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3章
第18話 西の鉱山に行くまで
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道中は特に手こずることもなく順調に進むと思っていた。
しかしそれは真っ赤な嘘だった。
俺の予想も予感も全て無視して辛かった。
「今思ったんだが、西の鉱山って」
「ここから20キロ先だよ」
「20キロ……しかも道中には森もある。遠いな」
正直面白くない。俺は努力も苦労もあり気だと思っている。けれど底からなる達成感が欲しいのもある。
本心からは長閑で静かに暮らしたい。だけどどこか人間味のある緊張感も欲しい。
強欲な俺だが流石に楽しくないこともある。停滞じゃない。超超々面倒臭いことを押し付けられた時だ。つまり今である。
「流石に20キロはないだろ。しかも淡々と……もう一つ言えば全部こっち持ちなのが」
「腹が立つの?」
「いいや、杜撰だな」
正直引き受けた以上気を引き締める。
面白くはないが嫌いではない。俺の言う面白いは色々なものに出会い触れ、高揚感を味わえることだ。
ただし嫌いなことは無理難題を押し付けられて頼られ過ぎてこき使われること。
それで他人からの“全部アイツに任せておけばいいや”的な空気だ。今の現状は、面倒ごとを押し付けられたそれに近い。だから巻き込まれたくなかった。
「冒険者ランクの上げすぎは目立つからな。正直上げるべきじゃなかった」
と俺は思ってしまったが、エクレアはそんなこと気にしない。
随分と楽しそうだ。
「ふんふふーん。ふふーん!」
「楽しそうだな」
「うん、だって楽しいんだもん」
エクレアは素直だった。この間見せた暗い表情とは真逆の太陽のような笑みだった。
けれど俺はエクレアのようにはなれない。なる気もない。
「どうしてそんなに楽しそうなんだ」
「だって楽しいでしょ。これから行くのはまだ行ったことがない場所でしょ。わくわくするよ!」
「それはそうだが……もうどうでもよくなってきた」
「それでいいと思うよ。カイ君は面倒に考えすぎなの。全部取っ払って、嫌なことは嫌でいいんだよ。楽しいことだけ見つけて全力で飛び込む。それが楽しいを満喫する大前提だよ」
そう言われればそうだ。なんだか心の煮凝りが取れた気がする。
今まで考えたことにない純粋な発想に心を打たれ、俺は少しだけ笑みを零す。
するとエクレアも微笑んでくれて楽しかった。話をするのはやはり一番楽しい。勇者パーティーの頃を思い出す。
「あいつらとの思い出も今思えば違う目線で見られるな」
「何か言った?」
「何でもない。よし、少し飛ばすぞ」
俺は淡々と答え、エクレアを抜き去る。
背後からは「ちょっと待ってよ!」と駆け出すエクレアの足音。
俺は今が楽しかった。
*
一方の勇者達——
「はぁはぁ……何でよ。全然倒れないじゃないの!」
マーリィは泣き言を吐いた。
リオン達も黒龍に対峙し死闘としてしのぎを削っていた。
火山地帯と言うこともあり、体力が限界値を迎えそうだ。
ここまでの死闘は一方的と言ってもいい。当然黒龍の方が優勢だった。
「やっぱりカイがいてくれたおかげで今まではやってこれたんだな」
「そうね。カイはいつもいい活躍をしてくれたものね」
「あはは、そうだね。やっぱりカイの力が欲しいよ」
勇者は星の聖剣を振りかざし、黒龍に立ち向かう。
火山のマグマが流れる大地を踏み込んで、得意の身体能力で高らかに飛び上がる。
そのまま剣を振り下ろすものの、なかなかに硬い。
「くっ! やっぱり効かない」
リオンは奥歯を噛んだ。
フレアとバレットもリオンに合わせて攻撃を仕掛ける。
けれどダメージがそこまでない。流石は黒龍の鱗だ。リオン達は苦汁を舐めつつ感心した。
「ちょっと、早く倒しなさいよ!」
「そういうマーリィも魔法をかけてよねっ!」
「仕方ないでしょ。魔力もう切らしているんだもん」
「使えない回復役ね。それだから魔力の無駄使いは控えてって言ったのよ!」
「うるさいわね。貴方が何とかしなさい。ねえ、リオン様」
「ちょっと黙って欲しいな。正直かなりキツい」
リオンは【勇者】として勝たなければならなかった。
しかし黒龍は依然としてリオン達を見下ろしていた。こんな時カイがいてくれたらと思うと、マーリィの選択が悔やまれる。
「カイならどうする。こんな時カイなら……」
不意に【武器屋】と呼ばれていた仲間のことを考える。
カイならどうするのか。今ここにいないかつての仲間のことを想像する。
けれど今はやるしかない。半分力が入っていないものの、気力と使命感から剣を振るう【勇者】は【勇者】の体をなしていなかった。
