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(呼夢の視点) 想いあふれる丘
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――もしも……もしも月ちゃんから言われる気配がなければ、私から……。
少し前からそう思っていた。
割と日にちは経ってしまっている。
告白におススメのいい雰囲気の場所はどこか、同じクラスの友達の、いつもクールなミトラちゃんに、学校にいる時に聞いてみた。
「あんたのマンションの近くにもいい見晴らしの所があるじゃん、あの、ほら、丘の木のとこ」
「あぁ~……。イイかも!」
ミトラちゃんは月ちゃんやその友達のサダッチくんとも、あのスポーツ施設「スポービル」でいつか遊んだ。その時に、ミトラちゃんに聞けばよかったかもしれない、でも、あの頃からここまでの想いを持っていたかと言うと、どうだったっけ――気持ちは、強くなり始めた頃だとは思うけれど。
誘うのは簡単な気がした――景色が関わってくるから。
ゆるやかな坂を上がった所にあるのが自宅のあるマンション。
更にかなり上がって小さな脇道を進んだ先を直角に曲がり、石の階段を見付け、そこを上がっていくと、小さな丘になった所がある。
そこは盆栽を家くらいに大きくしたような所。木に登って町並みを見てもよし、ブランコがあるのでそこからでもよし、辺りにベンチがあるのでそこからでもよし……そこはそんな見晴らしのいい所。すぐ前は崖で、左右への道はゆるやか。町は少し下へ、遠くに見える。だからこその見晴らし。
ある日の夕方近くになってから、教えようと思った。
でも、もじもじしてしまう。
白のシャツの上に着けた薄い空色のベストの一番上のボタン辺りを、どうしてか、いじいじしてしまいながら、結局たどたどしく教えてしまった。
でも、それをよくよく聞いてくれて。
私が教え終わると、オーバーオールのフレアズボン姿の月ちゃんは、
「え……そんな所があるんなら、行ってみたい。そこで撮ってみたい!」
そう言って顔を輝かせた。
――今、凄く可愛い。
そう思ったことを言わずに、連れていく約束をした。
連れていった時にはもう日も暮れる時だった。
「うわ、やば、凄くいい景色。あの建物、いいね、夕日に染まるのを中心に……木の葉がちょっと写った方がいいかも……ここ凄い立地」
「いっぱい発見があるみたいで、よかった」
「うん、凄いよここ。この木自体もそうだし。そこのベンチもそう。ここ、作り全体がいい、凄く映える」
――私までにやにやしちゃう。……場所は完璧。落ち着け私。
月ちゃんは丘の上の方へ行って、木の前に立ち、揺れる葉が写る位置を探ったみたいだった。
それから少しだけ木に登って――
「ここだっ」
何枚か撮ったらしい音が聞こえた。それから下りてくると。
「めっちゃいい。ここ自体。あっちからも――」
忙しく撮る月ちゃんを見て、その顔を見て、もう感動が止まらなかった。
こんな人がいたんだ――と、私はその純粋に楽しむ姿に、釘付けになった。
ひとしきり撮った月ちゃんは、ベンチに座って、
「ふう、ね、ちょっとここに座って。ここの空気を感じようよ、一緒に」
そう言って私を誘った。
「う、うん!」
月ちゃんが、町並みを背に、夕日を左に、紅葉交じりの大樹を前にして、丘の上のベンチに座った。それを私は木の少し横から見ていた。私も、その左隣に座った。月ちゃんに当たる夕陽をほとんど私が奪った。そして、お腹で穿いている赤いスカートのひだを整えた。
「あのさ」
と、月ちゃんが私に。
急に何を言われるんだろうと思った。
私の今日言いたい言葉を、もし言えなくなるようなことだったら、どうしよう。
――もしそうだったら、聞きたくない……。
顔に出そうな気がして、前を向いて、ブランコの吊り下げられた木を眺めて、
「何?」
そう聞いた。すると。
「僕と付き合ってください。恋愛的な意味で。結婚を前提に」
嘘かと思った。夢かと思った。
――ほんとに? これ、ほんと?
