異世界妖魔大戦〜転生者は戦争に備え改革を実行し、戦勝の為に身を投ずる〜

金華高乃

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第25章 帝国皇后クーデターと落日の堕天戦乙女編

第4話 帝都のクーデターは成功するも

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・・4・・
 四の月十六の日、午後三時半。
皇后特別勅令、すなわちクーデターは実行に移された。今日こんにちになるまで、いつでも事が起こせるようにしていたルシュカは協力者達に『全ては皇后陛下と帝国の為に』を合言葉に即時行動を開始。協力者である軍関係者が動いた事で速やかに帝都駐屯の二個近衛師団と帝都西部近郊の第二師団が帝都の制圧にかかる。
 知らなかった者達、無防備だった者達がほとんどだったこともあり、計三個師団は僅か三時間から四時間程度で帝都全域を掌握。帝国中枢はルシュカが握ることになった。
 対して、帝国の頂点たるレオニードは為す術もなかった。帝都より離れた場所にいた事も大きいが、帝国中枢の、それも帝国軍上層部のかなりをルシュカが押さえていたことでこれを鎮圧する事など出来るはずも無い。
 さらに不運だったのは、演習先の師団の師団長も内通者の一人だった点である。これでレオニードは一切の抵抗が出来なかったばかりかいとも容易く捕縛される事になる。
 これらクーデターだけについては皇帝レオニードの身柄拘束を含め夜までには完了。帝都周辺だけは目処がついた。
 しかし、肝心の前線については通信網がズタズタになっていることからクーデターの件は伝わっておらず、前線司令部の一つであるムィトゥーラウも通信不能状態。クーデターに関わって送信するべき情報もドエニプラへの連絡がやっとという状態であった。
 一番重要な点である帝都がとりあえずの解決をしたものの、次のステップに中々事が運べないことに、ルシュカは一抹の焦りを覚えていた。


・・Φ・・
4の月17の日
午前10時前
帝都・レオニブルク
皇宮正面玄関付近


 アカツキ達統合軍が逆襲戦と言わんばかりに快進撃を続け、リシュカ達帝国軍前線部隊が敗走するか包囲殲滅を受けている頃、帝都では一時期の混乱はだいぶ落ち着きつつあった。
 ルシュカを筆頭とするクーデター部隊は決行後に速やかに治安維持へと移行し、おおよそクーデターという言葉から想起させられるような騒乱はあまり見られなくなっていた。
何せクーデターを起こしたのが皇后たるルシュカである。目に見えて生活が苦しくなる庶民と、ルシュカの息がかかった戦争の趨勢を悟った軍人達からすると現状のレオニードの治世に不満を持つものは少なからずおり、ルシュカが戦争を止めるのならばと早くも僅かな希望を見出していたからである。
 ただ、とうのルシュカはレオニードが到着するまでの間でも落ち着きはあまり無かった。

「レオニード陛下があと少しで到着するのは分かりました。前線への通信はどうですか?」

「ドエニプラまでが精一杯です。そこから先は統合軍によってあちこちで寸断されており、肝心の実働部隊にはとても今すぐ通信を送れておらず……」

「よろしくない状況ですね……。一分一秒でも早く、クーデターが成功し前線に私の勅令で参謀本部から命令を届けたいというのに……」

「少なくともドエニプラには通信は届きました。自分の名前で強く命令し、受諾はしておりますから、ドエニプラに後退した各軍もそれに従うかと」

「分かりました。参謀総長、引き続き通信を送り続けなさい」

「御意!」

 参謀総長は足早に去っていくと、ルシュカはため息をつく。

(私の命令を素直に受け取る者がどれくらいいるかは分かりませんが、出来る限り早く伝えないと……。帝都の根回しは以前から行ってましたからいいとしても、前線に出向いている彼等まではあまり進んでいなかった……。機密性の問題もありましたから仕方ありませんが、どれくらい勅令を素直に受け取ってくれるか……。)

 悔やんでいても仕方ない。やるべき事をするしかない。
 すぐに思考回路を切り替えたルシュカは、正面玄関前で、愛しい人を待つ。
 十数分後、レオニードを乗せた蒸気自動車や車列が到着する。
 すぐにルシュカは駆け寄る。こんなことをしたのだから、罵倒の一つや二つ、それ以上も覚悟はしていた。
 蒸気自動車のドアが開くと、手錠だけでなく反抗を防ぐ為に魔力封印の首輪もつながれたレオニードが姿を現す。いつものような覇気はどこにも無かった。
 ルシュカをチラリと見ると、視線の奥に侮蔑は篭っておらず、ただただ無気力そうな様子であった。
 レオニードは捕縛された側だから誰も敬礼しない。ルシュカも周りへの威厳を示す為に声はかけなかった。
 レオニードはポツリと言った。

