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8章
第86話 エクレアのポジティブ夢想
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断片的な遺跡の跡を頼りに、俺たちはさらに先に進んだ。
無駄に伸びた雑草を鉈で刈り、蔦を切っていく。
先導するエクレアも汗が出て来たのか、額を拭いていた。
「結構疲れるね」
「そうだな。だがお前が先手を切ったんだ。ちゃんと道を作れよ」
「わかっているよ。でもね、こうも雑草が多いと鉈だけじゃ無理なんだよね」
エクレアは左手で持っていた鉈を見た。
刃の部分に枯れ草が纏わりつき、刈った草のエキスが付着している。
そのせいでどんどん切れ味が悪くなっていた。
ましてやこんな所に砥石はないので、エクレアは渋々鉈を振り下ろそうとする。
けれど止めたのはショコラだった。
「こんなことをやっても埒が明かない。全部燃やせばいい」
「えっ? でもそんなことしたら、周りの木も燃えちゃうよ?」
「構わない。それに、見晴らしが良い方が狙いやすい」
ショコラは既に戦闘を見据えていた。
それは俺も同感で、もしもまだガーゴイルを含む悪魔を崇拝しているのなら、森の中に隠れている奴らがいるかもしれない。
それを一気にあぶり出せるのなら好都合だ。
「えー。うーん、それって色々怒られそうなんだけど」
「お前の光は熱エネルギーだろ。熱エネルギーの質量を自由自在に変化させ、物体を構築する」
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「どうもこうもない。極太のビームを生み出せばいんだ。光線を放ち、直線的な道を作ればいいだろ」
どうして思いつかなかったのか。俺はエクレアの盲目なまでの行動力に驚いていた。
いつものコイツなら、それぐらいしてもいいはずだ。
だけど戦闘ではないからか、コイツの頭がやけに鈍い。
「あっ、そっか。獣道通らなくてもいいんだよね。やってみるよ!」
そう言うと、エクレアは《黄昏の陽射し》を展開した。
6つの光の球が1つになり、巨大な熱原体になる。
近づくだけで熱く、触れでもしたら摂氏4000度の高温で焼き払われてしまう。
そんな危険物を、コイツは意のままに操り無力化していた。
全く大した奴だが、ビームにした一撃は目の前の草木を薙ぎ払った。
いや、空洞を開けて消滅させる。
「せーのっ!」
繰り出された熱光線は、蔦を焼き地面から生える雑草まで完全に焼失させる。
水気のある茶色い地面が、乾燥してカピカピになっていた。
さらに周囲を取り囲んでいた木の幹が抉れるように消滅する。
空洞でも開けられたみたいに残った部分だけがそこにある。
「ふぅ。これで歩きやすくなったね」
「「規格外すぎる」」
俺とショコラの意見が被った。
確かに道を作れとは言ったが、これは敵がいたらご愁傷様。
コイツならそんな心配はないだろうが、近くにいたら確実にお陀仏だった。
「やっぱり敵にしたくないな」
「私の銃撃も意味がない」
根底から自信を削ぎ落す規格外に、打ちのめされそう言っていた。
*
それから俺たちの歩くスピードは急上昇した。
目の前に邪魔な草木は一切なく、何処まで行っても真っ直ぐな道が続いていた。
少し目横に向ければ、何が出て来るかもわからない鬱蒼とした森。
地形を完全に真っ二つにしてしまっていた。
「こんなに騒ぎを起こしても、何も出てこないね」
「やはり何もいないんだろうな。おそらくこの空気だ」
「そう言えばさっきは重たかったね。もしかして,ガーゴイルの硬貨を拾った辺りから?」
「そうだろうな。ショコラ、お前も気が付いているだろ」
俺は話をショコラに振ると、首を縦に振った。
「ここは良くない場所」
と言いながら、猟銃の紐をギュッと握り込んだ。
「あれ? ねえ、何か見えて来たよ」
急にエクレアが立ち止まった。
しかしは良好、ここからでも俺たちの目にははっきりを景色が飛び込んでくる。
巨大な石造りの柱や門のような入り口、石碑のようなものが建てられた謎の施設が現れた。
しかしそこに人の気のようなものは感じず、一歩足を前に出した瞬間全身に悪寒がした。
ゾクゾクと体の内側から気持ち悪くて、鬱を誘うような強烈な違和感が叩きつけてくる。
何より酷いのは、体中から近寄りたくないと訴えかけてきたことだ。
「あそこ、行きたくない」
「そうだな。行くのは危険だ」
俺とショコラがそう判断したのだが、エクレアだけは何食わぬ顔だった。
「みんなどうしたの?」
「お前にはこの気配が伝わってこないのか。明らかにマズい空気だ」
「そんなことないよ」
「そんなことある」
ショコラまでもが完全否定した。
けれどエクレアは動じない。太陽の聖剣に導かれた太陽の症状には、このくらいの悪しき空気も鬱に誘う声も通用しないのだ。
「ポジティブポジティブ、みんなといれば怖くない」
「それは違うぞ」
「怖がってもない」
「だったら進めるよね。それに悪魔とか悪いものは明るい気持ちに弱いんだよ。逆に暗い気持ちを好んでしまうの。だからね、そんな悪いものは気持ちの問題でしょ? 全部吹き飛ばしちゃおうよ!」
あまりのポジティブ思考人間に俺は興醒めした。
コイツにはもはや何を行っても通用しない。
カリスマ性も肝の据わり方も訳が違う。コイツに本当の意味で怖いものはないんだ。
「だから、ほら。2人とも、一緒に行こうね!」
俺とショコラはエクレアに手を掴まれた。
