【完結】とあるリュート弾きの少年の物語

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)

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第三部 最終話

11 朝日とステンドグラス

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 夕餉のお呼びがかかるまで練習を続け、疲れた頭で少しぼんやりしながら食べ物を口へ運んでいると、ギュルダン氏から明日礼拝のときに楽団が演奏をすることを聞かされた。それを聞いて頭が覚醒する。ようやく旅の目的である市井の楽団の演奏が聴けるのだから、楽しみだった。

 使用人が起こしにきてくれるそうで、寝坊の心配をせずにぐっすりと眠った。

 楽しみにしていたからか、起こされるよりも早く目が覚めたディーノは、さっさと身支度をすませ、いつでも出られる準備をして待っていた。空は白み始めてはいるけれど、朝日はまだ昇っていない。

 ほどなく扉がノックされ、四人で教会に向かった。

 この街の教会はパルディアのものと比べると、外観も内装も素朴だった。

 柱に彫刻は施されていないし、天井の梁は木が剥きだし。像もない。

 一番後ろの席に座っていつ礼拝が始まるのかと待っていると、目の前にこの世のものとは思えないほどの、美しい光景が広がっていった。

 祭壇の後ろと左の壁のステンドグラスに朝日が当たって色が内部に反射し、とても綺麗な模様を浮かび上がらせる。

 ゆっくりと動く光に合わせて、模様も形を変えていく。

 幻想的な光景に魅入ってしまい、声も出ない。

 朝日が昇りきったのか、ほどなくその光景は終わりを迎えた。

「見事だろう」

 背後からギュルダン氏の声がかかった。

「朝早くに来ないと見られない光景なんだよ。わたしはこの光景を気に入って、ここで暮らすことを決めた。ということを云うと妻に怒られそうだから秘密にしてくれ。もちろん妻を愛しているけれどね」

 ギュルダン氏の言葉に、ややぼんやりしていた一同は笑い、現実に戻った。

「本当に素晴らしい光景だった。これだけでも旅行客を呼び込めるんじゃないか」

「ロドヴィーゴ。わたしもね、それは思ったんだよ。だけど旅行者を呼び込むつもりはないんだ。ここの住人だけの秘密の場所にしておきたいっていうかさ。それに宿屋もないしね」

「旅行者を呼ぶために楽団を作ったんじゃないのか?」

「楽団は完全な趣味さ」

「でたな、金持ち発言」

 ギュルダン氏はにっと笑った。

「さて礼拝まではまだ時間がある。一度戻って食事にしよう」

「今朝の早起きは、礼拝のためじゃなかったんだな」

「ああ。諸君にこの光景をぜひとも見て欲しかったんだ」

「たまには早起きをしてみるものだな。心が洗われたよ」

「ええ。先生の仰るとおり。本当に素晴らしかったです」

 ピエールの隣でディーノもこくこくと頷いた。現実には戻ったが、なんだかまだ夢を見ているような気持ちだった。
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