「…………なぁ、ルシュカ。…………どうしてこんなことをした」

「……全ては愛しいアナタの為です。このままでは、帝国も、アナタも……」

 ルシュカはそれだけを返す。次に来る言葉はなんだろうか。やはり次こそ罵詈雑言だろうか。
 しかし違った。

「そうか……。俺の為か……」

 どこか達観した様子だった。抵抗する素振りも無ければ、クーデターを起こされた側として見苦しい姿も見せない。
 予想していなかった反応にルシュカは戸惑うものの、今は自分が臨時とはいえ――明日にでも正式に自分に主権が移るようにはするつもりだが――トップだ。それらしい振る舞いをしなければとルシュカは思い、

「レオニード様を軟禁の為に皇宮内私室、リビングに移します。監視部隊はついてきなさい」

「御意」

 ルシュカは用意していた監視部隊と共にレオニードを連れてリビングへと歩く。この様子ならわざわざ手荒く牢獄へ入れるような必要も無いだろうし、ルシュカはそうしたくはなかった。
 リビングへつくとルシュカは、

「ここから先は私だけで十分。皇宮周辺の警備は厳となさい」

「はっ」

 ルシュカはレオニードを連れてリビングへと入る。

「どうぞ」

「ああ」

 レオニードをソファに案内すると、いつものようにルシュカは隣に座った。それに対してレオニードは嫌悪感は示さなかった。
 しばらくすると紅茶が運ばれる。ルシュカは紅茶に口をつけ、レオニードも一口飲むと口を開いた。

「…………いつから、考えていた?」

「あらゆる事態を想定するようになったのは、だいぶ前からです。でも実行計画まで考えたのは、年が明けてしばらく経ってからでしょうか」

「そうか……。さっきも問うたが、なぜ?   どうせお前のことだ。個人的感情以外に、いくらでも理由があるだろう」

「先月に確信したのですが、このままでは帝国は遅かれ早かれ崩壊すると思いました。第三次動員、死傷者数、軍の状況、経済状況……。もしオディッサまで到達したとて、そこが攻勢限界点になるだろう、と。先生(リシュカ)は強気にその先まで進めると思っているでしょうけど、進めたとて、です。軍の前に、経済が持たないと……」

「皮肉なものだな。奴が教えた知識が、こうしてお前に答えをもたらすなんて」

 レオニードは力なくだが鼻で笑う。まさに皮肉だからだ。

「先生には感謝していますけれどもね。どちらにしても、帝国軍や帝国そのものを考えれば総力戦は早かったのです。いえ、正確に言えば帝国は総力戦に耐えうる国力を持ってはいますが、このまま続ければ今後数十年に響きます。だから、こうしました。後押ししたのは、サンクティアペテルブルクとやはり今回の件です」

「…………今も、ダメか」

「ドエニプラまでが限界です。そこから先は通信がまともに届いておりません」

「で、あろうな。しかしどうする。ドエニプラより西方には我が軍の大半がいるが、それがほとんど行方知れずということだろう」

「はい。恐らくここ数日でドエニプラに着く部隊もありますから、その時に知ることにはなるでしょうし、今も通信回復をドエニプラを経由して試みていますから、いずれは」

「通信網の弱さが仇になっている、と」

「はい」

 レオニードも皇帝であるし、無能ではない。報告は逐次聞いているから状況は多少頭を回せば分かるもの。故に深刻さも感じていた。

「ところで、お前はどんな通信を送ったんだ?」

「皇后の権限を用いて代理勅令を発しました。内容は、『リシュカ・フィブラの傀儡となったレオニード陛下では、このままでは帝国は滅亡しかねない。よって皇后として、出血も辞さない手術を行う。各軍は戦闘行動を停止し、統合軍に対して本件を伝えた上で一時停戦するように』と」