コイツの前ではそんな敵も無双されてしまう。
俺の無双とは違う。コイツにとっては、どんな強敵も夢想なんだと痛感した。
無駄に伸びた雑草を鉈で刈り、蔦を切っていく。
先導するエクレアも汗が出て来たのか、額を拭いていた。
「結構疲れるね」
「そうだな。だがお前が先手を切ったんだ。ちゃんと道を作れよ」
「わかっているよ。でもね、こうも雑草が多いと鉈だけじゃ無理なんだよね」
エクレアは左手で持っていた鉈を見た。
刃の部分に枯れ草が纏わりつき、刈った草のエキスが付着している。
そのせいでどんどん切れ味が悪くなっていた。
ましてやこんな所に砥石はないので、エクレアは渋々鉈を振り下ろそうとする。
けれど止めたのはショコラだった。
「こんなことをやっても埒が明かない。全部燃やせばいい」
「えっ? でもそんなことしたら、周りの木も燃えちゃうよ?」
「構わない。それに、見晴らしが良い方が狙いやすい」
ショコラは既に戦闘を見据えていた。
それは俺も同感で、もしもまだガーゴイルを含む悪魔を崇拝しているのなら、森の中に隠れている奴らがいるかもしれない。
それを一気にあぶり出せるのなら好都合だ。
「えー。うーん、それって色々怒られそうなんだけど」
「お前の光は熱エネルギーだろ。熱エネルギーの質量を自由自在に変化させ、物体を構築する」
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「どうもこうもない。極太のビームを生み出せばいんだ。光線を放ち、直線的な道を作ればいいだろ」
どうして思いつかなかったのか。俺はエクレアの盲目なまでの行動力に驚いていた。
いつものコイツなら、それぐらいしてもいいはずだ。
だけど戦闘ではないからか、コイツの頭がやけに鈍い。
「あっ、そっか。獣道通らなくてもいいんだよね。やってみるよ!」
そう言うと、エクレアは《黄昏の陽射し》を展開した。
6つの光の球が1つになり、巨大な熱原体になる。
近づくだけで熱く、触れでもしたら摂氏4000度の高温で焼き払われてしまう。
そんな危険物を、コイツは意のままに操り無力化していた。
全く大した奴だが、ビームにした一撃は目の前の草木を薙ぎ払った。
いや、空洞を開けて消滅させる。
「せーのっ!」
繰り出された熱光線は、蔦を焼き地面から生える雑草まで完全に焼失させる。
水気のある茶色い地面が、乾燥してカピカピになっていた。
さらに周囲を取り囲んでいた木の幹が抉れるように消滅する。
空洞でも開けられたみたいに残った部分だけがそこにある。
「ふぅ。これで歩きやすくなったね」
「「規格外すぎる」」
俺とショコラの意見が被った。
確かに道を作れとは言ったが、これは敵がいたらご愁傷様。
コイツならそんな心配はないだろうが、近くにいたら確実にお陀仏だった。
「やっぱり敵にしたくないな」
「私の銃撃も意味がない」
根底から自信を削ぎ落す規格外に、打ちのめされそう言っていた。
*
それから俺たちの歩くスピードは急上昇した。
目の前に邪魔な草木は一切なく、何処まで行っても真っ直ぐな道が続いていた。
少し目横に向ければ、何が出て来るかもわからない鬱蒼とした森。
地形を完全に真っ二つにしてしまっていた。
「こんなに騒ぎを起こしても、何も出てこないね」
「やはり何もいないんだろうな。おそらくこの空気だ」
「そう言えばさっきは重たかったね。もしかして,ガーゴイルの硬貨を拾った辺りから?」
「そうだろうな。ショコラ、お前も気が付いているだろ」
俺は話をショコラに振ると、首を縦に振った。
「ここは良くない場所」
と言いながら、猟銃の紐をギュッと握り込んだ。
「あれ? ねえ、何か見えて来たよ」
急にエクレアが立ち止まった。
しかしは良好、ここからでも俺たちの目にははっきりを景色が飛び込んでくる。
巨大な石造りの柱や門のような入り口、石碑のようなものが建てられた謎の施設が現れた。
しかしそこに人の気のようなものは感じず、一歩足を前に出した瞬間全身に悪寒がした。
ゾクゾクと体の内側から気持ち悪くて、鬱を誘うような強烈な違和感が叩きつけてくる。
何より酷いのは、体中から近寄りたくないと訴えかけてきたことだ。
「あそこ、行きたくない」
「そうだな。行くのは危険だ」
俺とショコラがそう判断したのだが、エクレアだけは何食わぬ顔だった。
「みんなどうしたの?」
「お前にはこの気配が伝わってこないのか。明らかにマズい空気だ」
「そんなことないよ」
「そんなことある」
ショコラまでもが完全否定した。
けれどエクレアは動じない。太陽の聖剣に導かれた太陽の症状には、このくらいの悪しき空気も鬱に誘う声も通用しないのだ。
「ポジティブポジティブ、みんなといれば怖くない」
「それは違うぞ」
「怖がってもない」
「だったら進めるよね。それに悪魔とか悪いものは明るい気持ちに弱いんだよ。逆に暗い気持ちを好んでしまうの。だからね、そんな悪いものは気持ちの問題でしょ? 全部吹き飛ばしちゃおうよ!」
あまりのポジティブ思考人間に俺は興醒めした。
コイツにはもはや何を行っても通用しない。
カリスマ性も肝の据わり方も訳が違う。コイツに本当の意味で怖いものはないんだ。
「だから、ほら。2人とも、一緒に行こうね!」
俺とショコラはエクレアに手を掴まれた。
コイツの前ではそんな敵も無双されてしまう。
俺の無双とは違う。コイツにとっては、どんな強敵も夢想なんだと痛感した。
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