「ダメでしょうか」
私は勢いよく月ちゃんを見た。月ちゃんの顔を。
「ダメじゃないよ! 私も! 月ちゃんが好き!」
「は、はは……そっか……そっか! よかった……!」
月ちゃんは、そう言って震えて、まるで、不安に打ち勝った戦士みたいなポーズをした。
――そんなに勇気を出して私に……。そっか、そんな風に想ってもらえてたんだ……私……。私を想ってくれてた……。
嬉し過ぎて、幸せが涙になった。
目を閉じて、浸る。
「これからは、ずっ、恋人だねっ、ずずっ」
「ふへっ、そうだね。ほら、鼻水」
月ちゃんが差し出したハンカチを、私は受け取ってすぐに鼻に当てた。
「うぅぅ、ずじゅっ」
いい風景の中で、そんな音を立てながら、だからか私達は笑い合った。
誰かが今の私達を撮っても、きっと画になる。そう信じられた。こんなに幸せだから。
少し前からそう思っていた。
割と日にちは経ってしまっている。
告白におススメのいい雰囲気の場所はどこか、同じクラスの友達の、いつもクールなミトラちゃんに、学校にいる時に聞いてみた。
「あんたのマンションの近くにもいい見晴らしの所があるじゃん、あの、ほら、丘の木のとこ」
「あぁ~……。イイかも!」
ミトラちゃんは月ちゃんやその友達のサダッチくんとも、あのスポーツ施設「スポービル」でいつか遊んだ。その時に、ミトラちゃんに聞けばよかったかもしれない、でも、あの頃からここまでの想いを持っていたかと言うと、どうだったっけ――気持ちは、強くなり始めた頃だとは思うけれど。
誘うのは簡単な気がした――景色が関わってくるから。
ゆるやかな坂を上がった所にあるのが自宅のあるマンション。
更にかなり上がって小さな脇道を進んだ先を直角に曲がり、石の階段を見付け、そこを上がっていくと、小さな丘になった所がある。
そこは盆栽を家くらいに大きくしたような所。木に登って町並みを見てもよし、ブランコがあるのでそこからでもよし、辺りにベンチがあるのでそこからでもよし……そこはそんな見晴らしのいい所。すぐ前は崖で、左右への道はゆるやか。町は少し下へ、遠くに見える。だからこその見晴らし。
ある日の夕方近くになってから、教えようと思った。
でも、もじもじしてしまう。
白のシャツの上に着けた薄い空色のベストの一番上のボタン辺りを、どうしてか、いじいじしてしまいながら、結局たどたどしく教えてしまった。
でも、それをよくよく聞いてくれて。
私が教え終わると、オーバーオールのフレアズボン姿の月ちゃんは、
「え……そんな所があるんなら、行ってみたい。そこで撮ってみたい!」
そう言って顔を輝かせた。
――今、凄く可愛い。
そう思ったことを言わずに、連れていく約束をした。
連れていった時にはもう日も暮れる時だった。
「うわ、やば、凄くいい景色。あの建物、いいね、夕日に染まるのを中心に……木の葉がちょっと写った方がいいかも……ここ凄い立地」
「いっぱい発見があるみたいで、よかった」
「うん、凄いよここ。この木自体もそうだし。そこのベンチもそう。ここ、作り全体がいい、凄く映える」
――私までにやにやしちゃう。……場所は完璧。落ち着け私。
月ちゃんは丘の上の方へ行って、木の前に立ち、揺れる葉が写る位置を探ったみたいだった。
それから少しだけ木に登って――
「ここだっ」
何枚か撮ったらしい音が聞こえた。それから下りてくると。
「めっちゃいい。ここ自体。あっちからも――」
忙しく撮る月ちゃんを見て、その顔を見て、もう感動が止まらなかった。
こんな人がいたんだ――と、私はその純粋に楽しむ姿に、釘付けになった。
ひとしきり撮った月ちゃんは、ベンチに座って、
「ふう、ね、ちょっとここに座って。ここの空気を感じようよ、一緒に」
そう言って私を誘った。
「う、うん!」
月ちゃんが、町並みを背に、夕日を左に、紅葉交じりの大樹を前にして、丘の上のベンチに座った。それを私は木の少し横から見ていた。私も、その左隣に座った。月ちゃんに当たる夕陽をほとんど私が奪った。そして、お腹で穿いている赤いスカートのひだを整えた。
「あのさ」
と、月ちゃんが私に。
急に何を言われるんだろうと思った。
私の今日言いたい言葉を、もし言えなくなるようなことだったら、どうしよう。
――もしそうだったら、聞きたくない……。
顔に出そうな気がして、前を向いて、ブランコの吊り下げられた木を眺めて、
「何?」
そう聞いた。すると。
「僕と付き合ってください。恋愛的な意味で。結婚を前提に」
嘘かと思った。夢かと思った。
――ほんとに? これ、ほんと?
「ダメでしょうか」
私は勢いよく月ちゃんを見た。月ちゃんの顔を。
「ダメじゃないよ! 私も! 月ちゃんが好き!」
「は、はは……そっか……そっか! よかった……!」
月ちゃんは、そう言って震えて、まるで、不安に打ち勝った戦士みたいなポーズをした。
――そんなに勇気を出して私に……。そっか、そんな風に想ってもらえてたんだ……私……。私を想ってくれてた……。
嬉し過ぎて、幸せが涙になった。
目を閉じて、浸る。
「これからは、ずっ、恋人だねっ、ずずっ」
「ふへっ、そうだね。ほら、鼻水」
月ちゃんが差し出したハンカチを、私は受け取ってすぐに鼻に当てた。
「うぅぅ、ずじゅっ」
いい風景の中で、そんな音を立てながら、だからか私達は笑い合った。
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