「………………お前は、師を裏切る事になるぞ?」

「そうでしょうね。でも、私は先生よりあなたが大事ですから。帝国も大事ですが、一番は陛下。あなたです」

「いつもなら嬉しいことを言ってくれると、返せるんだがな。いや、嬉しくないわけじゃないぞ?」

「存じております」

 ここでようやく、レオニードが普段の微笑みを、ルシュカにしか見せない笑みを零した。
 だが、彼はすぐにため息をつく。

「しかし、奴を裏切るの代償は大きいぞ」

「ええ、大きいでしょう。殺されるのは間違いありませんね。あの方にはそれだけの力もある。陛下と同程度か、それ以上ですもの」

「死ぬで済めばいいけどな。あいつは一度統合軍に裏切られているんだぞ。お前に裏切られたとなれば、俺とてどうなるか予想は出来ん。ああでも、一つだけは言えるかもしれんな」

「なんでしようか?」

「お前、さすがに前線の指揮官共までは自分側につけていないだろ」

「はい。時間が足りませんでしたので。多少は息をかけて置いてますから、ある程度は従ってくれますし、勅令は絶対です。従う者も多いかと思いますが」

「半分正解だ。お前が出した勅令で半分以上は従うだろう。例えばシェーコフ。奴なら従う」

「シェーコフは死にました。三十分ほど前に、ドエニプラから報告が。か細くなった通信で、やっと届いたのがそれでした」

「そうか……。となると、北部軍集団はもうダメだな。統合軍にやられておしまいだ。勅令が届けば従うだろうよ」

 レオニードは視線を下に落とす。いかに冷酷と言われる皇帝とて、有能な臣下を失うのは心痛いらしい。

「そうしております」

「流石だな。だが、半分不正解だ。理由は分かるか?」

「南部軍集団でございますか?   先生も消息不明ですが」

「なら生きてるだろうよ。奴が死ぬとは思えん。そうなると、非常に、非常に厄介だ」

「厄介とは……?」

「奴が生きていたとして、だ。素直に従うと思うか?」

「従わない可能性はあります」

「だろう。そして、前線の指揮官共全てをお前は掌握していない」

「ですが、大半は従うでしょう。勅令は絶対です」

「甘いな。確かに指揮官共は大抵従うだろうさ。だが、奴に関わり深い連中と不幸な事に奴の近辺にいた連中はどうなると思う?」

「…………脅されて、やむなく戦うと?」

「当然だ。その場で誰も死にたくはないし、奴の能力は圧倒的。逆らえん。俺が指揮官共なら逆らわない」

「ならば、既に掌握をしつつあるドエニプラだけでなく、掌握済みのセヴァストゥーポラからの補給路も絶ちましょう。ただでさえこの状況なのですから、まとめあげた所で早晩干上がります」

「…………お前も大概残酷で冷酷だな」

 そこまで考えたか、とレオニードは少し驚き目を見開いた。

「全てはあなたの為ですから。終戦した後も、せめて一緒にだけはいられるように。その為なら、私はなんだってします」

「俺の為だけにか?」

「はい」

 ルシュカの固い決意に、レオニードはこれ以上は何も言わない方がいいと判断した。まして、愛している自分のためだと言われてしまえばルシュカに依存している彼なら尚更だった。

「今不明になっている戦況の全容次第だが、戦争は終わるだろうさ。悔しい事にこの帝国の敗北でな。その時、お前は俺を生かし俺と過ごす為の工作から交渉までするだろう。だがな、最後の最後に地獄になるかもしれんな。リシュカ、奴によって」

「そこは、統合軍に頑張ってもらいます。もちろん、我が軍にも。先生が反旗を翻すのならば、賊軍として扱うまでです。大義名分はあるのですから」

「…………逞しくなったな、お前も」

「ありがとうございます……?」

「……まあいい。とにかく、恐らく奴についてはお前の思う通りにはいかんだろう。結末は同じかもしれないが、確実にな。だからこそ、奴の抵抗を出来る限り減らしておけ」

「はい、陛下。私の愛しい人」

 レオニードとルシュカの関係はクーデターを経ても変わらなかった。
 翌日の内に、レオニードはルシュカに全権限を剥奪され――しかもレオニードがルシュカの命令を絶対とし逆らわないようにとの厳命付きで――帝国の全権は正式にルシュカに移行した。
 しかし、これが伝わったのはドエニプラから東方に限った話であり、前線で伝わるのは遅くなってしまう。
 そして、この遅延がレオニードの言う通り、結末がどうであれルシュカの思い通りにいかない一因となってしまうのであった。
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