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(月彦の視点) ハロウィンコスプレ自宅会
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最近、嫌な夢を見る。
昔、年上の女性から変なことをされたこと――詳しくは言いたくないこと――それがなんで持ち上がってくるのか。
呼夢と恋仲になりたいと思っている、多分それが理由かも。
普通な関係でいたいのに、そこに気持ち悪さを感じる。怖くなる。怖がっていることを申し訳ないとも思ってしまう。
――呼夢は多分、あんなことしない。
分かっている。
なのに怖がってしまう自分がいる。
なのに今はまだと思ってしまう。
今のままでいいと思っているのに苦しくなる。
――そんな自分が、呼夢と?
……不釣り合いなんじゃないかと思ってしまう。
この気持ちが薄れた時、いつも思う。「ああ、一緒にいたい」と。
「将来の夢は?」
ある日の夜、呼夢が聞いてきた。リビングでふたりの時。くつろぐことにして、ソファ―に座って話す。
「僕は写真に関する仕事に。展覧会とかアトリエとか開いて、感動してもらえたら――っていうのもいいし、誰かに写真素材を提供するっていうのでもいいし。今度、賞にも出そうと思ってる」
「へ~」
「呼夢は?」
「私は、服作りの仕事かな、やっぱり。趣味は趣味だけど、好きだしね」
「……そっか」
ここで言おうかとも思った。
この元気な太陽に、いつもそばにいてほしい。好きだ。そう言うだけなのに、なかなか言葉にならない。
「ところでさ」
言われて。
「うん?」
「もうすぐハロウィンでしょ、コスプレ自宅会! しようよ」
満面の笑顔。この輝きに救われる。だから僕は。
「そうだね、しよう。僕も何か着たい」
「ふぉぉお!」
呼夢の部屋に入って、説明を受けた。
「これは『赤糸たどりの黒ゾンビ』に出てくるゾンビの衣装で……こっちは猫国魔軍以下略のゴニャンティアっていう幽化生命体っていう設定の――いわゆるファンタジーの幽霊の衣装。で、こっちは――」
既に場に合う衣装は沢山あるようだった。
結局、『猫国魔軍! スタイル抜群な隊長はいつも口下手』のアンニャス魔導兵の格好になった。黒ズボン、短い黒のノースリーブローブ、赤の長袖と靴下、外用ならそこに深紅の靴も、家の中だからないけど。それに、耳付きの赤黒い三角帽子。
それらは、細部までこだわり抜かれて作られたみたいで、まるでプロの商品群。
当日の夜。
衣装を受け取って自分の部屋に行き、着終わり、やっぱりいつも持っておきたいと思いカメラを手に、また呼夢の部屋に入ると。
「いいじゃん! じゃあこっち、座って? 顔もメイクするよ」
筆が当たる。くすぐったかった。
そこで言いたくなった。
「くすぐったくて思い出したんだけど、そういえば、方言」
「ん?」
「僕の方言では、こしょぐったいって言うんだ」
「へえ~、面白い」
「こういうのってどこが境目なんだろうね」
「どの辺から違う言い方になるかってこと?」
「うん。こしょばい、って言い方もあるしね。こそばゆい、とかも」
「へえ~。……どうなんだろうね、私は、くすぐったい、だなあ」
そんなこんなで顔も完成した。
鏡を見る。姿見で。「おおー」と声が、自然と出てきた。
振り返って笑い合った。
――僕は呼夢に釣り合うように、笑えてるかな。
そんなことも思いながら、呼夢の顔を見た。十分な笑顔を僕に向けてくれている、そんな気がした。
「じゃあ私も最後まで仕上げるね」
言われて、待つあいだカメラの背のデータ画面に集中した。見ながら、今度はどこを撮ろうかなと考えた。
「よしっ、いいよ。行こ」
準備ができたらしい。
顔を上げた僕は……なんだかいいなと思った。
「ちょっと待って」
この部屋を、撮っておきたいと思った。
ミシンや台、大きな机、衣装、姿見、棚、たんす、メイク道具、裁縫箱がある。学校用の物も。あらゆるものがあるこの部屋に、熱を感じた。
だから引いて角度を調節。そして指を動かした。シャッター音が鳴った。
「なんか恥ずかしいな」
呼夢が言った。
「そんなことないよ。プロの姿がそこにある気がしたから」
「そんな……」
照れている姿が、抱き締めたいくらいに可愛い。それを抑えてから僕は。
「ふう。ふふ、まあ今はアレでしょ、この格好で――」
「そうね」
その顔で、いざ、リビングへ。
おじさんとおばさんは、驚いた顔をして、それから笑ってくれた。嬉しくなる。
誰かが受け入れた笑顔を見せてくれると、心が熱で満たされる。
「トリックオアトリート!」
と僕らが言うと、おばさんはこう言った。
「晩御飯ね」
「はぁい」
と呼夢が言って、僕は「あははそうだよね」と笑った。
昔、年上の女性から変なことをされたこと――詳しくは言いたくないこと――それがなんで持ち上がってくるのか。
呼夢と恋仲になりたいと思っている、多分それが理由かも。
普通な関係でいたいのに、そこに気持ち悪さを感じる。怖くなる。怖がっていることを申し訳ないとも思ってしまう。
――呼夢は多分、あんなことしない。
分かっている。
なのに怖がってしまう自分がいる。
なのに今はまだと思ってしまう。
今のままでいいと思っているのに苦しくなる。
――そんな自分が、呼夢と?