それが今のリオンであり、欠けてしまった歪なパーティーだった。
しかしそれは真っ赤な嘘だった。
俺の予想も予感も全て無視して辛かった。
「今思ったんだが、西の鉱山って」
「ここから20キロ先だよ」
「20キロ……しかも道中には森もある。遠いな」
正直面白くない。俺は努力も苦労もあり気だと思っている。けれど底からなる達成感が欲しいのもある。
本心からは長閑で静かに暮らしたい。だけどどこか人間味のある緊張感も欲しい。
強欲な俺だが流石に楽しくないこともある。停滞じゃない。超超々面倒臭いことを押し付けられた時だ。つまり今である。
「流石に20キロはないだろ。しかも淡々と……もう一つ言えば全部こっち持ちなのが」
「腹が立つの?」
「いいや、杜撰だな」
正直引き受けた以上気を引き締める。
面白くはないが嫌いではない。俺の言う面白いは色々なものに出会い触れ、高揚感を味わえることだ。
ただし嫌いなことは無理難題を押し付けられて頼られ過ぎてこき使われること。
それで他人からの“全部アイツに任せておけばいいや”的な空気だ。今の現状は、面倒ごとを押し付けられたそれに近い。だから巻き込まれたくなかった。
「冒険者ランクの上げすぎは目立つからな。正直上げるべきじゃなかった」
と俺は思ってしまったが、エクレアはそんなこと気にしない。
随分と楽しそうだ。
「ふんふふーん。ふふーん!」
「楽しそうだな」
「うん、だって楽しいんだもん」
エクレアは素直だった。この間見せた暗い表情とは真逆の太陽のような笑みだった。
けれど俺はエクレアのようにはなれない。なる気もない。
「どうしてそんなに楽しそうなんだ」
「だって楽しいでしょ。これから行くのはまだ行ったことがない場所でしょ。わくわくするよ!」
「それはそうだが……もうどうでもよくなってきた」
「それでいいと思うよ。カイ君は面倒に考えすぎなの。全部取っ払って、嫌なことは嫌でいいんだよ。楽しいことだけ見つけて全力で飛び込む。それが楽しいを満喫する大前提だよ」
そう言われればそうだ。なんだか心の煮凝りが取れた気がする。
今まで考えたことにない純粋な発想に心を打たれ、俺は少しだけ笑みを零す。
するとエクレアも微笑んでくれて楽しかった。話をするのはやはり一番楽しい。勇者パーティーの頃を思い出す。
「あいつらとの思い出も今思えば違う目線で見られるな」
「何か言った?」
「何でもない。よし、少し飛ばすぞ」
俺は淡々と答え、エクレアを抜き去る。
背後からは「ちょっと待ってよ!」と駆け出すエクレアの足音。
俺は今が楽しかった。
*
一方の勇者達——
「はぁはぁ……何でよ。全然倒れないじゃないの!」
マーリィは泣き言を吐いた。
リオン達も黒龍に対峙し死闘としてしのぎを削っていた。
火山地帯と言うこともあり、体力が限界値を迎えそうだ。
ここまでの死闘は一方的と言ってもいい。当然黒龍の方が優勢だった。
「やっぱりカイがいてくれたおかげで今まではやってこれたんだな」
「そうね。カイはいつもいい活躍をしてくれたものね」
「あはは、そうだね。やっぱりカイの力が欲しいよ」
勇者は星の聖剣を振りかざし、黒龍に立ち向かう。
火山のマグマが流れる大地を踏み込んで、得意の身体能力で高らかに飛び上がる。
そのまま剣を振り下ろすものの、なかなかに硬い。
「くっ! やっぱり効かない」
リオンは奥歯を噛んだ。
フレアとバレットもリオンに合わせて攻撃を仕掛ける。
けれどダメージがそこまでない。流石は黒龍の鱗だ。リオン達は苦汁を舐めつつ感心した。
「ちょっと、早く倒しなさいよ!」
「そういうマーリィも魔法をかけてよねっ!」
「仕方ないでしょ。魔力もう切らしているんだもん」
「使えない回復役ね。それだから魔力の無駄使いは控えてって言ったのよ!」
「うるさいわね。貴方が何とかしなさい。ねえ、リオン様」
「ちょっと黙って欲しいな。正直かなりキツい」
リオンは【勇者】として勝たなければならなかった。
しかし黒龍は依然としてリオン達を見下ろしていた。こんな時カイがいてくれたらと思うと、マーリィの選択が悔やまれる。
「カイならどうする。こんな時カイなら……」
不意に【武器屋】と呼ばれていた仲間のことを考える。
カイならどうするのか。今ここにいないかつての仲間のことを想像する。
けれど今はやるしかない。半分力が入っていないものの、気力と使命感から剣を振るう【勇者】は【勇者】の体をなしていなかった。
それが今のリオンであり、欠けてしまった歪なパーティーだった。
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