ごと運ばれてきて、湯気をあげながら皿によそわれる。

 香りに誘われ、師匠とピエールも起きてきた。三人揃って朝餉のようなメニューの昼餉をいただいた。

 食事を終えると、昨日休んだぶん今日はみっちりとリュートの練習をした。
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