……不釣り合いなんじゃないかと思ってしまう。
この気持ちが薄れた時、いつも思う。「ああ、一緒にいたい」と。
「将来の夢は?」
ある日の夜、呼夢が聞いてきた。リビングでふたりの時。くつろぐことにして、ソファ―に座って話す。
「僕は写真に関する仕事に。展覧会とかアトリエとか開いて、感動してもらえたら――っていうのもいいし、誰かに写真素材を提供するっていうのでもいいし。今度、賞にも出そうと思ってる」
「へ~」
「呼夢は?」
「私は、服作りの仕事かな、やっぱり。趣味は趣味だけど、好きだしね」
「……そっか」
ここで言おうかとも思った。
この元気な太陽に、いつもそばにいてほしい。好きだ。そう言うだけなのに、なかなか言葉にならない。
「ところでさ」
言われて。
「うん?」
「もうすぐハロウィンでしょ、コスプレ自宅会! しようよ」
満面の笑顔。この輝きに救われる。だから僕は。
「そうだね、しよう。僕も何か着たい」
「ふぉぉお!」
呼夢の部屋に入って、説明を受けた。
「これは『赤糸たどりの黒ゾンビ』に出てくるゾンビの衣装で……こっちは猫国魔軍以下略のゴニャンティアっていう幽化生命体っていう設定の――いわゆるファンタジーの幽霊の衣装。で、こっちは――」
既に場に合う衣装は沢山あるようだった。
結局、『猫国魔軍! スタイル抜群な隊長はいつも口下手』のアンニャス魔導兵の格好になった。黒ズボン、短い黒のノースリーブローブ、赤の長袖と靴下、外用ならそこに深紅の靴も、家の中だからないけど。それに、耳付きの赤黒い三角帽子。
それらは、細部までこだわり抜かれて作られたみたいで、まるでプロの商品群。
当日の夜。
衣装を受け取って自分の部屋に行き、着終わり、やっぱりいつも持っておきたいと思いカメラを手に、また呼夢の部屋に入ると。
「いいじゃん! じゃあこっち、座って? 顔もメイクするよ」
筆が当たる。くすぐったかった。
そこで言いたくなった。
「くすぐったくて思い出したんだけど、そういえば、方言」
「ん?」
「僕の方言では、こしょぐったいって言うんだ」
「へえ~、面白い」
「こういうのってどこが境目なんだろうね」
「どの辺から違う言い方になるかってこと?」
「うん。こしょばい、って言い方もあるしね。こそばゆい、とかも」
「へえ~。……どうなんだろうね、私は、くすぐったい、だなあ」
そんなこんなで顔も完成した。
鏡を見る。姿見で。「おおー」と声が、自然と出てきた。
振り返って笑い合った。
――僕は呼夢に釣り合うように、笑えてるかな。
そんなことも思いながら、呼夢の顔を見た。十分な笑顔を僕に向けてくれている、そんな気がした。
「じゃあ私も最後まで仕上げるね」
言われて、待つあいだカメラの背のデータ画面に集中した。見ながら、今度はどこを撮ろうかなと考えた。
「よしっ、いいよ。行こ」
準備ができたらしい。
顔を上げた僕は……なんだかいいなと思った。
「ちょっと待って」
この部屋を、撮っておきたいと思った。
ミシンや台、大きな机、衣装、姿見、棚、たんす、メイク道具、裁縫箱がある。学校用の物も。あらゆるものがあるこの部屋に、熱を感じた。
だから引いて角度を調節。そして指を動かした。シャッター音が鳴った。
「なんか恥ずかしいな」
呼夢が言った。
「そんなことないよ。プロの姿がそこにある気がしたから」
「そんな……」
照れている姿が、抱き締めたいくらいに可愛い。それを抑えてから僕は。
「ふう。ふふ、まあ今はアレでしょ、この格好で――」
「そうね」
その顔で、いざ、リビングへ。
おじさんとおばさんは、驚いた顔をして、それから笑ってくれた。嬉しくなる。
誰かが受け入れた笑顔を見せてくれると、心が熱で満たされる。
「トリックオアトリート!」
と僕らが言うと、おばさんはこう言った。
「晩御飯ね」
「はぁい」
と呼夢が言って、僕は「あははそうだよね」と笑った。
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