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四章 前を向いて

⒌由依との関係

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 中学生にもなって、バカですよね。ホルスタインって。
 妊娠してないんだから、母乳は出ないのに。色が白い、胸が大きいってだけで。
 酷くないですか? ただ大きいって言われるだけならまだしも、牛に喩えるなんて。

 思ってもみなかったことを言われて、びっくりして。
 失礼だと怒ることも、ショックを受けて泣く事もできなくて。パニックになりました。
 頭の中ホルスタインでいっぱいになっちゃって。

 目の前の雑誌には、女の子4人が水着でポーズを取っていて、私が一番胸が大きくて、垂れているように見えて。
 なんてことしちゃったんだろうって。雑誌に載ったら、隠すこともできないじゃないって。

 とにかく目の前の雑誌だけでも、人の目に入らない所にと思って隠そうとしたら、さっと取り上げられて、クラス中で回し読みされました。
 女子からは悲鳴が、男子からは興奮するような声を上げられて。
 でも返してなんて言えなくて。だって私の雑誌じゃないですもん。
 下を向いて、早く終わることを祈ってました。

 騒ぎを聞きつつけた先生が雑誌を取り上げて、持ち主は黙ってましたけどすぐにバレて、放課後の職員室に呼び出されていました。
 これで誰も学校に雑誌を持ってこないだろうって思っていたら、後日、私と母も呼び出されました。

 中学生でありながらこのような仕事は、常識に欠けると言われました。
 副校長先生は女性です。風紀にとても厳しい先生だったので、母とやりあって。
 退学にはなりませんでしたけど、母と先生の仲は最悪でした。

 その時の担任は男性でしたが副校長先生側だったので、私がクラスでいじめられても全然味方になってくれませんでした。私が悪いんだから、元を断てばからかわれなくなる、元に戻ると言われました。

 元に戻るって。私ずっと一人だったんですよ。
 友達はいないし、話しかけてくれる人もいない。
 仕事を始めてからの方が話しかけられてますよって先生に言いたかったけど、言いませんでした。
 きっとこの人は私が一人でいることに気づいていなかったんだろうなって。

 仕事を辞めても現状は変わらない。だったらもう少し続けてみようと思いました。
 先生の言いなりになるのは嫌だったし、事務所との契約もありましたから。

 この時期に引っ越したのは、家に来る担任が嫌だったからです。
 母が引っ越しちゃおうって。
 別の学区に行けば転校もできるって提案されたけど、どこに行っても同じだろうし、新しい環境でまた話題にされるより、もうバレちゃってるところの方が楽かなと思いました。

 不登校になった理由ですか?
 授業中に当てられたんですけど、名前じゃなくて「おーいグラドル」って呼ばれたんです。

 教師がそういう差別をするんだって。すごく残念で、嫌な気持ちになりました。
 返事をしなかったら機嫌を損ねたらしくて、なんかネチネチ言ってましたけど、私聞いてなかったです。

 それまで休んだら負けたことになるって気を張っていたんですけど、その先生のせいでぷつんって切れちゃって。

 学校なんてもういいやって。義務教育だから休んでいても卒業はできるし。
 お仕事だけ行って。動画で勉強して、自宅学習でいいやって思ってたんですけど。
 3年生でクラス替えになって、担任が替わるかもって。
 なら行ってみようかなって。変わらなかったらまた休めばいいだけだしと思って。

 山口先生は親身になってくれました。
 話を聞いてくれるし、私主体で考えて行動してくれる先生だと思いました。

 由依ちゃんと出会ったのは、この頃です。
 由依ちゃんは私のすぐ後ろの席でした。
 いつもニコニコと笑っていて、子供っぽいなという印象でした。

 背が低いので黒板が見えにくいみたいで、ときどき立ち上がったり歩いたりして、先生から注意を受けていました。
 見えないなら、前の席に代えてもらったらいいのにって思ってたら、ある日ノートを見せて欲しいって言われて。
 それが初めての会話です。

 理科の先生の字が小さくて、他の後ろの方の席の子も見えないって言ってました。
 それ以来、理科の授業以外もノートを見せてあげるようになりました。
 由依ちゃんも話す友達がいなくて、移動は一人、お昼も一人、一人ぼっち同士でしたから、たまに話していました。

 3年になって2週間ぐらいして、また教室に雑誌を持ってきた男子がいました。
 制服だと胸が大きくみえない。詐欺だとか写真を修正して盛ってるだろうって言いがかりをつけてきたんです。

 私、大きいことを気にしていたので、小さく見せるブラをつけているんです。
 そういう下着があることを知らないから、偽物だと言ってきたんです。
 教室中が私の事を知っていたみたいで、新学年になっても話題にならなかったのに、わざわざその男子は掘り返してきて。
 それまで空気として扱われていたのに、敵視されてまたいじめられるって身構えてたら、後ろから「可愛い、きれい」って無邪気な声が聞こえてきて。

 由依ちゃんでした。
 雑誌を覗き込んで、教室中に聞こえる大きな声で褒めてくれたんです。

 クラスメイトはざわついてました。きれいなの? エロじゃないの? ってひそひそ言ってるのが聞こえて。
 由依ちゃんはさらに言ってくれたんです。
「すごくすてき。肌が白い。きれいな体だよ」って。

 私、感極まって、泣いてしまいました。
 同い年の同性から褒められたのは初めてで、とても嬉しくて。
 自分を認めてくれる人が、味方がいることがこんなに嬉しいんだって、初めて知りました。
 少し自分に自信を持つことができたんです。

 それからは由依ちゃんと一緒にいるようになりました。登校もお昼も移動の時も下校も、ときには放課後も。
 いっぱい話をしたし、話をしなくても隣にいてくれるだけで安心する存在でした。
 今まで友達ができなかったのは、由依ちゃんと出会うためだったんだって本気で思いました。
 もっと早く出会えてたらお互い一人ぼっちでいることもなかったけど、それがあったからこそ、二人の時間がより大切なものだって気づかせてくれたんだって、ポジティブに捉えることができたんです。

 由依ちゃんのお陰です。
 由依ちゃんはとても純粋に物事を見ているんです。
 負の感情なんて持ち合わせていないんです。
 悪意をぶつけられても笑顔でいられる子なんです。
 頭おかしいとかいう子もいるけど、喧嘩をするよりいいじゃないですか。

 友達がいなくて寂しくなかったか、ですか。
 まあ、寂しくない事はなかったです。
 でも、焦って合わない人と仲の良いふりをするくらいなら、一人を選びます。

 強い、ですか。人が群れるのは弱いからですか。違いますよね。

 自分では強いと思ったことはありません。
 通知表に協調性を持ちましょう、っていつも書かれていて、どうやればいいんだろうと悩んだこともあるんですよ。
 話を合わせるために思ってもいないことに同意してみたり、誘ってくれたから、一緒に公園で遊んだりしましたけど、気づいたら一人で遊んでるんですよね。

 外されてるんじゃなくて、外れちゃってるんです、私が勝手に。
 何度もそういう事があると、人と一緒にいる事は私には無理なんだってわかるじゃないですか。

 由依ちゃんとは気がついたら離れている、なんて事なかったです。
 二人で一つ。
 そんな風に感じていました。
 半人前同士でちょうど良かったんだと思います。

 大切に思える人を、どうして巻き込んだのか、ですよね。

 答えは、大切だからこそ、です。

 今考えると、自分本位で、自分勝手でした。
 それにも理由があるんです。許される事ではないですけど。
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